テラーノベル
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どれくらい経っただろうか。
激しく打ち付けられていたお互いの鼓動が少しずつ落ち着き、重く落ちていた瞼をゆっくりと開く。
目の前には、息を荒らせながら心底心配そうに自分を覗き込んでいる瑞樹の顔があった。
「……柊吾さん!? 大丈夫ですか……っ、すみません、気持ち良さそうな顔見たら歯止めが効かなくなって……痛かったですか!?」
狼狽えながら顔を覗き込み、オロオロと汗ばんだ前髪を優しく撫でてくれる瑞樹。さっきまでの肉食獣のような激しさと威圧感はどこへやら、今の彼には自分を気遣う優しさと焦りしか見当たらない。そのあまりのギャップの大きさが可笑しく、同時に愛おしくて堪らなくなった。
「……ふふ……っ」
まだ重い快感の余韻で熱い身体を引きずりながら、見上げてくる瑞樹の瞳へ、柊吾はふにゃっと柔らかく微笑みかける。
「……すごく、気持ちよかった……です……」
溢れ出た素直な感情をそのまま言葉に乗せた途端、瑞樹は大きく目を見開き、あからさまに面食らった様子でフリーズしてしまった。
「……っ」
さっきまでの自信に満ちた余裕など影も形もない。ガタッと目に見えて動揺を示すと、瑞樹は咄嗟に片手で口元を覆い、逃げるように横を向いてしまう。しかし、整った指の隙間から覗く耳の先端から首筋にかけて、みるみるうちに朱を挿したような赤みが広がっていくのを、柊吾が見逃すはずもなかった。
「……反則です、ホントに……」
指の陰から、低く掠れた声でボソリと漏れ出た呟き。
畳みかけるような激しさで自分を翻弄してきた男が見せる、あまりにも純情で無防備な反応。柊吾はぽかんと目を丸くさせた後、じんわりと胸の奥が温かい心地で満たされていくのを噛み締める。
(もしかして……僕の言葉で、照れてる……?)
この年齢まで誰とも経験がないと明かした際、引かれるどころか狂おしいほどの愛おしさで包み込んでくれた。そればかりか、行為が明けた後もこうして情けないほど真っ赤になって困惑している。その姿が愛おしくて、愛おしくて、もう胸が破裂しそうだった。
柊吾はまだ力の入らない腕をゆっくりと伸ばし、瑞樹の広くて温かい胸元へそっと自分の顔を埋める。肌越しに伝わる高揚と、トクトクと激しく打ち付けられている男の鼓動を肌で直接感じつつ、その背中へ回した腕にほんの少しだけ力を込めた。
「……黒瀬さん、だいすきです」
胸元へ直接届けるように甘く囁かれた告白。
瑞樹は息を詰まらせ、大きく肩を揺らしたかと思うと、参ったと言わんばかりに自嘲気味な笑みを零す。
「……反則の重ねがけはズルいですって。……俺もですよ、柊吾さん。大好きです」
愛おしさが上限を突き破ったかのような低い声が耳元を揺らし、瑞樹の手が柊吾の背中と腰を強い力で引き寄せた。押し潰さんばかりの勢いで抱きしめ返され、その力強い体温に包まれながら、柊吾は誇らしさと多幸感の中で深く瞳を閉じるのだった。
#婚約破棄
霞花怜
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コメント
1件
ああ、もう…この余韻、ずるいですよ、かんなさん…!(笑) 瑞樹のギャップが本当に愛おしくて——あれだけ激しく主導しておいて、柊吾さんに「気持ちよかった」って素直に言われただけで耳まで真っ赤にして照れちゃうの、反則級の破壊力でした。あの「反則です、ホントに…」って掠れた声、たまらないです。 そして何より柊吾さんが自ら胸元に顔を埋めて「だいすきです」って甘やかに囁くシーン…もう、心臓がきゅっとなりました。お互いがお互いにしか見せない顔を重ねていく、その距離の縮め方が本当に丁寧で、読んでいて温かい気持ちになりました。大好きです、この二人。