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#婚約破棄
霞花怜
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読み終わりました、第74話。もうね、朝の空気感が完璧すぎて胸がきゅっとなりました。布団に隠れる柊吾さんの反応が可愛いの一言……でもそれ以上に、瑞樹さんの「確認です」って言いながら内腿撫でる手つきの優しさと狡猾さがたまらない。殺風景な部屋描写と、イグサや味噌汁の匂いの対比が、二人の距離感が変わった朝を静かに物語っていて、すごく好きです。
柔らかな光が、障子の隙間から細く差し込んでいる。
その光に促されるように、柊吾はゆっくりと目を覚ました。
鼻腔をくすぐる、爽やかなイグサの匂い。自分の部屋なら、とっくに薄れているはずの畳の香りに、微かな違和感を覚える。
ここは、一体どこだろう。
見覚えのある天井。どこか似通った間取り。一瞬、自分の部屋かと思ったが、窓から差し込む明るい光に目を細めた。
(僕は一体……)
まだぼんやりとした頭で考える。
昨夜は瑞樹と一緒に花火を見に行き、そのまま瑞樹の部屋へ連れ込まれて、そして――……。
「……っ」
そうだ。
自分は昨夜、瑞樹と熱い一夜を過ごしたのだ。
(ということは、ここは……黒瀬さんの部屋? 散らかっているって言っていたけど、何もない……)
身体を起こすと、室内には布団以外、タンスひとつ置かれていなかった。どこか殺風景な空間が広がっている。
我が家なら物で溢れている部屋も、瑞樹の家では、余計な生活感が綺麗に削ぎ落とされていた。
改めて手元へ視線を落とす。
身につけているのは、自分には大きすぎる上質なシャツ一枚だけだった。裾は太ももまで覆っているものの、下着を穿いていない下半身はほとんど露わになっている。
昨夜の甘く激しい記憶が一気に蘇り、柊吾の顔は耳の裏まで真っ赤に染まった。
「っ……あ」
少し身体を動かしただけで、腰の奥に甘い痺れと重さが残っているのが分かる。困惑と気恥ずかしさに身を縮めていると、どこからともなく、出汁と味噌の芳しい匂いがふわりと漂ってきた。
(美味しそうな匂い……)
空腹を刺激する匂いに意識を向けた、その時だった。
廊下から、パタパタと静かな足音が近づいてくる。
古い襖が、すうっと開いた。
現れたのは、銀縁の眼鏡をかけた瑞樹の姿だった。
「……っ」
昨日の今日で、どんな顔をして会えばいいのか分からない。柊吾は咄嗟に頭から布団を被り、身を隠した。
視界が真っ暗になる。
掛け布団越しに、瑞樹がくすりと小さく吹き出す気配が伝わってきた。すり、と畳を擦る足音が近づき、枕元で膝をつく気配がする。
「そんなに隠れなくても。……どこか痛むところはありませんか?」
布団越しに掛けられた声は、昨夜の情熱的なものとは違って、どこまでも穏やかで優しい。
柊吾は布団の中でぎゅっと目を瞑りながら、か細い声を絞り出した。
「だ、大丈夫……です……っ」
「そうですか? じゃあ、顔を見せてください」
「だ、だめ……っ」
ゆっくりと布団の端がめくられそうになり、柊吾は慌てて端を握り直した。
「だめ、ですか」
「……っ。だ、だって……恥ずかしいです」
「昨夜、もっと恥ずかしいことをしたのに?」
「っ! い、言わないでくださいっ」
瑞樹が、喉の奥でくつくつと笑う。
次の瞬間、足元の布団がゆっくりと剥がされ、露わになった素肌へ、熱い掌がするりと入り込んできた。
「っ! く、黒瀬さん……っ!?」
下着を穿いていない素肌へ直接触れられ、その温もりに、昨夜の情熱が嫌でも蘇る。柊吾は身体を跳ねさせ、慌てて身を縮めた。
「痛むところはないと言っても、無理をしては困りますから」
優しくも力強い手つきで、内腿をゆっくりと撫で上げられる。
「や……っ。あ、悪戯しないでくださいっ」
「悪戯ではありませんよ。確認です。……本当に、大丈夫ですか?」
囁くような声とともに、布団が足元から少しずつ剥がされていく。
必死に抵抗しようと布団を握りしめていた指先も、瑞樹の大きな手に上からそっと包み込まれた。思いのほかあっさりと力を解かれ、柊吾の手が布団の上へと落ちる。
光の中へ身体を晒された瞬間、眩しさに耐えきれず、柊吾は両手で顔を覆った。
「ふふ。やっぱり真っ赤ですね。可愛いですよ」
枕元にしゃがみ込んだ瑞樹は、柊吾の手を優しく退ける。そして、露わになった目元へ、愛おしそうにそっと唇を寄せた。