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降りしきる雪が、返り血で汚れた俺の視界を白く染めていく。
奥多摩の山道を、奪った四駆の車で疾走する。
後部座席には、猿ぐつわを噛まされ、ガタガタと震え続ける中臣代議士が転がっている。
「……親父が死んで、今度は雪か。地獄も案外、冷え込むもんだな」
俺はハンドルを握る志摩に、力なく呟いた。
左肩の傷は感覚がなくなり、逆に全身を突き刺すような悪寒が襲ってくる。
「黒嵜、意識を飛ばすな。…次は新宿、榊原組の本部ビルだ。あそこは今、親父の死を知った幹部たちが、次の椅子を狙って殺気立ってるはずだ」
志摩の声も、かつてないほど沈んでいた。
奴だって、長年追ってきた宿敵が目の前で果てるのを見たんだ。
「親父の椅子の下……あそこに何があるにせよ、それが俺の最後の仕事だ」
俺は懐にある二振りのドスを確かめた。
一つは俺の、もう一つは親父の。
二つの魂が、今、俺の腰元で重なっている。
車は都心へと入り、不気味なほど静かな新宿の街を突き進む。
榊原組本部
そこは俺が育ち、若頭として君臨した場所。
だが今、その巨大なビルは、欲望に飢えたハイエナたちが集まる、死の箱舟に見えた。
「志摩。中臣はあんたに預ける。…こいつは、生きて『真実』を吐かせるための大事な道具だ。俺がビルに入っている間、絶対に死なせるなよ」
「……分かってる。だが、お前こそ…あそこには、大門の生き残りや、中臣と通じている警察の犬がまだ潜んでいるぞ」
俺は答えず、車を降りた。
雪の降る歌舞伎町。
俺を見守ってきたネオンの光が、今日はやけに遠く感じる。
ビルの正面玄関。
そこには、俺を「反逆者」として指名手配したはずの、見知った顔の若い衆たちが立っていた。
「黒嵜の…兄貴? なんで、ここに……」
「……道を開けろ。俺は親父の遺言を受け取りに来ただけだ」
俺の全身から溢れ出す、人間を辞めた者特有の殺気に若い衆たちが言葉を失い
一歩、また一歩と退いた。
ドスの柄に手をかけたまま、俺はゆっくりとエレベーターへ向かう。
最上階、組長室────
そこが、俺にとっての最後の戦場だ。
俺の歩む道に、もはや朝日が昇ることはない。
ただ、拓海と親父の想いだけを連れて、俺は闇の最深部へと、一人で戻っていく。