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俺が今、RBの曲を歌ったら、いくら鈍感な彼女でも一発で気づくだろう。

俺の歌をこの十六年で空色は死ぬほど聴いてきただろうが、徹底してラジオやインタビュー、歌番組は勿論のこと、ライブのMCでさえ一切声を出さなかった俺の喋り声を彼女は知らない。だから俺が話をしているだけでは気が付かないんだろうけれど。


それでも、なあ。

勘違いもたいがいにしろって思う。

歌わないと俺ってわからんの?


そこのフォトスタンドでポーズ決めてる上半身裸の男と同一人物が、お前の目の前におるんやって言ってやりたい。


「ええっ!? 非売品なんて、こんな貴重なもの……」


驚きの方が勝っているのか、鋭い目線で見つめているのに空色の視線はキーホルダーに移されたまま。俺(はくと)には気が付かない。


「気にしないでください。私が持っていても宝の持ち腐れなのです。特に利用もしないので、処分しようと思ってもなんとなく捨てにくくて持っていただけですから。律さんが元気になるかと思い、プレゼントしたいと考えました」


俺の立ち位置はいつまで『元スタップ』なんだろう。


「そんなのだめですっ! こんな貴重で大切なものっ!! 汚したくないので、自分でなにか別のものを買いますから」


ポスター額に飾るくらいだから筋金入りのファンやな。グッズひとつでさえも大事にするファン心理。


「興奮なさらないで。RBのグッズを大切にお部屋に飾っておられるくらいですから、もしかすると『使えない』と言われるかと思いましたため、お詫びの品はもうひとつ用意しております」


本当はこれだけ渡すつもりだったけれど、もらう理由がないと拒否されるかもしれないと思ったから奥の手を使った感はある。RBのグッズやったら間違いなく受け取ると。これは十六年も変わらず俺を愛してくれてる礼の気持ちも入っている。お前が喜ぶ顔が見たかったからという理由もある。


再びスーツのポケットをまさぐった。包み紙の上に水色のシールを目印に貼ってあるから、RBのグッズと間違えずに渡すことができた。「これなら使えると思います。開けてみてください」

遠慮するなと言ったら空色が包み受け取ってくれた。早速中をを開けてビー玉のストラップを手に取る。繊細なガラス細工の表面に彼女の姿が小さく映り込んだ。


「素敵なストラップですね。本当にいただいても宜しいのでしょうか?」


美しいガラス細工を見つめながら、空色が聞いてきた。


「もらっていただかないと、過失のお詫びになりませんし、このストラップの嫁ぎ先が無くて困ります。私が付けるには可愛らしすぎるものですから、律さんに使っていただければ幸いです」


俺の言葉がおかしかったのか、彼女は輝くような笑顔を見せてくれた。

不意打ちのその笑顔は反則やろ。


「綺麗な空色ですね」


「ええ。私の一番好きな色です」


わかっている。これはルール違反なのは頭ではきちんとわかっている。

でも、空色に触れたいという欲が湧き上がってしまい、抑えきれないほどの気持ちになっている。爆発寸前で自分でもコントロールができない。


「わ、私は黒も赤も好きですけれど、同じくらい空の色も好きです。水色の綺麗な空色って、テンション上がります。なんかこう、心が洗われるというか……大きな空を見ていたら、悩みも吹き飛んでしまうような所がいいですよね!」


彼女はなぜか焦ったように喋る。俺の意図に気づいているのかいないのか。


そんな彼女を思わず見つめてしまった。

そう。俺が好きなのは空色、お前や。


「奇遇ですね」


見つけてくれ、俺を。気づいてくれ、俺に。

俺はお前が十六年も想って来た男――思いを込めて距離を詰めた。



「私も律さんと同じ理由で、空が好きです」


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