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その女性がこちらに近付いてきた時に、リィラはそれが誰であるかを認識した。
「レンティさん……!?」
レンティはドックと同じく、医師が着る白衣を黒く染めた黒衣を纏っている。長いウェーブの銀髪も結んでいて、普段の華やかさはない。
まるで別人格のように、その表情や声色にも闇を感じる。ここでは王女ではなく研究者の顔をしている。
レンティはリィラの正面で足を止めて堂々と向かい合った。
「毒の開発の目的は『復讐』ですわ。両親を殺した魔物への仇討ちですわね」
(やっぱり……)
予想通りの答えなのでリィラは驚かない。しかし、このままではゼンティの仲間である魔物が再び毒殺されてしまう。
レンティにとっては、本来は魔物に殺された両親とアレンの仇討ちなのだろうが、アレンは生きていたので今は理由に含まれない。
どうするべきかとリィラが黙って思案していると、レンティは毒について語り続ける。
「毒を作るには毒が大量に必要なのですわ。毒を好む魔物だって大量摂取すれば逆に毒になりますもの」
それは言えるかもしれない。毒を好むゼンティだって、リィラの毒を摂取しすぎて依存症と禁断症状を起こしている。
しかし、なぜリィラに毒の製造方法まで説明するのだろうか。その意図を考えた時に、リィラは恐ろしい予感がした。
「研究の結果、人毒を高濃度にした毒が魔物に効果的だと分かりましたの。人毒とは、毒の種族の体内に流れる毒ですわ」
リィラはハッとして周囲を見回す。さっきから気になっていた、ビニール袋の中に詰められた大量の白い粉。これが何なのか……気付き始めてしまった。
リィラの視線に気付いたレンティは薄笑いを浮かべながらリィラを追い詰める。
「ポワゾンにはもう毒の種族はおりませんでしたので、骨から毒を製造する方法を研究中ですわ」
「ポワゾン……骨……!?」
リィラの震える口では、もう言葉を発する事さえ困難になっていた。それでもリィラは真実を確かめなくてはならない。
「レンティさんが、ポワゾンを……?」
「えぇ。あの里はすでに滅んで生存者はおりませんし、骨を回収した後は焼き払って消毒させましたわ」
(ちがう……私が、私がいたのに……)
リィラは、毒の里・ポワゾンのたった一人の住民。そして毒の種族の最後の生き残りでもある。
しかしリィラはゼンティによってベスティア王国に連れて行かれた後なので、里には誰もいなくなってしまった。
レンティは毒の原材料を得るために、ポワゾンの墓地を掘り返して遺骨を持ち帰った。さらにポワゾンを焼き払って消滅させた。
今、この場所に置かれている白い粉の正体……それはポワゾンの民の遺骨を粉砕して粉末状にしたものだった。
「なんで、そんな、ひどい……」
「有毒なまま放置したら領地にもできなくて利用価値がありませんもの。有毒な地を有益にしてさしあげましたのよ」
リィラは悲しみと憎しみが混じった感情が今にも弾け飛びそうで、それを必死に抑えるだけで精一杯だった。
……しかし、どんなに悲しくても憎くても、今は泣いてはいけない。泣けば紫色の涙で、毒の種族だとバレてしまう。
なぜ自分は、こんな非道な王女を守ろうとしたのだろうか。憎しみを叫びたいし、今すぐに殺してやりたいとさえ思う。
今なら、ゼンティの言う『復讐』が理解できる。こんなにも人を憎いと思った事などない。
しかし、この場所にリィラを連れてきた本当の目的。それを考えた時に、もう逃げ道を塞がれている事にも気付いた。
コメント
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ああ、これは重い回でしたね……。リィラがポワゾンの遺骨の正体に気づくシーン、本当に胸が締め付けられました。レンティの「利用価値がありませんもの」という台詞が、あまりにも冷酷でぞっとしました。でも、そこで泣けないリィラの苦しさ——紫色の涙がバレるからこらえるって、種族ゆえの孤独がさらに深まってる感じがして、読んでるこちらも息が詰まりました。ここまで憎しみを理解させられる展開、本当に巧いです。
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