テラーノベル
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久しぶりにきた柔太郎の家は、以前来た時とあまり変わらなかった
埃が溜まっているとかもなく、ゲームなども綺麗に整理整頓されている
ただ、チラッと見えてしまった脱衣所には溜まった洗濯物がカゴに投げられたような状態になっていた
おそらく体調が悪く洗濯をしたりするような体力もなかったのだろう
手を引かれたまま、リビングに連れて行かれる
相変わらず熱い手
「離さない」と言っているかのように強く握られている
触れ合った指や掌からこいつの熱が俺にもうつっているような気がした
柔「…そこ、座ってて」
落ち着いたグレーのソファに座るように俺に促すと、そのままフラフラとした足取りでキッチンのほうへ向かおうとする柔太郎
仁『ちょっ、お前病人なんだからお前が座っとけって!飲みもの飲みたいなら俺が準備するからっ…、ほら、ここ座ってて」
怠そうに頷いた柔太郎は、ゆっくりゆっくりソファのほうへ足を進め、バタッと仰向けにソファに倒れて目元を左腕で隠して深い息を一つ吐いた
仁『…お前、かなりしんどいんだろ。熱は?測ったの?』
そう聞くとゆっくり首を横に振る
仁『だと思った。お前ん家、体温計なさそうだもんな」
買い物袋の中から、体温計とスポドリ、ゼリーとミネラルウォーター、薬も取り出す
マグカップを一つ拝借して俺の分の水ももらう。さすがに病人の目の前でコーヒーを飲むようなことはしない
それらを唯一あったおぼんに乗せて、ソファの近くにあるローテーブルに置く
仁『…柔?しんどいと思うけどちょっと起きれそう?ゼリー食べて、薬飲んでから寝よう?』
ゆっくりとした呼吸を繰り返す柔太郎の腕をチョンチョンと突いて声をかける
柔「ん…ごめん、ありがと」
ゆっくりと目を開け、ソファに肘をついて上半身を起こそうとする柔太郎の背中に手をあてて、起きやすいように支えてやる
背もたれに体重を一回預け、そのまま前に体重をかけて座りなおす
俺もソファとローテーブルの間に座る
仁『はい、これ体温計。ちゃんと脇に挟んで。で、熱測り終わったら水分摂って、ちょっとでいいからお腹にゼリー入れて薬飲もう』
俺の言葉にひとつ頷き、俺の手から体温計を取って脇に挟む。その間、目は閉じられたまま
ピピピ…
柔「…はい」
俺の手に再び戻ってきた体温計の表示を見ると39度を超えていた
そりゃ、しんどいわ
仁『お前、無理しすぎ…。とりあえず今日は市販薬で様子見てもいいとは思うけど、明日もしんどいんだったらちゃんと病院行きなさいよ。はい、じゃあ次は…』
ローテーブルのほうに向きなおった俺の後ろからかすかに笑う気配がして振り向くと、さっきまでしんどそうにしていた奴がクツクツと笑いながらこちらを見ている。
仁『…なに』
柔「いや…笑。なんか仁ちゃん、おれのママみたいだなぁーって」
言いながらも笑っているこいつ。なんなんマジで
仁『こんなにでかい息子産んだ記憶ないんですけどねー。まぁ、マジママですから』
そう言うとさらに笑い出す柔太郎。
ー笑えてよかった。お前が元気ないと心配するじゃんかー
そう心で思っただけなはずなのに、目の前のこいつが先程までの笑顔から真剣な眼差しに変わったところを見ると、どうやら俺はいつもの癖で独り言のように呟いてしまっていたらしい。
柔「…仁ちゃん、」
仁『ごめっ、』
ー「独り言だから気にしないで」
そう続けるはずだった言葉は、火傷しそうなほどにあつい熱を纏った男に抱きしめられたことで言葉になることはなかった。
柔「……っのに」
仁『…じゅう、?』
柔「仁ちゃんが俺のこと、俺だけを見てくれたらっ…!俺は…っ、絶対、仁ちゃんのこと、大事にするのにっ、泣かせたり、苦しめたりなんてしないのに…っ、っふ、なんで…。」
耳元で告げられる苦しすぎる彼の想い
いつもは我慢していたであろうその想いは、熱によって溶かされ、理性的な彼を飲み込んでいってしまったのだろう
誰よりも優しい彼
いつだって俺のあいつへの気持ちを理解して、そばにいてくれた
そんな彼がこんなになるなんて
俺は自分のことばかりで、俺をきつく抱きしめている彼を知らず知らずに追い詰めてしまっていのかもしれない
仁『…じゅう、ごめん。おれ、』
途端にぱっと離された体
柔「…ごめん。俺、やっぱ熱あってしんどいみたい。
ほんと、ごめん。…今のは忘れて。」
悲しそうな苦しそうな表情のまま、目が合っているようで合っていない彼と、俺
仁『柔太郎…おれっ、』
ー今、俺は彼に何が言える?
あいつへの気持ちがある以上、彼に軽々しく『好き』なんて言えない
そんなの彼は望んでいないだろう
俺から『ごめん』と言われることも、彼からしたらさらなる苦痛でしかないだろう
俺が黙ったままでいると
柔「仁ちゃん」
名前を呼ばれ、今度はしっかりと目を合わせる
彼は相変わらず悲しさと苦しさ混ぜたような目で俺を見ていた。
柔「無理はしなくていいよ。前も言ったけど、俺は仁ちゃんに無理をしてほしいわけじゃない。
…さっきのはホントに気にしないで。
明日にはちゃんと元の俺に戻るから…。」
最後のその一言には彼の優しさと葛藤が表れていた
柔「…俺、もう寝室で寝るからさ。扉閉めたら自動でロックかかるから鍵のことは気にしないで。
…今日はありがと。気を付けて帰ってね」
仁『…っ!じゅうっ、!』
俺の呼びかけに反応せず、寝室へと消えていく柔太郎
しばらくその場から動けなかったが、いつまでもここに居座るのも迷惑か、と思いなおして重い腰を上げる
ゼリーとスポドリなどを冷蔵庫に入れ、ローテーブルに置いたままの体温計と薬の横に「飲み物とゼリーは冷蔵庫にあるから」とだけメモを残す
«おいそぎモード≫で洗濯物を回し、室内に干して衣類乾燥用に置かれた除湿機をつける
寝室のドアの向こうにいる彼は寝ているのだろうけど
仁『…お邪魔しました、はやくよくなってね。
待ってるから…』
そう告げてから彼の部屋を出る
ーバタン
心なしか寂しそうに聞こえた扉の閉まる音
重厚な扉のその奥
寝室で寝ているはずの彼が涙を流していたことは、彼以外誰も知らない
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#ご本人様には関係ありません
コメント
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はい一番!!!