「さっき一次調査隊が帰って来たんだけど―――
まあ概ね、予想通りかな」
ランドルフ帝国帝都・グランドールにある
冒険者ギルド本部で、そこのギルドマスター
ベッセルさんが書類に目を通しながら語る。
リッチーとやらを討伐した翌日、私と妻たち、
そして『月下の剣』パーティーは、改めて本部の
最高責任者の部屋で、説明を受けていた。
前日の夕暮れ近くに帝都・グランドール郊外の
『本来そこにいるはずのない魔物の討伐および
駆除』という依頼を受けた私たちは、
おびただしい魔物の死体、そしてそれを操る
リッチーと遭遇。
これを倒して帰還したのだが、
事態を重く見たベッセルさんの指示のもと、
緊急調査チームが組まれ、
夜明けを待って現地へと派遣。
そして今しがた、報告書を受け取ったの
だという。
ちなみに私たちはいったん大使館に戻り、
一通り情報を共有。
昼過ぎにまた来て欲しいとギルド本部から
言われていたので、その言葉に従ってまた
こちらに来ていた。
(ラッチはまだティエラ王女様預かり)
「予想通り、と言いますと」
「ほら、お金持ちや貴族たちが、『闇闘技場』で
使わなくなった魔物を捨てているって話が
あったよね?
見世物にするくらいだから、当然それなりに
強い魔物が揃っていたようで……
そいつら同士で戦ったり、弱い魔物を殺し
まくったおかげで、死体が大量発生。
そこに運悪くリッチーが現れ、かなーり
やばい状態になっていたってわけ。
よくもまあ、1パーティーだけで解決した
ものだよ」
私の問いにギルドマスターが説明し、
「いや、これもシンさんたちがいたからだ。
俺たちだけだったらすぐ報告に戻っていたぜ」
ブラウンの短髪の青年が、両手を組みながら
素直に答える。
「でも最初に匂いに気付いたのは、ビルドさんと
クエリーさんだったよね」
「空中警戒もしてもらったから助かった。
それにエードラムがいれば、たいていの敵は
迎撃出来たであろうしな」
メルとアルテリーゼは謙虚な『月下の剣』
リーダーに返し、
「一番初めにリッチーと気付いたのは、
エードラム君だったし―――
あれでどう動いていいか判断出来た
わけだから、そこまで卑下する事は
ないでしょう」
私たちが『月下の剣』パーティーの働きを
称えると、彼らはやや赤くなってうつむく。
「リッチーはただでさえ厄介なんですよ。
本体はそれほどでもないんですが、死体さえ
あれば戦力を増していきますので」
「しかも今回は、『闇闘技場』に使う予定だった
魔物が勢ぞろいだからねえ。
あれがもっと戦力を増やして帝都に向かって
いたと思うと、ぞっとするよ」
受付嬢のカティアさんの後に……
ベッセルギルドマスターがしみじみと語る。
「まあでも、いい流れだと自分は思うよ。
帝都で、例の公布も発表されたしね」
「?? 何かあったのか?」
シルバーの短髪をなでながらベッセルさんが
口にした事に、エードラム君が聞き返す。
「あなたねえ、魔力銀クラスパーティーの
リーダーなんでしょう。
少しは世の中の動きとか知っておきなさいよ」
「い、いやだって昨日今日は忙しかったじゃん」
クエリーさんが怒ると、彼はその身を縮ませる。
これは尻に敷かれる事は確定だなあと思って
見ていると、周囲もそうなのか和やかな笑みを
浮かべていた。
(兄のビルドさんのぞく)
「やっぱりそんなに影響ある?」
アジアンチックな童顔の妻が何気なく聞くと、
「皇帝陛下、マームード様の名においての
公布ですから―――
そりゃあ当然ありますよ」
カティアさんが人差し指を立てながら、
「辺境大陸の事は知っていたけど……
その大陸各国との国交はおろか、各種族との
『対等』な交易を打ち出したからねえ。
奴隷の待遇改善も言及しているし、
属領への扱いも変わってくるだろう」
アゴをなでながら、ベッセルさんも説明する。
辺境大陸近海に『演習』に行っていた
帝国兵たちが保護され―――
彼らが全員戻ってきた事が発表されると同時に、
正式に各国との国交締結なども報じられたのだ。
「混乱は無いのかのう?」
欧米風のモデルのようなプロポーションを持つ
妻がさらに突っ込んでみると、
「多少はあるでしょうけど、実はここ最近……
商人たちの方でも動きがあったんですよ」
「奴隷関連の商売を明らかに絞り始めたんだ。
同時に、辺境大陸との交易準備に力を入れて
いるってさ。
多分、事前にある程度情報を仕入れていて、
舵を切り始めたんじゃないのかな」
受付嬢とギルドマスターは、飲み物を
すすりながら同時に答える。
「奴隷―――
つまり俺たちのような獣人族や亜人奴隷も
含まれるのですか」
「利益にめざといからな、連中。
今まで通りの商売より辺境大陸との交易の方が、
うまみがあると分析したんだろう。
そして商人たちがそう判断したのなら、
取引先も合わせなくちゃならなくなってくる。
確かに、いい流れだ」
ビルドさんの後にエードラム君が見解を述べる。
継承資格が無いとはいえ、上流階級の教育を
受けてきたのだろう。
かなり客観的かつ正確に把握しているようだ。
「商売といえば、帝国の興行ってどうなって
いるんでしょうね?」
私はふと『神前戦闘』の事を思い出し、
話を彼らに振る。
「興行? 演劇とか、歌とか?」
「ええと、こういうものがありまして」
もともと、冒険者というものは戦闘の仕事も
あるし、興味があるのではと思って、例の
PVを録画した映像記録用の魔導具を持ってきて
いたのだが……
料理に依頼にと次々に事が起きたため、紹介する
機会が無かったのだ。
そこでまずベッセルギルドマスターを始め、
彼らに視聴してもらう事にした。
「こ、これはなかなか……」
「すごい迫力ですね……!」
釘付けになって見ていたベッセルさんと
カティアさんは、絞り出すように感想を口にし、
「神様に見せるための戦い、か。
すげぇ派手だな」
「しかし、戦っている選手は全員、我々と同じ
獣人族ですよね?」
「これは強制なのでしょうか……?」
獣人族の兄妹が不安気に聞いてくるが、
「いえ、これは彼らの伝統らしいです。
あくまでも神様に楽しんでもらうための戦いを
『演じる』だけなので―――
なので殺し合いとか、本気で相手にケガを
させる行為とかは禁じられています」
私の答えに彼らはホッとした表情を見せ、
「本来は獣人族だけの間でやる、
お祭りみたいなものだったんだけど」
「あちらの獣人族は、人間や他種族との交流も
盛んでのう。
それで公開してみたら大人気になって、
今では各国の首都や街で公演依頼が殺到
しておるほどじゃ」
メルとアルテリーゼが続けて補足してくれる。
「各選手には、ファンクラブがあるくらい
ですからね。
ただ、交易品はともかくとして興行は
こちらでした事はないので―――
どなたかそういう事に詳しい人がいたら」
そこでギルドマスターは両腕を組んで考え込み、
「ぜひギルド本部でやって欲しいと言いたい
ところだけど……
興行の運営とかはした事ないなあ」
「かと言ってウチが興行頼むなんて事、
ありませんし―――
あったとしても多分断られると思いますよ?」
カティアさんの言葉に、『月下の剣』パーティーも
ウンウンとうなずく。
血の気の多い冒険者もいるだろうし……
劇や歌のイベントなんてまず無理だろう。
「俺やクエリーも、この帝国に来てまだ
2・3年くらいだしなあ」
「そもそも奴隷として来ていますから、
そういう人脈も」
ビルドさんとその妹さんも、申し訳なさそうな
顔をして答えるが、
「あー……
一応、親父に話せば?
何とかなるかもしれねーけど……」
エードラム君の発言にみんなが注目し、
「そういえば君の父上は確か、伯爵だったっけ」
「ああ、『闇闘技場』にも関わっていたと……
それなら興行関係に強いかも知れないですね」
ベッセルさんとカティアさんの言葉に、バツが
悪そうに彼はうなだれる。
「こちらとしては興行にまったく人脈は
ありませんし、お会いしてくださるだけでも
有難いのですが」
「んー……
話をするだけなら別に断られない、
と思う。
じゃあ、親父に話を通してみるけど、
あまり期待はしないでくれよ」
こうして、思いがけないところから伝手が
通り、会見の席をセッティングしてもらう
事となった。
「……あり? ここは―――」
「え? 来た事あるのか?」
思わず声を上げたメルに、エードラム君が
反応する。
翌日、彼に案内された私たちは……
見覚えのある屋敷へと来ていたのだが、
そこはクエリーさんに兄、ビルドさんの救出を
頼まれ、そして『闇闘技場』を潰した場所でも
あった。
(■183話
はじめての やみとうぎじょう参照)
「まあ、その、いろいろと」
「こんな事ってあるのだのう」
私とアルテリーゼはごまかしつつ答える。
ちなみに、ラッチはようやくティエラ王女様の
手から戻って来たものの……
いったんギルド本部でエードラム君と
待ち合わせたところ、女性の職員や冒険者の間で
奪い合いとなり、
その監視をビルドさん・クエリーさんに任せ、
私たちだけでここへ来ていた。
また彼ら兄妹は『闇闘技場』に巻き込まれた
事もあり―――
もともと連れて来る予定では無かったのだが、
それで正解だったようだ。
「ほんじゃまあ、中に入ってくれ」
使用人らしき人たちがその重そうな門を開け、
彼を先頭に屋敷の中へと進んでいった。
「!? あ、あなた方は―――」
執事らしき初老の男性が、私たちの顔を見て
驚きの声を上げる。
「何だよ、知り合いか?」
「い、いえ……
知り合いというほどの事ではありませんが、
そ、その」
まあ説明はしにくいだろう。
おそらく使用人兼用心棒という
人材なんだろうけど、
前回、私たちの襲撃に手もなく一方的に
鎮圧されているし。
「あー……
すいません、その節は。
今日はあの、エードラム様のお父上と
お話があるだけですので」
「そうですか。
どちらにしろ、私どもが止められないのは
承知でしょう?
旦那様にお会いしたいのですね?
どうぞこちらへ、ご案内いたします」
彼らにしてみれば、侵入者の排除という任務を
失敗させた側だからなあ、こちらは。
やや含んだ言い方をされるのは仕方ないかも
知れない。
周囲の、遠巻きに冷たい視線を浴びながら―――
私たちは彼の父親との面会に挑む事となった。
「ひいぃいっ!? き、貴様らは……!!」
「え? 父上も彼らの事をご存知なのですか?」
その部屋に入ると、いかにも身分の高そうな
四十代くらいの八の字のヒゲを持つ男性が、
私たちを見た瞬間後ずさる。
「い……いや、知っているというか……」
そこで私の方から頭を下げ、
「お久しぶりです。
エードラム様には大変お世話になって
おりまして」
「あれ? シンさん、親父とは面識が?」
彼の問いに私は苦笑しつつ、
「ええまあ、以前この帝国に来た時に
少し顔合わせを―――」
「奇遇ですねえ」
「その節は世話になったのう」
家族と一緒に、『そういう事にしておいて
ください』とプレッシャーをかける。
「は、ははは……
モンド伯爵家へようこそ。
それで今回はどのようなご用件で?」
すると今度はエードラム君の方から、
「確か地下に、大きな会場があったと
記憶しておりますが……
そこで興行が出来ないかと、シンさんに
相談されたんです」
「はい。私の国で行っているものなのですが。
これは見てもらった方が早いかと」
そこで映像記録用の魔導具を取り出し、
一緒についてきた執事さんにも見てもらうよう
要請。
注目が集まったところで、『神前戦闘』を
再生させた。
「魔法は―――
身体強化しか使っておらぬのか」
「遠距離攻撃魔法のような派手さは無くても、
接近・肉弾戦だけでこれだけ多種多様な技が
あるとは……!」
恐らく『闇闘技場』で目が肥えているであろう
彼らからしても、相当魅力的に映ったのだろう。
食い入るようにして映像を見つめる。
「我が国では大変人気があり、また各国からの
引き合いも多くあります。
海外ではこちらが初めてなので、それで
そういう人脈や伝手がないかエードラム様に
相談したところ、伯爵様に話を通してみる、
と言われたのでお言葉に甘えまして―――
どうでしょうか。
この興行、お任せしても?」
私の問いに、モンド伯爵様は目を白黒させて、
「こ、この話……
どこにも話をしていないのかね?」
「いえ、一度冒険者ギルドに持ち掛けてみたの
ですが、ウチでは無理だとギルドマスターが。
そこでエードラム様に話が行き、伯爵様に
相談させて頂く流れになったんです」
そこで息子である彼にバトンタッチし、
「どうでしょうか、父上。
非常に人気が出る興行だと思うのですが。
確かここの地下に、『そういう』事に使う
広間があると聞いています。
そこを使わせてもらえれば、どうにかなるの
では、と」
するとモンド伯爵様は執事ふうの男性と顔を
見合わせ、
「これはかなりの集客が見込めるだろう。
しかも、この大陸初のイベントとなる」
「停止してしまったアレに代わる―――
いえ、それ以上の収益が見込めるものと
思われます」
ボソボソと小声で話すが、しっかり耳には
入ってきている。
多分『アレ』とは、『闇闘技場』の事だろう。
あれだけ大きな施設を維持するにもお金が
かかるだろうし、遊ばせておくよりは使った
方がマシ……
いや、それ以上に儲けが見込めるのであれば、
断る理由は無いはず。
「よし。ではまず地下に来てくれぬか」
伯爵様が立ち上がると、そこで執事の男性は
ハッとした表情になり―――
「お、お待ちください。今あの場所には」
「あ……!
そ、そういえばそうであった……
あやつを何とかしなければ、地下は使えん」
急に表情が曇る二人を見てエードラム君が、
「父上、どうかしたのですか?
何かあるのなら、シンさんたちに相談して
みればどうでしょうか。
ドラゴンもいらっしゃる事ですし」
そこで彼の父親と執事がこちらへと振り向き、
「そ、そうか。そうであったな」
「では一度、地下まで来て頂けますでしょうか」
再び、執事ふうの初老の彼が案内役となり―――
久しぶりに『闇闘技場』に使われた地下へと
向かう事となった。
「すごい、こんなものが屋敷の地下に……!
十分広いですし、それにこの客席は。
これならいつでも、興行が出来るでしょう」
モンド伯爵様の息子が、その広い空間を見上げ
ながら語る。
どうもこの反応を見るに……
伯爵家が『闇闘技場』を主催していた事は
知っていたようだが、
詳しい事情や、ここで実際に行われていた
事までは、聞かされていなかったのだろう。
「それで、何が問題なのでしょうか」
私が問うと、闘技場のスペースからさらに奥、
薄暗い廊下を執事さんが進んでいく。
やがて広い部屋に行きあたり、照明が
点けられると、
「檻……?」
「何か入っているの?」
私とメルが近付こうとしたところ、
「待て、シン、メルっち!
うかつに近寄るでない!!」
アルテリーゼが私たちをつかんで、それ以上の
動きを止める。
見ると、色のついたスモークのようなものが、
檻の前に漂っており、
その奥、檻の中には巨大な影があった。
「ち、父上。あれはいったい?」
「とある『魔力溜まり』で見つけてきたと、
持ち込んだ業者は言っていた。
どうやらこの煙は麻痺魔力を持っている
らしくてな。
うかつに近付けないのだ」
「かれこれ二ヶ月近くこのような状態で―――
魔力がふんだんにあるからか、一向に衰える
気配もありません。
かと言ってこれを放置したまま興行を行うのも
不安が残りますし」
執事ふうの男性の説明に、私と妻たちは顔を
見合わせる。
『闇闘技場』で使うために仕入れたのだろうが、
処分出来ずに困っている、というところか。
「蛾みたいな感じだねえ」
「うむ。それで魔力を乗せた鱗粉を飛ばして
きているのであろう」
メルとアルテリーゼの言う通り、檻の中には
モ○ラのような外見の魔物がいた。
しかし『魔力溜まり』……
そこに住んでいる者や生き物が影響を受けると、
狂暴化してしまう、というヤツだっけ?
そうだとすると、元はただの巨大な蛾の魔物か。
「アルテリーゼ殿。
あれを倒す事は出来ますか?」
モンド伯爵様の問いに、彼女は私に視線を振る。
「んー……
シン、どう?」
「殺すまではしないでいいんじゃないかな。
『魔力溜まり』が原因なら、やり方は
いくらでもあるし」
私の答えに、伯爵様と執事の男性はきょとんと
した表情になるが、
「父上、シンさんたちに任せておけば問題は
ありません。
シンさん、どのような方法でも構いません。
お任せします」
「わかりました。
じゃあエードラム様は、お二人を連れて
少し下がっていて下さい」
彼は私の指示に素直に従い、父親と執事を
かばうようにして離れる。
そして私はメルとアルテリーゼに向き合い、
「あの鱗粉も魔力絡みって事で間違いない?」
「まあほとんど魔力は絡むからね。
むしろ使わない生き物の方が珍しいし」
「『魔力溜まり』の影響で、暴走するほど
魔力は余っておるのだろう。
それで苦しんでいる可能性すらある」
妻たちに確認を取ると、私は檻の方へと
足を向け、
「理性を保てなくなる、正気を失う、
狂暴になる……
そんな魔力など
・・・・・
あり得ない」
そう小声でつぶやくと、
「ぴいぃいいっ!?
ぴぎーーーーっ!!」
と、何の生き物なのかわからない絶叫が
広間に響き渡り、
やがて時が経つにつれ―――
色付きスモークのような鱗粉は薄れて
いった。
そして檻に近付いて確認してみると、
「あれ? こんなに小さかったっけ?」
「そだねー、何か縮んだ?」
「人一人分……
というより、子供くらいの身長になって
おるのう」
そこには体長一メートル二・三十センチほどの
蛾が、その身を横たえており、
「ええと、モンド伯爵様―――
これ、もらっていっても構いませんか?」
「えっ? あ、ああ。
そちらで引き取ってくれるというので
あれば、むしろ助かる」
「いいのかい、シンさん。
そこまで頼んでしまっても」
伯爵家親子から聞き返されるが、
「かなり弱っているようですので……
体力を回復させてから、野生に戻して
あげようかと。
人外の扱いは慣れていますし、お任せして
もらえれば」
そこで私たちはモンド伯爵家を後にし―――
いったん、冒険者ギルド本部へと戻る事にした。
「……じゃあ、一応君はギルドマスターに
報告して来てくれないかな。
依頼じゃないけど、興行に関して相談に
乗ってもらっているし。
私たちは、この魔物を連れて一度大使館に
戻ろうと思う」
「そうだな。
ギルマスも興行自体楽しみにしていそうだし、
出来そうって言ったら喜ぶかも知れねぇ。
宣伝もしてもらえそうだし、ちょっと
行ってくるわ」
冒険者ギルド本部受付でエードラム君と別れ、
入れ違いに迎えに来たビルドさん・クエリーさん
兄妹と軽くあいさつを交わす。
「お疲れ様でした、シン様」
「あの興行出来そうなんですね!
良かった……」
そこで私は少し咳払いし、
「……ちょっといいかな。
話す事がある」
何らかの気配を察知したのか、二人は黙って
うなずき―――
受付から少し離れたところに私たちは移動した。
「あの『闇闘技場』でしたか……」
「エードラムさんの父親が……」
ビルドさんはあの『闇闘技場』に連れて行かれた
過去があるし―――
クエリーさんはその事で私に助けを求めており、
無関係ではない。
しかも彼女はエードラム君と恋仲になっている。
だから今後の事を考えるためにも、彼らには
情報共有した方がいいと思って伝えた。
「あの、リーダーはその事を?」
すると妻二人が首を横に振り、
「それは無いと思うなー。
地下に足を踏み入れた事自体、初めての
ような感じだったし」
「おそらく、『闇闘技場』の事は知っていたで
あろうが……
深く関わるような立場にはいなかったので
あろうのう」
その答えに、ビルドさんはホッとした表情を
見せる。
「そもそも母親が平民だったという事で、
後継者の権利の無い、いずれ伯爵家から
母子ともども追放される事は確定していた
みたいです。
実家の裏事情や、実情からは遠ざけられて
いた、と考えるのが自然でしょう」
話を聞いていた妹の方が、兄の方へ視線を移す。
「……モンド伯爵に思うところが無いわけじゃ
ありませんが―――
さすがにその子供までは無関係です。
少なくとも俺は、リーダーに何の恨みも
無いですよ」
そこで私と妻二人は安堵のため息をつく。
「わた、くしは……
どうしたらいいのでしょうか」
クエリーさんが不安そうにつぶやくが、
「それこそ、2人の問題だからねー」
「早めに話しておくか、それとも墓場まで
持っていくか―――
まあ我なら、隠し通す自信は無いから
すぐに話し合う事を選択するがのう」
とは言え、すぐに決められる事でも
無いだろう……と思っていると、
「それで関係は、どのくらいまで
進んでいるの?」
「おぴゅっ!?」
空気クラッシャー・メルの発言に、
クエリーさんは叫び声を上げる。
そしてさらに渦中の人物がそこに登場し、
「シンさん、まだいたのか?
ギルマスに報告して来たぜー。
興行が決まったら教えてくれって。
……? 何を話し合っていて」
「うむ。新たなバカップルの進展具合について
ちょっとな」
「はべっ!?」
今度はカップルのもう片方が奇声を上げる。
さすがに気まずいとも思ったが、空気クラッシュを
続けた方がまだごまかせると判断した私たちは、
その流れに従う事に。
「い、いやそのっ!?
俺たちまだ付き合ってからそんなに
経ってないし?」
「おやおや?
すでに手を出したというのに、そんな
責任逃れを?」
「してねぇって!!」
メルが悪ノリし、すかさずエードラム君が
否定するが、
「それはどういう事ですか、リーダー。
妹に手を出しておいて、責任を取る気は
ないと?」
「いや俺は真剣に付き合っているし!
だけどそんなに手は早くないってゆーか!?」
巻き込まれて気の毒とは思うが、重い話を
するのなら、ある程度緩和というか緊張を
ほぐしておいた方がいいだろう。
という理由で自分は現実逃避する。
「おーおー、言い訳はみっともないですよ?
『月下の剣』リーダー?」
メルがさらにあおると、
「だって俺はまだキスしかしてな」
と、エードラム君が言った瞬間、クエリーさんは
顔を真っ赤にしてうつむき……
ビルドさんの目には野生の光が灯され、
「りーだー、ちょっと、あとで、はなし」
「待て待て待て!!
何で片言なんだよ!?」
肩をつかまれたエードラム君は動けなくなり、
「あ、じゃあちょうどいいや。
クエリーさん借りていい?」
「そうだのう。
ちょっと女同士、話があるでのう」
そしてメルが彼女を、アルテリーゼは
私と魔物をかついでギルド本部を退出し、
後には、『月下の剣』リーダーの叫び声が
残された。






