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「おお、ティエラ王女様。
それにシン殿」
「あの公布は発表されたけど―――
何かまた用?」
ランドルフ帝国帝都・グランドール……
帝国武力省司令室。
そこで私は旧知の人間二人と対峙していた。
「いえ、帝都に戻った際、こちらを
たずねた時―――
ドラセナ連邦についてお二人に話を
聞きましたよね?」
「ピュウ」
紫の長髪をなびかせ、王女様がラッチを
抱きながら語り、
「それでこの前、鬼人族と一緒にドラセナ連邦と
ちょっとやり合いまして。
その時の情報を共有しようかと」
続いて出た私の言葉に……
ブロンドの長髪の女性と、眠たそうに眼を
半開きにした男性がピクリと眉毛を動かす。
「その情報はありがたいねぇ。
とはいえ、シン殿相手じゃあまり参考に
ならなそうだけど」
「いや、どのような情報でも頂ければ良い。
何せ絶対量が不足しているからな。
あの連邦がどのように、この大陸の
四大勢力の1つを成しているか―――
軍のトップとしては是非とも知っておきたい
ものだ」
メリッサ・ロンバート魔戦団総司令と、
ロッソ・アルヘン帝国武力省将軍……
ランドルフ帝国の軍事のツートップとも言える
二人に、私は先日のドラセナ連邦との一件を
説明し始めた。
「港の集落を攻撃、その後そこから避難した
者たちを拉致誘拐、かあ」
「結構計画的ですね……
彼らにしてみれば『商品』の調達なので、
当然かも知れませんが」
「ピュウゥ~」
まず魔戦団総司令と王女様が感想を述べ、
「密かにさらって来る―――
という手段では大量に確保出来ないか。
確かに、最初に一撃を与えて混乱を促し、
逃げる敵を倒す……
いや生け捕りにするという違いはあるが、
きちんと戦術が立てられているな」
帝国武力省将軍も、その手際の良さを称える。
「それと、鬼人族の話でもあったのですが、
矢がとんでもない距離から飛んでくるんです。
これは実際、アルテリーゼに乗っている時、
かなり高度を飛んでいたにも関わらず―――
攻撃を受けた事からもわかります」
三人がふむふむとうなずく中、私は続けて、
「あと、これも鬼人族からの情報ですが、
彼らを追撃する際、ぬかるみにはまる事が
多いそうなのです」
「湿地、という事か?」
アルヘン将軍からの問いに私は首を左右に振り、
「そうなる機会が多い、という事です。
多分偶然ではなく……
そしてそれこそが、ドラセナ連邦の戦い方、
強みなのだろうと思います」
「どゆこと?」
ティエラ様が抱いているラッチを撫でながら、
ロンバート総司令が聞き返す。
「アルテリーゼを狙った弓はともかく、
集落もかなりの距離から攻撃を受けています。
そして追い付かれないよう、ぬかるみを
用意する。
おそらくこれは―――
『組み合わせ』によるものだと考えます」
「組み合わせ、ですか?」
「ピュイ?」
王女様の問いに私はうなずく。
「例えば弓はただ放つだけではなく、
風魔法の支援があるのではないでしょうか。
ティエラ様が風魔法で船を推進するように、
風の後押しがあれば当然飛距離は伸びます」
三人はそれを聞いて肯定するようにうなずき、
「ぬかるみにしてもそうです。
ただ足場を悪くするだけですが、歩く者の
速度を大幅に遅くする事が可能です。
これは土があれば水魔法、無ければ土魔法も
併用して使えば簡単に出来る事です」
「湿地は……シン殿が書いた『ソンシの兵法』に
よれば、死地であったな。
確かに通常の道よりも足場が悪ければ、
行軍は大きく制限される。
そして逃げる、相手の追撃を避けるのも
折り込み済みというわけか」
帝国武力省将軍の言葉に、私は同意するように
頭を下げる。
「なーるほどねぇ。
風魔法で弓矢の飛距離を伸ばし、
安全圏から攻撃。
また撤退する際は水魔法と土魔法で、
湿地帯を用意しておく。
用意周到なやり方だ」
「戦い―――には使わないんでしょうか?」
魔戦団総司令の後に王女様が疑問を呈するが、
「戦う時は、また違った『組み合わせ』が
あるんじゃないでしょうか。
思うに、今回は奴隷の確保が目的であり、
それを遂行するためだけに動いていた。
目的を達成したら即座に撤退。
反撃も迎撃も考えない。
アルテリーゼに攻撃を仕掛けたのは……
さすがにドラゴンまでは想定外だったでしょう
から、苦し紛れの行動だと思われます」
「徹底した合理主義―――か。
それが末端の兵まで浸透しているとなると、
かなり厄介な相手だ」
アルヘン将軍は私の説明に、口元を覆う
ようにして手をあてる。
「おそらくはこれまでの経験……
実戦から学んだ知識を全員で共有し、
常に有利な状態で戦う方法を身に付けたので
しょう。
ただこれで、ある種の攻略と言いますか、
彼らを相手にする上での手段―――
それも見えてきました」
私の言葉に、三人が身を乗り出してくる。
「それは!?」
「いったいどーゆーモンかね」
「是非ともお聞かせください!」
軍のトップ二人に加えて王女様の
プレッシャーに、思わず上半身を引くも、
「つまり、将軍の言われるように徹底した
合理主義であるなら……
利益重視、損得勘定が出来るという事です。
そして損をするような判断はしない。
『こちらと戦う事は割に合わない』、
そう彼らにわからせれば、戦争や衝突は
回避出来るでしょう」
その答えに彼らは交互に顔を見合わせ、
「……なるほど。
どちらかと言うと、商人を相手にするような
感じか」
「利益度外視で事を構えるような真似はしない、
って事だね。
何にしろ、話し合いが出来るのならそれに
越した事は無いさー」
帝国武力省将軍・魔戦団総司令が口々に語り、
「そうですね……
これがモンステラ聖皇国とかになりますと、
宗教や教義が絡みますので、すんなりと
折衝は出来ないでしょう。
交渉の余地があるとわかっただけでも、
十分です」
「ピュイィ」
ラッチを抱きながらティエラ王女様は続けて、
「ところで、あのう。
どうしてシン殿は今日、一人で来られたの
でしょうか。
いえ、ラッチちゃんも連れて来てくれたのは
嬉しいのですけど。
奥様方は?」
その質問に私は微妙な表情になる。
「あー、ええと―――
何と言いますか、ウチの嫁たちは今、
あるカップルの厄介ごとを相談されて
おりまして。
公都『ヤマト』でも、特に女性たちの
そういう困った事や問題の相談役を
していたんです。
で、そのカップルの方の女性を連れ帰った
ので、『シンは男だから遠慮して』と、
大使館を追い出された次第です」
私の説明を聞いた三人も微妙な表情となり、
「まあ……女性の問題なら女性に任せた方が
いいだろう」
同性としてアルヘン将軍がため息交じりに答え、
「そーそー。
下手に男が首突っ込むと、ロクな事に
ならないって。
んで?
それはどんな問題だったの?」
「そ、そうですね……
我が帝国民や属領民、もしくは何らかの
機関に所属する者でしたら無関係では
ありませんし」
女性陣が興味を持って聞いてきて、
「いやあの。
当人の個人的な問題でもありますので、
私の口からは」
一応私は断ったが、それでも追及は続き―――
何とか身元につながる情報をぼかしながら話し、
彼女たちに納得してもらった。
その翌日……
獣人族のクエリーさんを連れて、私と妻のメル・
アルテリーゼは―――
帝都・グランドールの冒険者ギルド本部を
訪れていた。
すると少しやつれた表情のエードラム君が、
クエリーさんの兄・ビルドさんと一緒に
出迎えに来て、
「お、おうクエリー」
「クエリー。厨房が早く手伝って欲しいと
言ってたぞ」
魔力銀クラスパーティー『月下の剣』の
メンバーが集まり、
「わかったわ、兄さん。
リーダーも行きましょう」
「ああ」
誰からとは言わないが、やっと解放されると
言わんばかりにブラウンの短髪の青年の顔が
明るくなる。
逃げるように早足で奥へ向かう彼を見て、
獣人族の女性も続こうとするが、
彼女に、私の妻であるアジアンチックな女性と、
欧州モデルのようなプロポーションを持つ、
ドラゴンの方の妻も近寄って、
「弱っているようだね。チャンスだよ」
「特訓の成果を見せつけるがよい」
「は、はい! お二人に学んだ技、それに
わたくしの野生の力を存分に発揮します!」
「そーそー、その調子」
「搾り取って疲れ果てたところで、例の話を
持ち出すのじゃ。
疲労困憊しているところで『お願い』すれば、
たいていの要求は通る!」
「はい! そのためにも全身全霊で学んだ
技を彼にぶつけます!」
何やら小声で話しているようだが、たった
一日で何があったのだろうか。
「……何があったのです? シン様」
「いや、昨日は私も『男子禁制』と言われて
単独行動していたので、何が何やら。
妻たちに聞いても答えてくれないし」
私の説明にビルドさんは首を傾げ―――
とにかくクエリーさんを送り届けた私たちは、
冒険者ギルド本部を後にし、大使館へと
引き返した。
「みなさん、準備は出来ていますか?」
大使館内に割り当てられたウィンベル王国の
エリアで、鬼人族の里から来た方々に確認を
取る。
「『ゲート』で行くんですよね?」
「未だに信じられない事ではありますが」
男女ともに鬼人族の方々が顔を見合わせる。
『ゲート』の件はトップシークレットだが、
使わずに向かうわけにもいかないので、
長夫婦であるヤマガミさん・シャーロットさんに
信用出来る人物を選別してもらい、
極秘任務と言い含めて、公都『ヤマト』へ
行ってもらう予定である。
「ただ、これだけの牡蠣の量を見ると……」
「本当にいったん、我らの里に戻ったんですね」
そう言う彼らが見ているのは―――
木箱に詰められた生牡蠣の山。
グランドール帝国で使った牡蠣の消費量が
思ったより多く、あちらの大陸へ持ち帰る
予定だった分が激減してしまい、
急遽、鬼人族の里へ『ゲート』で赴き……
新たな量を確保したのだ。
「まー仕方ないよ。美味しいもんねー」
「早くこれがあちらの大陸でも獲れるように
なるといいなぁ」
金髪ロングのエルフのような外見の魔界王・
フィリシュタさんと―――
白装束の黒髪黒目の女性・土蜘蛛さんが、互いに
うなずき合いながら語る。
「結構忙しいよね。予定外の人員もいるし」
「土蜘蛛と、例の蛾の魔物は完全に
想定外だしのう」
「ピュウ」
家族の言う通り、鬼人族の里の土蜘蛛さんと、
モンド伯爵家で見つけた蛾の魔物の存在は、
予想だにしていなかった事態だ。
そして当初のスケジュール通りでいけば、
鬼人族の方々の料理人派遣、ウィンベル王国との
正式国交、他各国の大使館が無事稼働し始めた
事の報告など、する事は多いのである。
「そういえば、調味料は残念でしたね。
まああれはウチの中でも貴重な交易品
ですので、おいそれとは出せなかったと
思いますが」
鬼人族の女性の一人が、申し訳なさそうな
顔で声をかけてくる。
実は鬼人族の里には調味料……
胡椒、山椒、七味などが揃っており、
当然その交渉も持ち掛けたのだが、
利益率が高い貴重品である上に、交易の中でも
重要品目であったため―――
他国での栽培許可はさすがに下りなかった。
「いえ、それでも交易用の生産量を増やすと
約束して頂けましたし、こちらとしても
何もかも、とは思っていませんから」
そこへ長い銀髪の女性と、犬耳に巻き毛の
しっぽをしたやや褐色肌・黒髪の獣人族の
少年が近付いてきた。
「ほな、チエゴ国によろしく」
「気を付けてお戻りください」
ルクレセントさんに婚約者のティーダ君が、
ぺこりと頭を下げる。
二人は留守番、というより私たちがいない間の
万が一に備えてもらっている。
フェンリルのルクレさんがいればほとんどの
襲撃は防げるだろうし。
「そういえば、魔族領からは大使館への派遣は
無いんですね」
ティーダ君が不思議そうに話すと、
「数が少な過ぎるって言ってたしなあ。
その代わり、最恵国待遇を結んでいる
ユラン国に管理を一任しているんだって」
「魔界からも折を見て人員派遣するつもりでは
あるけどさー。
でも事務処理や冷静に交渉出来る魔族って、
ものすっごい貴重なのよね」
フィリシュタさんが補足するように語る。
実際、究極の体育会系というか……
それで魔王・マギア様も頭を痛めて
いたからなあ。
「ではみなさん、そろそろ出発します。
フィリシュタさん、お願いします」
「あいよー。
みんなついて来いっ!」
そして魔界王を筆頭に―――
私たち家族、鬼人族、各国の大使館員の代表が
続いて、『ゲート』へ入っていった。
「すごい……本当にあっという間だった」
「ここが、クロウたちが言っていた、
公都『ヤマト』か」
公都『ヤマト』の西側新規開拓地区の北、
果樹&各種野菜の生産をしているエリアに
設置された『ゲート』から出て来た
鬼人族たちは、その光景に息を飲む。
「実感は無いかも知れませんが、現実にここは
もう海の向こう、別大陸になります。
ではまず、冒険者ギルドへ向かいましょう」
そして彼らを中央エリアへと案内する。
ウィンベル王国王都にはすでに『ゲート』が
通っており―――
各大使館員はそこからそのまま祖国へ、
またウィンベル王国王都へ鬼人族代表が、
カリュブディスを獲った海岸沿いの村、
(■77話 はじめての さいだー参照)
そしてライシェ国・アイゼン国にも牡蠣養殖の
技術者の鬼人族たちが向かい、
そしてここ、公都『ヤマト』へは……
数名の料理人たちが派遣されたのだ。
「では行きましょう。
その前にちょっと病院に寄りますが―――
それではみなさん、ついて来てください」
こうして私は彼らを連れて、今回の報告のため
ギルド支部へと向かった。
「二十日ぶりくれぇか?
今回も結構日にちが空いたなぁ」
応接室に通された私たち家族と鬼人族は、
まずは白髪交じりの頭をした、筋骨隆々の
ギルド長の出迎えを受ける。
「それは仕方ないッスよ。
行きは船だったんですし。
おおー、しかしやっぱりデカいッスね」
「今回来られたのは、鬼人族の方たち
だけですか?」
褐色肌に黒髪の青年と、タヌキ顔に丸眼鏡の
女性……
次期ギルド長夫妻がそれとなく確認してくる。
「フィリシュタさんなら、魔界からそのまま
魔族領へ行ったよー」
「後は蛾の魔物をパック夫妻に預けて来た。
相当弱っておったのでな。
で、そこにおるのは鬼人族ではなく……」
妻たちの言葉で、白装束の着物を着た
土蜘蛛さんに注目が行く。
「はーい、ワタシ蜘蛛の魔物でーす。
あ、シンさんに敗れて大人しくなったので、
ご心配なく」
黒髪ロングの和風美人が、手をひらひら
させながら軽そうに語る。
それを見たジャンさんがため息をつきながら
苦笑し、
「いい心がけだ。
ここじゃ、人間も亜人も魔物も人外も
共存している。
騒ぎさえ起こさなけりゃ、それでいい」
「土蜘蛛さんには、ラウラさんに会って
頂こうと思っています。
種族が近い方がいいと思いますし」
ラウラさんとは、アラクネの半人半蜘蛛の
魔物だ。
魔力通信機に使う糸を生産してもらっている。
土蜘蛛さんもまた糸を生成出来るので、彼女の
助けになれば、という狙いもあった。
「我々は、『ガッコウ』という施設に行けば
いいのでしたな?」
鬼人族の一人が片手を挙げて質問して来て、
「そうッスね。
以前来ていたツバキさんも、そこでいろいろ
料理を教えていたッスから」
「公都、延いては我が国の食文化の向上に!
是非ともよろしくお願いしますっ!」
レイド君とミリアさんが彼らに返し、
「まあ、来たばかりだし明日からでもいいだろ。
泊まる場所はギルド施設で用意してあるから、
今日はゆっくりしてくれ。
シン、お前さんたちはこれからどうする?」
ギルド長が私に不意に話を向け、
「私たちは児童預かり所へ向かおうかなー、
って」
「久しぶりにラッチを連れて行ってやらねば
ならぬでのう」
「ピューイッ!」
まずは妻たちが今後の予定を答え、
「私は、ファリスさんたちに会いに行こうかと」
「ン? あの氷魔法の使い手の姉ちゃんか?
また何で」
ジャンさんが聞き返すと、
「まあ、新たな鬼人族の料理を導入する
準備―――とでも言いますか」
要はお刺身の寄生虫問題を解決するため、
氷魔法について相談しに行くだけなのだが。
「おぉお……まだあるッスか」
「期待してますよー、シンさん」
レイド夫妻の期待に満ちた眼差しを受け、
ひとまず各自、それぞれの場所へと移動する
事にした。
「1.2倍の強度の魔力で凍らせる、ですか?
どうだろう、スーリヤ」
茶髪のミドルロングをした、20代半ばの女性、
ファリスさん、
「ん~……意識してやった事は無いですけど、
出来ない事は無いんじゃないですか?」
赤茶のポニーテールをした細面の女性、
スーリヤさん、
「微調整は難しいですが、例えば倍の魔力で、
とかなら大丈夫と思いますです」
そしてライトグリーンの髪のボーイッシュな
女性、ラムザさん。
氷魔法の使い手三人組と久しぶりに顔を合わせ、
相談を持ち掛けると―――
お互いに意見を交わし始めた。
鬼人族との交易や、牡蠣などの養殖に関して
販路について一言相談しに、ドーン伯爵家の
御用商人であるカーマンさんのお屋敷に
行ったのだが、
ちょうどそこに彼女たちも商談に来ており、
その流れで例の氷問題について話してみた
のである。
そして感触としては可能なようで……
「でも凍らせる強度を上げて、
どうするんですか?」
ファリスさんの問いに一瞬言いよどむが、
「実は、魚を生で食べる食文化があるんです。
鬼人族も刺身と言って、生で食べる事を
好みます」
「うえぇ~」
「き、危険だと思いますですよ。
大丈夫なんですか?」
スーリヤさんとラムザさんが、この世界では
当然の反応をするが、
「私の故郷でも生食はあったんです。
準備や条件は厳しいですけど―――
まず海の魚が前提です。
そして、凍らせる通常の1.2倍の強度の
魔力で凍らせ、1日以上経過させる事。
安全を期すのなら、まる2日は凍らせて
おいた方がいいでしょうね」
するとファリスさんが両目を閉じ、
「う~ん、いったん凍らせて終わりじゃなく、
その魔力強度で凍った状態を維持し続ける
必要があるんですね?」
「厳しいでしょうか?」
私が不安そうに聞くと、
「いえ、凍らせた後、温度維持に強い人に
交代してもらえれば大丈夫かと」
「氷魔法専門の部署も出来ましたですし、
今や30人ほどの氷魔法の使い手がいます
から、無理ではないと思いますですよ」
他の二人からも太鼓判を押される。
そこで今度は私の方から質問してみる。
「しかし交代制とは言っても……
ずっと魔法を使い続けるというのは、
大丈夫なんでしょうか」
するとファリスさんがうなずいて、
「真夏の炎天下でって言うのなら、確かに
キツいですけど―――
今やこの公都では、いくつも氷室が
ありますからね。
そこで1・2時間くらいで交代して
もらうようにすれば、大丈夫でしょう」
その答えに私は感心してうなずく。
だが、スーリヤさんとラムザさんが顔を
見合わせ、
「まあ、問題は~……」
「そうやって凍らせた魚を、誰が安全だと
確認するかです~」
ああ、そういえばそれがすっかり抜けて
いたな。
自分でもいいけど、寄生虫ってパックさんの
治癒魔法でどうにかなるだろうか?
新たな問題の出現に頭を悩ませながら、
ひとまず私はいったん、冒険者ギルド支部へ
戻る事にした。
「あ~……そりゃ確かに問題だな」
冒険者ギルドにはちょうどまだジャンさんが
いたので、支部長室でその事について話して
みる事に。
「まあ、自分でやってもいいんですけど」
「却下だバカやろう。
お前はウィンベル王国どころか、この大陸の
最高戦力なんだぞ。
そんな事認められるか」
ギルド長にいきなり叱られ、身を硬直させる。
そして彼は眉間にシワを寄せて、
「だいたいなあ。
お前さんもう独り身じゃねえだろうが。
そんな理由で危ない橋を渡るのを、
嫁さんたちが許すとは思えねぇぞ」
「あー……確かに」
しかしそれならどうしたらいいかと頭を
悩ませていると、
「人間ならいいんだろ?
ならいっぱいいるだろうが」
「いやー、人体実験はちょっと。
それに無理やりというのは」
「何言ってんだ?
使える連中ならいっぱいいるぞ?」
そこでジャンさんは、床を指差す。
支部長室はギルド支部の二階。
そして一階は―――
「え……!?
ぼ、冒険者を!?」
「何考えてんだバカ。
まあ、確かに金次第でやるヤツはいそう
だけどよ。
俺が言ってんのは地下牢だ、地下牢」
そこで今度は私が面食らって、
「えぇ!?
しゅ、囚人を使うって事ですか?」
「ん? お前の世界じゃ使わねーのか?」
当たり前の事のように返される。
あーそうか、人権なんて無い世界でしたねココ。
ましてや犯罪者なんて……
「まあお前さんが乗り気じゃないんだったら、
出所したらいくらか渡すとか、もしくは実験が
終わったら―――
保釈金を出すとかの契約をするとか。
そこはシンが気の済むようにやればいい」
「そ、そうですか……」
そこで私は悩んだ末―――
実験の決行を決意。
囚人たちには私の世界の人間と同じ状態で
実験してもらうため、魔力無効化の魔導具を
はめてもらい、
(という名目で私が彼らの魔力を無効化する)
実験に使う魚は、
・魔力二倍。
・丸二日以上凍らせる。
という、通常の安全基準の倍の強度と
期間を取って、
さらにパックさんに連絡して、何か異常が
発見されたらすぐに検診を約束。
そして一ヶ月何も無かったら保釈金を支払い、
それとは別に実験の成功失敗に関わらず
協力費として金貨五十枚を払う、という
条件を提示したところ、
逆に応じる囚人が殺到し……
現在収容している五十人ほぼ全員が実験参加を
希望するという事態に。
ここに、公都『ヤマト』において―――
生食計画がスタートしたのであった。