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年が明ける少し前。窓の外では、遠くで聞こえるカウントダウンの声と、ぱん、と乾いた音の花火。
「まだ行かんでええやろ。人混み地獄やで」
そう言いながらも、侑はもうコートを羽織っている。
口では文句を言うくせに、🌸より先にマフラーを手に取って差し出すあたり、相変わらずだ。
「ほら。首、寒いやろ」
「ありがとう」
結び目を整える手つきは雑なのに、妙に慣れている。
距離が近くて、息が白く混ざる。
「……近」
「今さら何言うてんねん」
照れを隠すみたいに目を逸らして、侑は玄関を開けた。
⸻
神社までの道は、思っていた通りの人の波だった。
参道に並ぶ屋台、賑やかな声、甘い匂い。
「うわ、人多っ……」
🌸が一歩遅れると、すぐに侑の手が伸びてくる。
「ちょ、離れんな」
「迷子扱い?」
「アホ。取られたら困るだけや」
冗談みたいな口調なのに、指はしっかり絡めてくる。
力が強すぎないのが、逆に本気っぽくて心臓に悪い。
「そんな心配しなくても」
「するに決まっとるやろ。俺のやのに」
さらっと言い切るのが、宮侑らしい。
⸻
長い列に並びながら、侑は相変わらず落ち着きがない。
「寒い」
「さっき寒くないって」
「今寒いんや」
そう言って、🌸を自分の方に引き寄せる。
「ほら、こうしたらマシやろ」
「人に見られる」
「見せつけたるわ」
低い声で笑う。
周りの視線なんて気にしていない顔。
「……ほんま、正月から調子ええな」
「一年の計は元旦にあり、や」
そう言って、🌸の頭に顎を乗せる。
少し重くて、でも離れない。
⸻
やっと本殿の前。
賽銭を投げて、手を合わせる。
侑は珍しく、目を閉じたまま少し長かった。
「何お願いしたん?」
「内緒」
「珍し」
「たまにはな」
横顔は真剣で、軽口を叩くいつもの侑じゃない。
「……まぁ、だいたい察しつくけど」
🌸がそう言うと、侑は目を開けて、少しだけ照れたように鼻で笑った。
「わかっとるなら、それでええ」
⸻
おみくじ売り場で、ほぼ同時に引く。
「せーの」
結果を見て、侑が一言。
「吉。……可もなく不可もなく、やな」
「現実的」
「俺らしいやろ」
紙を折りながら、ちらっと🌸を見る。
「お前は?」
「大吉」
「は?」
一瞬で不満そうな顔。
「なんでやねん。俺より上引くなや」
「運は平等じゃないよ」
「いや、俺らはセットやろ」
ぶつぶつ言いながらも、結局一緒に結びに行く。
「来年は絶対一緒に大吉やからな」
「宣言?」
「有言実行主義や」
⸻
甘酒を受け取って、二人で並んで飲む。
湯気が立ち上って、指先がじんわり温まる。
「なぁ🌸」
「なに?」
少し間を置いて、侑が低く言う。
「今年もさ……当たり前みたいに隣おってくれや」
「それ、お願い?」
「確認や」
目を逸らしながら、でも声は真剣で。
「俺、独占欲強いし、めんどいし、うるさいし」
「自覚あるんだ」
「あるから言うとる」
それでも、と続ける。
「それでも選んでくれるなら、手ぇ離す気ない」
その言葉に、🌸が笑って頷くと、
侑はほっとしたように息を吐いた。
「……ほな決まりやな」
⸻
帰り道。
人の波が少し落ち着いたところで、侑が足を止める。
「なぁ」
「うん?」
周りを気にして、声を落として。
「正月やし、特別サービス」
🌸の額に、軽く唇が触れる。
一瞬で離れて、照れ隠しの悪態。
「見るな」
「自分からしたのに」
「うるさい」
耳まで赤くして、また手を繋ぐ。
「来年も再来年も、初詣は俺な」
「独占?」
「せや。文句ある?」
ない、と答える前に、
侑は満足そうに笑った。
夜空の下、繋いだ手だけが確かで、
その温度が、今年もずっと続く気がした。