テラーノベル
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薬の苦味がまだ舌の奥に残っている。ヒョヌの指先は熱くて重く、
床に投げ出された体を、ジホの手がゆっくりと起こす。
「……ヒョヌ。」
紫の髪が頬をかすめる。
ジホの手が、ヒョヌの顎を軽く持ち上げた。
「俺のために、いい子にしろよ。」
ヒョヌの瞳が揺れた。
抵抗する力はもう残っていない。
ジホの唇が落ちる。
苦い味と煙草の匂いが混ざって、
それでもどこか甘かった。
「ん……」
小さく息を漏らすと、
ジホの舌がヒョヌの奥に深く滑り込んだ。
指がシャツのボタンを外していく。
薬で火照った体が、ひどく敏感に震える。
「……嫌……」
ヒョヌが小さく口にした声は、
笑うような吐息で塞がれた。
「嫌じゃないだろ? ほら……力抜け。」
ジホの手が腰に回り込む。
太腿を撫でる指先が冷たくて、
逆に火傷のように熱を残した。
「俺のために気持ちよくなれよ。」
抱き寄せられて、
膝の上に引き上げられる。
ヒョヌの吐息がジホの耳にかかるたびに、
ジホの笑みが深くなる。
「な? ヒョヌ……可愛いな……」
ゆっくりと重なり合って、
薬に溶かされていく意識の奥で、
ヒョヌは薄く涙を滲ませた。
もう、逆らえない。
それでも、
どこか少しだけ安堵している自分がいた。
ヒョヌの喉から、掠れた声が漏れた。
ジホはその声を楽しむように、
唇の端を吊り上げる。
「ほら……もっと声、出せよ。」
顎を掴まれて無理やり顔を上げさせられる。
熱い舌が何度も口内を探って、
抵抗する隙を与えない。
「ん……や、ぁ……っ……」
喉の奥に押し込まれるような吐息が、
意識を遠くに飛ばしていく。
ジホの手がヒョヌの腰を強く押さえつけ、
太腿の奥を乱暴に撫でた。
「気持ちいいだろ……?
もっと、素直になれよ……。」
耳元に低く落ちる声が、
薬の熱と混ざり合って
ヒョヌの奥を溶かしていく。
「お前は俺のモノだろ……?
ちゃんと証明してみせろ……。」
肩を抑えられ、背中を冷たい床に押しつけられる。
紫の髪が視界を覆い隠し、
唇が首筋を這うたびに
微かな泣き声が漏れる。
「いや……やだ……」
「――いいや、気持ちいいくせに。」
髪を掴まれて引き寄せられた唇に、
強く噛むようなキスが落とされた。
痛みと熱で頭の奥が白く霞む。
ジホの指が奥へ奥へと這い、
拒絶の言葉を喉から押し出す隙を奪っていく。
「もっと声出せ……ヒョヌ……
俺だけに鳴いてろ……。」
甘く、荒く、
乱暴な熱が体を突き抜けるたびに
ヒョヌの指先が痙攣した。
もう、何も考えられない。
涙と吐息が混ざって、
嫌悪も羞恥も全部、
床に溶けていく。
ただ一つ、
ジホの声だけが頭の奥に残った。
「お前は俺のモノだ――
いいな、ヒョヌ……。」
途切れそうな声で、
ヒョヌは小さく、震えた唇を動かした。
「……うん……。」
ジホの指先が、ヒョヌの顎をそっと持ち上げる。
まるで壊れ物でも扱うみたいに。
「……ほんとに嫌か?」
低く囁かれた声に、ヒョヌの喉が詰まる。
「……客に……なんて……」
声が震えた。
ジホは薄く笑って、頬に唇を押し当てる。
「……安心しろよ。」
耳元で吐息が濡れる。
「客の相手なんかにお前を使わせるわけないだろ。」
ヒョヌの目がゆっくりと開く。
「じゃあ……」
「全部……俺のもんだよ。」
指先が喉元をなぞる。
「お前は借金返すまで……
俺にだけ、体見せりゃいい。」
言葉の奥に含まれた熱が、
ヒョヌの脳をじわじわと溶かしていく。
「……嘘つき……」
小さく呟いても、ジホは笑うだけだ。
「ああ、俺は嘘つきだよ。」
その言葉が甘くて、ひどく苦しかった。
ジホの舌が、またヒョヌの唇を割る。
「全部、俺のモノだ――ヒョヌ。」
その囁きが、
どこまでも深い底へとヒョヌを引きずり込んでいく。
ジホの指がヒョヌの首筋をゆっくりと撫でる。
指先が触れるたびに、そこに見えない鎖が巻きついていくみたいだった。
「……離せよ……」
掠れた声で絞り出しても、ジホは笑って首を振るだけだ。
「離すわけないだろ。何言ってんだ、ヒョヌ。」
低い声が、酷く優しく響くのが怖かった。
「お前が、勝手に俺の前で可愛く泣いて……
俺にこんな気分にさせたんだろ?」
頬に落ちたジホの唇が、また熱を置いていく。
「やだ……やだ……」
ヒョヌの声は震えているのに、
ジホの腕の中で体はもう力なく、
抵抗する術なんてとっくに消えていた。
「泣いても無駄だって、教えてやるよ。」
乱れた髪を指で梳かれながら、
ジホは笑ったまま、
ヒョヌの耳元に熱い言葉を落とす。
「お前が借金返すまで……
いや、返しても……」
冷たい息が耳をくすぐった。
「逃げても、無駄だから。」
ひとつ息を飲んだ瞬間、
ジホの唇がまたヒョヌを塞ぐ。
口の中を乱暴に舌が探り、
喉の奥を塞がれて、酸素を奪われて、
思考の隅で『逃げたい』と叫ぶ声が、
ジホの熱に溶かされて消えていく。
「ん……ぁ……」
瞼の裏に滲む光の奥、
何が正しくて何が間違ってるのかも分からない。
「可愛いな……ヒョヌ……
もっと鳴けよ。」
耳を塞ぐように囁かれるその声が、
いつか『愛してる』に聞こえてしまいそうで怖かった。
それでも抗えない自分が、
一番怖かった。
ジホの唇が離れた瞬間、ヒョヌは息を荒げて必死に空気を吸った。
喉が焼けるほど苦しいのに、吐き出す声はもう弱くて小さい。
「……もう……やめて……」
掠れた声で言うと、ジホはまるで子供をあやすみたいに笑った。
「可愛い声だな。もっと聞かせて。」
耳元を撫でる声が優しくて、ひどく残酷だ。
ヒョヌは心の奥で、何度も『助けて』と叫んだ。
けれどジホの指が背中を撫でると、
体はびくりと震えて、吐息が甘く零れてしまう。
「……っ……ん……」
『嫌だ』と言いたいのに、
喉の奥で声が絡まって出てこない。
ジホの指が髪を梳き、汗に張り付いた頬を撫でる。
「お前さ……俺に抱かれてるとき、
一番綺麗だよ。」
優しい声に、ヒョヌの胸の奥がひりついた。
どこかで『これは嘘だ』と分かってるのに――
なのに、心のどこかで『愛されたい』が顔を出す。
(……違う……これは……愛じゃない……)
自分に言い聞かせるように睫毛を震わせても、
ジホの手の温度が全部を塗り潰していく。
「俺が、いなかったら……お前、死んでたろ?」
ジホの声が低く笑う。
「借金も、薬も……全部俺がどうにかしてやってんだ。
なぁ、ヒョヌ……俺がいないと、何にもできないだろ?」
逃げなきゃ――
どこかで冷たい理性が喉を掴むのに、
ジホの指が腰を抱き寄せると、すべてが熱に溶ける。
「……離れろ……」
途切れ途切れに吐いた言葉は、
ジホの唇に奪われて消える。
「可愛い……ほんとに、可愛いな……。」
低く笑ったジホの声が、
耳の奥でずっとこだまして離れない。
『逃げなきゃ』
『でも……』
頭の中で、何度も何度も
別の声が囁く。
これは愛じゃない。
でも――
もしこれが愛だったら、
自分はもう全部を捧げてもいいのかもしれない。
そんな弱い考えを、
ヒョヌは自分で自分が一番憎かった。
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