テラーノベル
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篤久様の車に乗り
「本当に……いいのでしょうか?」
中園邸から1分離れたあたりでそう言った私に
「休日は自由」
「そうなんですけど……」
「これまで休日であろうが、あれのことばかり考えていたんだろうな」
篤久様はそう言ってから
「敵陣に一人で乗り込んできた逞しさには惚れ惚れするけど、真奈美さんはプログラミングされたロボットじゃない。ずっと全力疾走というのは無理だね。分かる?」
小さな子に言い聞かせるかのように、ポン……と私の頭に手を乗せた。
「ずっと全力疾走は……無理…かもしれないです」
「ふっ…かもしれない、か……」
ポンポン……それでもいい、というように頭の上の手は動いてハンドルに戻って行った。
頭ポンポンって…緊張するのですが?
緊張しているのもおかしい…でも……どうやって座っていればいいのだろう。
私はスマホと部屋の鍵、電源を入れないままのボイスレコーダー、それから入れっぱなしの小さな財布の入った斜め掛けバッグを落ち着きなく指で撫でていた。
「まず、ここで用意しよう」
と、篤久様が車内から指を差して言ったのは、意外なことに誰もが知るファストファッションのお店だった。
「意外だって顔してるね」
「……すみません……遥香様の百貨店のイメージが……」
もっとうまく話せないのか、と思ったけれど篤久様は気にする様子もなく
「百貨店、あまり行かないんだ」
と言いながら、お店を通り過ぎて横道に入るとパーキングに駐車した。
「接客が少し面倒に感じたり、全く興味のないものもたくさん置いてあったりするから。その点、こういう大型店は接客なしで楽だからたまに来る。決まったセレクトショップでの買い物が一番多いけどメンズしか扱っていないから、今日はここで」
ここが私も気楽でいい……コクコク頷いて車を降りると、開店した直後でまだ混んでいない店内に入る。
「パンツかスカート、どっちがいい?ワンピースもあるね」
レディースコーナーに入って、篤久様がそう言いながら私を見る。
買うんだよね。
今の格好じゃ、お部屋感しかないもの。
「…パンツにします」
私のスニーカーにはパンツの方がいいと思うから。
「パンツ…どんなのがいい?メンズよりも形がいろいろあるな……上から選ぶ方がいいのか?」
身近なお店だけれど、私が行ったことのあるショッピングモール内の店舗とは違って、この路面店は広い。
キョロキョロと篤久様の後ろからついて歩くだけの私に
「これ、よくない?短い髪にとてもよく似合う気がする」
いくつかの商品を手にしたあと、彼はドット柄のブラウスを私にあてて見た。
「どう思う?そこの鏡、見て」
私の手にハンガーを外したブラウスを持たせた篤久様に背中を押されて鏡を見ると
「…可愛い」
「うん、似合うよね。黒に白もあるけど、白にグレーの方が似合うと思う。これ、白に黒じゃないところがいいんだよね」
彼は私の後ろから鏡を覗いて、私と目を合わせた。
Tシャツでなく、襟付きブラウスっていうだけで今よりもランクアップ。
てろんとした柔らかい生地も大人っぽい気がする。
篤久様の言うように、白地にグレーのドットというのもおしゃれポイントなのかもしれない。
「これに合うパンツを選ぼうか」
コクン…
篤久様が次へ向かう後ろで、こっそり値札を確認すると2999円。
私でも買える価格のものを選んでくれているのだと、安心して彼を見失わないように歩いた。
そして、選んだのはダークグレーのワイドパンツ。
ダークグレーだけれどリネンの感じが涼し気で、ワイドさもだらしなくない…逆に大人っぽいよねっていう感じ。
試着した時に価格チェックもした。
ブラウスと同じ価格だから、なんとか買える。
そう思っていたけれど
「俺が無理やり連れ出したからね。俺が買う」
と、篤久様が一瞬で会計をしてしまった。
そして、数少ない店員さんに声を掛けて、タグを切ってもらい試着室で着替える許可を取っている。
あれよあれよという間に、私は上下着替えた格好で車に戻った。
コメント
4件
真奈美ちゃんに負担をかけない、その気遣いがスマートで良い〰🥰
篤久様、その頭の上ポン、ポンポンにきゅううんです🫰🏻➰💕 お選びになった白地にグレーのドット、柔らかい生地に襟付きブラウスにダークグレーのワイドパンツ✨ 同じようなお洋服見かけたら買っちゃいそう😂 普段はセレクトショップと言っておられるけど、ファストファッションに入っても全く嫌味を感じさせない篤久様は、やはりお育ちがいい🤩 お着替えしてどこに行っくのっかな〜🎵楽しみ〜(∩˘꒳˘∩ )♡゛ お部屋に鍵付いてるのは少し安心した。100%じゃないけどね。
篤久さん・・そのさり気ない優しさがいいわ~😄 真奈美ちゃんの心を溶かしてあげて~