テラーノベル
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「何が起こったのか…っていう、感じで戻ってきましたけど……ありがとうございます」
「用意はこれでいい?」
「はい、本当にありがとうございました…ちょっと大人になったみたいです」
私がそう言うと、篤久様は運転席から私を見て
「服装は人によっていろいろと感じ方があると思うけど、ビジネスで特別にだらしないという以外、俺は身につけたもので人を判断しない。父によく言われたんだよ“作業着は汚れて当たり前。その作業着に顔をしかめる者は働くということを理解出来ない者。ハイブランド時計を身につけている者が、全く役に立たない脂肪を高級スーツの下に蓄えていることも多いから、身につけたもので人を判断することは出来ないよ”ってね」
と教えてくれた。
そして
「真奈美さんは、この柔らかい服も似合うってわかったけど、いつもの制服も似合っている。プロフェッショナルさがカッコいいよね。あの百貨店の日に連れ出されるっていう勝手さには怒るべきだけど、きっと分かる人には真奈美さんはきりっと格好よく職務をこなすプロに見えたに違いない。俺はそう思うんだ。絶対に人目を惹いたよね?」
と思いがけないことを言いながら、車を動かし始めた。
「好奇の目に晒された……そんな気がしましたけど……」
「半々くらいじゃないかな。全てが好奇の目ではなかったと俺は断言する。さて……っと、真奈美さん、イチゴ好き?」
突然の質問に、はっ?と篤久様を見てから
「好きですけど……もうとっくにシーズンは終わりましたよね?」
と頭を働かせる。
「そうだけど、空調機器のおかげかな……年中いちご狩りの出来るところを見つけたから予約した。カフェもあるらしいよ」
「カフェもイチゴ尽くしですか?」
「そんな感じ。食べたいものある?」
「……」
「パフェ?アイスクリーム?」
「……」
泣きそうだった……なんだかイチゴの甘酸っぱい香りを頭と口と喉と指先……全身で思い出した感覚が、これまでの苦しみに混ざり合う感覚に変化して熱い涙になりそう……
「ん。ゆっくり走るから…ゆっくり」
篤久様はそう言って私の手をぎゅっと強く握った。
そのまま私の思考は、遥香と池田のことを考えるでもなく、両親のことを考えるでもなく、ただ自分のことを思い出していた。
小学校、中学校、高校……楽しい思い出なんてない記憶を行き来するうちに
「到着。食べるぞぉ」
篤久様がクールさを封印して明るく言ってくれる。
「楽しみです…」
「俺も」
「イチゴ、好きですか?」
「普通。でも自分で収穫すれば好きに変わるかもしれないな、と。経験がないから楽しみ。イチゴって嫌いな人いる?」
「いますよ。つぶつぶ感が見た目も食感もダメな人。以前行った家で、奥さんが、ご主人の目につかないように保管して食べておられました」
そんな話をしながら、大きなハウスの中でいちご狩りを始める。
「これは……植物工場だな」
採って食べる前に、まずぐるりと天井を見渡している篤久様の隣で
「…いただきます」
私は大きくて真っ赤な粒を選んで口に入れた。
「あまっ……」
酸っぱい香りはするけど味は甘い。
「早いね」
「大きなイチゴが呼んでいたので…すごく美味しいです。後ろのも甘いのかな…?」
「チャレンジして。俺は真奈美さんが甘いって言った株を狙う」
「え…?」
「酸っぱいのは苦手」
「毒見役を連れて来た感じですか?」
思わず笑いながら言った私に
「デートの感じだけど、味見はお願いする」
篤久様はさっき私が食べたのと同じ株にぶら下がるイチゴを採りながら目尻を下げた。
コメント
5件
篤久様も、御主人様も、素晴らしい🥹😭✨✨ ほんまに素敵✨✨🥹✨✨ 🍓甘々デートにキュンキュン🍓💗💗💗
息抜き出来たのは真奈美ちゃんだけでないはず💖
いや〜ん💕デートって言った〰😍