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「シャーロット、建国記念パーティーで君をエスコートすることはできない」

「えっ、わたしはジョージ王太子殿下の許嫁ですのに?」

「君ではなく、マリーをエスコートするつもりだ」


夏休み、高校の講堂にて、演劇部員のわたしたちは2カ月後に迫った文化祭の舞台練習を行っていた。


わたしたちが練習していたのは、没落貴族であるヒロインのマリー・ロックハートが、わたし演じる公爵家の悪役令嬢・シャーロット・フラナガンの妨害に負けず、ムーア国の跡継ぎであるジョージ・ムーアティ王太子と結ばれる……王道のハッピーエンド・ラブロマンスだ。


この舞台を最後に、わたしたち3年生は引退することになる。


Tシャツは汗でびっしょり。けど、暑さなんてちっとも気にならない。だって、この舞台にかけてるんだから。


そう、わたしは演じることに魅せられている。自分とは全然違う人生を生きているようで、すっごく楽しい。自分が演じる登場人物がどんなことを考えているのか、どんな生き方をしてきたのか、想像するだけでわくわくする。


そして、もう1つわたしがこの舞台に情熱を燃やしている理由があった。



あれは2カ月前の日曜日。いつものようにわたしたちが練習をしていると、副部長の亜紀が倒れた。


身長170センチでボーイッシュ、男役を演じることが多いわたしと、小柄で華奢、フェミニンな亜紀。性格も、何事にも積極的なわたしと、物静かな亜紀。何もかも正反対だけど、すごく気の合うわたしたちは、部長と副部長として、演劇部を支えてきた。「高校を卒業しても演劇は続けようね」って話し合っていたんだ。


なのに、亜紀はそのまま入院してしまい、学校に顔を出すことができなくなってしまった。


病院のベッドで、亜紀はわたしに向かって悲し気に言った。

「わたし、次の文化祭、空美と一緒に舞台をつくれないかもしれない」

「そんなこと言わないで。亜紀の脚本で演じたいよ」

「……うん」


ベッドサイドのワゴンの上では、亜紀のノートパソコンのカーソルが弱々しく点滅していた。


そして、亜紀は……。病床で『ムーア国のロイヤルウェディング』の脚本を書き上げ、息を引き取った。そう、この舞台の脚本は、親友である亜紀の遺作なんだ。


だから、どんなことがあっても、この舞台を成功させなきゃ。亜紀のためにも。


いつものようにわたしは、Tシャツの下に隠れている猫の形のロケットペンダントをぎゅっと握った。


「亜紀、天国でこの舞台を見守っていて!」



演劇部顧問の先生の大きな声が講堂中に響いた。


「さあ、練習再開! シャーロットとマリーのシーンからね」


わたしは悪役令嬢らしく目の前にいるマリー役の後輩をきつくにらんだ。


すると、舞台袖にいた衣装係の部員が大きな声で叫んだ。


「空美、上!」


見上げると、照明がぐらぐらと大きく揺れていた。次の瞬間、それがわたしの目の前に迫ってきたのだ。

と同時に……。わたしの意識は途切れた。



「シャーロット様」


誰かがシャーロットを呼んでいる。わたしは目を開けようとしたが、なんだかやけにまぶしい。


「おはようございます。シャーロット様」


眠い目をこすりながら、どうにか目を開けると、そこには見たことのない女性がいた。赤毛にグレーの瞳で、なぜか中世風の舞台衣装を着ている。


「さあ、お着替えを」


彼女がそういうと、メイドの格好をした女性たちが数人現れた。


訳が分からず、戸惑っているわたしは彼女たちにされるがまま。あっという間に舞台衣装に着替えさせられてしまった。


そして、姿見の前に立たされて思わず叫んだ。


「えぇぇっ!」


わたしの髪はブロンドでたて巻きロール、瞳の色はブルー。鼻筋は通っていて高く、ぱっちりした大きな目だったから。


こ、これは、化粧じゃない。わたしの顔自体が変わってしまっている。


いったいどういうこと? ここはどこなの?


わたし、舞台の練習中だったはず。たしか照明が落ちてきて……。


わたしはブロンドの髪を一本引っ張った。プチンッ。痛ッ! かつらじゃない。今度はおそるおそる自分の頬をつねってみた。すると、鏡の中のわたしも頬をつねられている。


鏡の中にいるのは、やっぱりわたし自身。そして、わたしの姿は亜紀が書いたシャーロットそのもの。そして、そして、つねった頬が痛いッ!


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


自分の頬をつねるわたしを、赤毛の女性が心配そうに見つめていた。彼女も演劇部員じゃないし、夢にしてはリアルすぎる。


もしかして、わたし、シャーロットに転生してしまったの?


なんて、マンガじゃあるまいし、そんなことがあるわけない。この鏡は何かのトリック? あっ、文化祭でどこかの部が流すドッキリ映像撮影中? ってことはどこかにカメラが隠れている?


でも、ブロンドは地毛なんだし、トリックじゃない……。


あぁ! もう、わかんない! とにかくわたしは暇じゃないんだから。


「わたし、学校に戻ります。練習の最中だし」


わたしはそばにいた赤毛の女性にそう告げた。


肌ざわり抜群のシルクのドレスは、光沢があって濃すぎないパープル。スッキリしたAラインで、気の強いシャーロットによく似合うと思ったが、わたしは未練なくさっさと脱ぎ始めた。


すると、赤毛の女性が慌て出した。


「お、お嬢様、どうされたんですか?」


そこに、メイドが入って来て、こう告げた。


「ジョージ王太子殿下がお着きになりました」


その言葉に女性たちが反応して、大急ぎで再びわたしにドレスを着せた。


「お嬢様、早く応接間に」


そう言って、無理やりわたしを引っ張っていった。


「離して! わたし、帰らなきゃ!」


大騒ぎしながら、長い廊下を数人がかりで運ばれていくわたし。抵抗しながらも、廊下に敷かれた絨毯がふかふかなことに気づいた。そして、いたるところに飾られたバラや胡蝶蘭、高価そうな額縁に入れられた肖像画の数々にも。


広くて豪華なお屋敷。舞台装置どころか、こんなすごいお屋敷、日本中どこを探してもないかもしれない。


重たげな扉の前に着くと、赤毛の女性が高らかにこう告げた。


「シャーロット様のお支度が整いました」


すると扉が音もなく開き、執事姿の高齢の男性が姿を見せ、重々しく切り出した。


「ジョージ王太子殿下、お待たせいたしました」


その言葉に、ジョージ王太子と呼ばれた男性が振り向いた。そして、わたしにほほ笑みかけた。


わたしは目を見開いた。えっ、どうして城田先生がここに!?



城田先生……わたしの初恋の人。中学2年のとき、教育実習に来た先生だ。背が高くて、切れ長の目元が涼やかで、亜紀と大騒ぎしたっけ。


教育実習の最終日、亜紀と二人で思い切って城田先生に告白したんだ。「どっちが付き合うことになっても恨みっこなし」って。


それなのに、城田先生には恋人がいて、わたしも亜紀もあっけなく失恋。二人で学校帰りに行きつけのクレープ屋さんでやけ食い。0.3キロも太ったんだ。


あー、もう、イヤなこと、思い出してしまった……。



あの日、わたしたちをフッた城田先生が、今、目の前にいる。


わたしの視線はジョージ王太子こと城田先生に釘付けになった。

悪役令嬢なのに、 モテてモテて困っています

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