テラーノベル
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昼下がり。
ふたりで外に出かけた帰り道、
些細な会話でちょっとだけ空気が重くなった。
「それ、前も言ったんだけど笑。 それぐらい、ちゃんと覚えとけよ〜」
軽口のつもりだった。
でも──
「……別に、いいじゃん。俺のペースでやってんだから」
らっだぁは思わず「え?」っと素っ頓狂な声を出してしまった。
普段ならここで軽く笑って流れるのに、
今日はなるせの声のトーンが低かった。
家に帰ってからも、なるせはずっとそっぽを向いたまま。
話しかけても、「ふーん」「そっか」で終わる。
「……なるせ?、怒ってる?」
「…怒ってないよ」
でもその目は、完全に怒ってる。ていうか、傷ついてる様にも見えた。
らっだぁは内心、めちゃくちゃ焦った。
「え、ちょ、なるせ…本当にごめんってば。
俺、そんなつもりで言ったんじゃなくて──」
なるせは座椅子にうずくまって、スマホをいじるふりをしながらそっぽを向く。
「……もういい。 俺がめんどくさいだけだし」
その言い方が逆にグサッと刺さった。
らっだぁは小走りでなるせの前に回り込んで、しゃがみ込む。
そして、顔を覗き込むようにして、ゆっくりと話掛けた。
「めんどくさいとか、思ったこと一回もないから、!
てか、むしろ、俺はお前のそういうとこが好きだっ て思ってる」
「……またそうやって…口だけ」
らっだぁは黙ったまま、なるせの手をそっと取る。けれど、 それでもなるせは、目を合わせてくれない。
だから──
らっだぁは、そっとおでこをくっつけた。
「…ねぇ……ちゃんとごめんって言わせて。
俺、なるせのこと、ほんと好きだから、
…だから、嫌われるのほんとに怖いの。」
なるせのまつげが震えた。
そして、小さく呟く。
「……じゃあ、そんな顔も…俺以外に見せんなよ…」
目元が少し潤んでて、でももう怒ってはいなかった。
らっだぁはホッとして、手を強く握る。
「…見せない。約束する。 なるせにしか、こういうこと、絶っ対しないから 」
「………わかったよ。 …わかったから……責任とって。…俺の機嫌、全部直して…」
「うん、わかった笑。
じゃあまず、ギューな。ギューしながら“好き好き好き”って三回言う」
そう言って、なるせを抱きしめて、耳元でそっと囁いた。
「好き。……好き。……めっちゃ好き」
なるせの唇がかすかに笑った。
「……恥ず」
らっだぁの腕の中で、なるせはちょっとだけ照れながらも安心したように寄りかかっていた。
「どう?機嫌直った?」
「……まだ…全然、だめ」
「じゃあ、もっと甘やかさなきゃだな〜笑」
らっだぁがなるせの頬に手を添えて、目をじっと見つめる。
その距離に、なるせの耳がほんのり赤く染まる。
「…なるせ?」
「……なに?……笑」
「…好き………いや…だ〜い好き」
「……うん」
「まだ足りない?」
「…足りない」
その返事が、甘えるような声で、
らっだぁの胸にずしんとくるくらい、可愛かった。
「じゃあ……好き、…好き、…好き、…好き」
言葉に合わせて、指でなるせの頬に触れたり、首筋をなぞったりすると、 なるせの呼吸がすこしずつ浅くなるのが伝わる。
「……言いすぎ。もう、意味わかんなくなりそう」
「いいじゃん。意味わかんなくなるくらい、好きだし」
なるせが、らっだぁのTシャツの裾をぎゅっと掴んだ。
「……俺のこと、ほんとに…」
「ほんとに。マジで。世界で一番。
ていうか、…なるせがちょっとでも、他の誰かに甘えてたら、たぶん俺、嫉妬で死ぬと思う」
「……そんなん、しない」
ぽそっと呟いたその声が、まるで告白みたいで。
らっだぁは思わずなるせの顎をそっと持ち上げて、唇にキスを落とした。
一度、深く触れて──
もう一度、優しく重ねる。
「今のは、お前だけのやつ。 次のも、
俺の、独り占めな」
なるせは少しだけ目を伏せて、唇をそっと重ね返す。
触れるたび、心がぴったりと重なるみたいで。
静かな部屋の中に、二人の小さな呼吸だけが重なっていく。
「……好きだよ。…らっだぁ…… ちゃんと言うの、恥ずいけど、
──大好きだよ…笑」
「…あ…もう、ほんと、お前っちゅうやつは!
今日から“なるせ依存症”って名乗るね?」
抱き寄せた身体が温かくて、
このまま朝まで離したくない、って本気で思うくらいだった。
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