テラーノベル
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更新遅れてすみません。
NAOKO視点です。
朝。
夢を見ていた気がする。
ドキドキするような、でも——
嫌な感じじゃなくて。むしろ、幸せな夢。
誰かが、動いた気がして目を開ける。
「……コハル?」
隣を見ると、KOHARUはもう起きていた。
でも、その顔を見た瞬間、胸が冷えた。
「え……顔、どうしたん?大丈夫?」
目の下にはくっきりとしたクマ。
顔色も悪くて、いつもの覇気がない。
「寝れなかったん?」
そっと額に手を当てる。
熱はない。
「……だいじょぶ」
その声が、思った以上にかすれていた。
「……全然大丈夫じゃないやん」
小さく息をつく。
無理してるのが分かるから、それ以上は言えなかった。
安心させるみたいに、軽く頭に触れる。
その瞬間、KOHARUは一瞬だけこちらを見て、すぐに視線を逸らした。
そこからずっと、KOHARUの様子がどこかおかしかった。
昨日の夜までは、普通だったのに。
目も合わせてくれないし、笑顔もぎこちない。
(私、何かした……?)
気づけば、他のメンバーとは普通に話しているのに、
私のときだけ、少し距離がある気がした。
胸の奥が、じわっと痛む。
「コハルとなんかあった?」
MOMOKAが心配そうに声をかけてきた。
「……んーん、別に何もないよ?コハル、ちょっと寝不足みたいで」
できるだけ自然に返す。
もし何かあったと言ったら、みんなに余計な気を遣わせるかもしれない。
これ以上、この空気を広げたくなかった。
少しだけ間があって、 MOMOKAは私の顔を見たあと、
「今日現場一緒だし、ちょっとコハル心配だから様子見てくるね!」
「うん……ありがと」
そう言うと、MOMOKAはその場を離れていった。
今日に限って、KOHARUとは別の現場で。
直接、聞きに行くこともできない。
せめて連絡だけでも、
と思ってスマホを開くけど——
何かを返された瞬間、 この距離がはっきりしてしまいそうで、指が止まる。
そのまま画面を見つめていたら、 今日の現場で一緒だったJISOOが 声をかけてきた。
「今日の撮影、緊張するね」
「うん。そうだね…」
どこか上の空で、言葉だけが口から出ていく。
そんな私を見て、JISOOは少しだけ眉をひそめた。
「……ナオ、不安なことあるでしょ」
「え?」
図星を突かれて、思わず顔を上げる。
「収録終わったら、ご飯行こ」
「全部オンニが聞いたげる。」
そう言って、私の手元にあったスマホをそっと伏せる。
「でも、今はその顔やめとこ」
「……」
「不安ってね、伝染するんだよ。メンバーにも、スタッフさんにも……お客さんにも」
はっとする。
“ステージに立つ人は、感情も見られてる”
「ナオがそんな顔してたら、周りも不安になっちゃう」
優しい声なのに、ちゃんと芯がある。
——逃げ場を与えない言葉。
「だから今は、何も考えないで。……分かった?」
「……うん」
小さく頷く。
JISOOは、ふっと力を抜くみたいに笑った。
「大丈夫。終わったら、ちゃんと聞くから」
その一言で、呼吸が少し楽になる。
心の奥に沈めるみたいに、不安を押し込めた。
◯数時間後
撮影が終わり、JISOOがお店に連れていってくれた。
「ここ、静かで話しやすいんだよね」
そう言って席に座る。
メニューを開いたものの、文字が頭に入ってこない。
何を頼めばいいのかも分からなくて、ただページをめくるだけ。
「ナオ、何にする?」
「……あ、飲み物だけでいい」
自分でも驚くくらい、あっさりとした声だった。
「じゃあオンニは甘いの頼もうかな」
そう言って、JISOOはフレンチトーストを注文する。
店内は静かで、照明もやわらかい。
そのやさしさが、今は少しだけきつかった。
注文を終えて、少しの沈黙が流れる。
「今日の撮影どうだった?」
「……楽しかったよ」
それからもJISOOは何か話していたけど、
「うん」とか「そうだね」とか、 同じ返事ばかりが口から出ていた。
「……さっきから、全然聞いてないでしょ」
びくっと肩が揺れた。
「え、そんなこと——」
否定しようとして、言葉が止まる。
うまく笑えないし、誤魔化せない。
指先でグラスの縁をなぞる。
氷が、かすかに触れ合う音を立てた。
そのとき、フレンチトーストが運ばれて来た。
甘い香りがフワッと広がる。
「食べる?」
「……ううん、大丈夫」
ほとんど反射みたいに答える。
「そっか」
JISOOはそれ以上何も言わず、一口だけ口に運ぶ。
そして、小さく息を吐いたあと。
「……で?」
その一言に、息が詰まる。
「なにがあったの?」
優しいのに、逃げられない声。
「別に……なにも」
言い淀んでしまう。
「ほんとに?」
「……」
視線を上げられない。
テーブルの木目だけを見つめる。
「……コハルのこと?」
図星すぎて、何も言えない。
「……なんか、避けられてる気がするの」
ぽつり、とこぼれる。
「昨日までは普通だったのに……今日、全然目も合わせてくれなくて」
「話しかけても、なんか……距離あるっていうか……」
「私、なんかしたのかなって……」
グラスを持つ手に、少し力が入る。
「でも、思い当たることなくて……」
小さく息を吐く。
「……それが、一番こわいの」
少しだけ、声が震えた。
間が落ちる。
オンニはすぐに答えなかった。
ただ、静かにこちらを見ている。
「……理由も分からずに距離置かれるのって、つらいよね」
やわらかい声だった。
責めるでもなく、決めつけるでもなく。
ただ、そっと寄り添うみたいに。
「でもね」
オンニは一度だけ視線を落としてから、静かに続けた。
「無意識に、相手が嫌だと感じることをしてることもあるよ」
「距離とか、言葉とか……覚えてなくても」
「……」
昨日の夜が、頭の奥でかすかに引っかかる。
近かった、気がする。
でも、それ以上は思い出せない。
「ナオが悪いかどうかじゃなくて」
「ちゃんと向き合ってないのは、向こうの問題でもある」
その言葉に、少しだけ息がしやすくなる。
「……でも、嫌われたかもしれない」
ぽつり、とこぼれる。
「だったら、なおさら聞きなよ」
間髪入れずに返ってきた。
「え……」
「このままにしとく方が、しんどいでしょ」
まっすぐな言葉。
逃げ道をふさぐみたいに、それでも優しく背中を押してくる。
怖い。
でも。
このままの方が、もっと怖い。
JISOOの携帯が小さく震えた。
画面を確認して、ふっと視線を上げる。
「……モモカから」
そう言って、スマホを軽く傾けて見せる。
「コハル、ここにいるって」
一瞬、意図が読めなかった。
「行くかどうかは、ナオ次第だよ」
急かすでもなく、ただ委ねるような声。
「……」
ほんの一瞬だけ迷って、すぐに息を吸い込む。
「……行く」
「コハルに、ちゃんと聞きたい」
その言葉にJISOOはフッと笑って、
「その顔なら、大丈夫」
そう言って、小さく頷いた。
「……ありがとう」
背を向けて歩き出した、そのとき。
「……다녀와(いってらっしゃい)」
背中に落ちる、静かな声。
その一言で、胸の奥の怖さが少しやわらいだ気がした。
続きなるべく早く書きます!
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