「恭介、安心しろ。俺も同じなんだ」
口火を切った橋本を見つめるふたりの顔が、意外なものを見る目つきに変わった。
「同じって、あの……」
「俺の場合は、バイセクシャルでさー、両方イケる口ならぬ下半身だったりするんだよ。アハハ!」
この場の雰囲気を一掃するような橋本の笑い声が、辺りに響き渡る。
「ま、普通はこんなことを、自己紹介で言えるわけがないよな。カミングアウトしたら間違いなく、変な目で見られちまうし」
「橋本さん……」
「ふたりが並んでる姿を見たら、何かポロっと出ちまった」
その言葉に、榊が小柄な男性にアイコンタクトをして意思の疎通を図ってから、改めて橋本に向き合った。
「すみません、橋本さんから暴露話をさせてしまって。コイツは恋人で、幼馴染みの和臣です」
榊は声と表情をこわばらせたままだったが、橋本にきちんと見せるように、小柄な男性の躰を押し出した。
「はっ、初めまして。高木和臣と言います。恭ちゃんがいつもお世話になってます!」
「ご丁寧にどうも。彼が恭介の手を焼かせてる、幼馴染みだったんだなぁ」
学校ネタの話のたびに、榊の口から彼の話題が必ず出ていたので、橋本としては初対面に感じなかった。
「恭ちゃん、何のこと?」
「さ、さぁな。覚えてないから分からない」
恋人に問い詰められてキョドる榊に、ふたりの仲の良さを再確認させられた。
恋を自覚したと同時に失恋した橋本の心は、このとき固まったまま、立ち止まったのである。
夏の終わりを告げる少しだけ冷たい風が、3人の間を吹き抜けていった。しかし笑いながらショックを隠す橋本には、何も感じることができなかったのだった。
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