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その夜、ナマエはなかなか眠れなかった。暗い天井を見つめたまま、気づけば空が白んでいた。
体が重い。目も重い。
でも学校には行かないといけない。
憂鬱な気分を引きずったまま制服に着替えて、髪を整えて、
無理やり笑顔を貼りつけて、家を出た。
ーー
放課後、空はどんよりと灰色に染まり、ついに雨が降り始めた。
ナマエは委員会の仕事がある日だった。
下駄箱へ向かう生徒たちの波に背を向けて、別の階へ向かう。
――そのときだった。
何気なく視線を向けた窓の外に、見慣れた後ろ姿があった。
(……出水先輩?)
昇降口で、傘を忘れたらしい女子に、彼が自分の傘を渡していた。
彼女は笑って頭を下げて、嬉しそうにその場を離れていく。
「……」
(やっぱり、優しいんだ。誰にでも。そうだよね、笑)
胸の奥が、少しだけちくりと痛んだ。
(別に、そんなの知ってた。当たり前、)
そのまま、なにも見なかったふりをして、仕事場へ向かう。
頬を伝う汗と、心のざわつきは、何も変えられなかった。
ーー
委員会の仕事が終わった頃には、空はさらに暗くなっていた。
昇降口の灯りはまばらで、もうほとんどの生徒は帰っていた。
(……誰もいないや)
私も傘を持ってきてなかった。朝、取りに戻る気力もなかった。
家にも、あんまり帰りたくない。
だからそのまま、びしょ濡れになって歩き出した。
雨が髪と制服を重くする。
だけど不思議と、涙は出なかった。
(どうして、こうなったんだろ)
誰に言えるわけでもない思考を抱えたまま、
ふらりと立ち寄った公園のベンチに座り込んだ。