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すみ
16
#恋愛
ミン亀
5
カラン。
グラスの中の氷が、綺麗な音を立てて割れた。
朝の光を帯びた風の残骸が、窓を通り抜けてカーテンを揺らした。
「……もう朝なの…?」
ベッドの上に寝ていた少女──トワ公国は、ベッドの淵に手を掛けて身を起こした。
そのまま四つん這いで動き、ベッドに寄りかかったまま窓を覆う灰色のカーテンを開ける。
僅かに開けられたカーテンの隙間から、突き刺すように暖かい光がのぞく。
(眩しっ…)
その眩しさに思わず目を細める。彼女の白い手が、その碧い瞳を覆った。
彼女は下に降りると、そのままキッチンへと足を向けた。
キッチンへ来たはいいものの、食欲もないし、冷蔵庫を開けたって食べたいものは見つからない。
伸ばした手は、行きどころを失くし宙を舞った。
「はぁ…」
漏れ出たため息は、部屋に流れ込んだ風に乗って、雲の向こう側に消えていった。
そのまま冷蔵庫にもたれ掛かり、座り込む。
冷たく包むような感触が、背中を抱く。
膝に合わせた自分の手を見つめて、彼女は複雑に瞳を下にやる。
考えようとしなくても。
(なんで、あの子を考えちゃうんだろうね)
自問しても答えは出ない。
今日何度目かのため息を吐いて、少女は立ち上がった。
ソファに座ってリモコンをつかみ、電源ボタンを押す。
真っ黒な塊に光が点き、ニュースキャスターの甲高い声が耳に入り込んでくる。
確かに聞こえているはずなのに、脳はそれを受け取ってくれない。
頭の中はあの子の事でいっぱいだから──
『今日の運勢第一位は10月23日!』
ふいに、耳を通り抜けて、脳の中に声が入ってきた。
(……__)
10月23日──
『ラッキーカラーは赤!情熱と愛の赤のアイテムをつけて、恋愛運アップを目指しましょう!』
赤──
『お似合いの誕生日は──』
ブチッ。
トワ公国は、痺れる程強くボタンを押した。
「うるさいなぁ……」
突き刺すような視線で、再び暗くなった画面を見つめる。
(なんで?)
ぎゅっと瞑って開いた瞳が、黒く艶を帯びた。
(なんでみんなあの子のことを見るの?なんであの子は振り向いてくれないの?)
綺麗に整えられた彼女の爪が、自身の腕に赤く痕を残す。
ソファの上で蹲る彼女の周りを、灰色の空気が包みこんだ。
(あーあ…)
彼女は、再び目を閉じた。
彼女の意識は、そのまま闇の中に落ちていった。
もう何もない
「…ねぇ…ワ…て…」
誰?
「ねぇ…ト…おき…」
誰なの?
「トワ!起きて!」
「…__ッ!!」
そのガラスの鈴を転がしたような可憐な声に、がばっと身を起こす。
「…マ、マリ…?どうして…」
声の主──マリィ共和国は、腕を自身の胸の前で組み、ソファに座ったままのトワを見下ろす。
「玄関の鍵開けっぱなしだったよ?不用心なんだから…」
はぁ、と短いため息をついて、彼女はトワを心配そうな目で見つめた。
「空き巣とかに襲われたらどうするのよ〜。ホント不用心め」
その可愛らしい顔立ちに、思わず胸がドキッと高鳴る。
今すぐにでも抱き締めたくなる衝動を手を握り締めて堪え、笑顔を取り繕って聞き返す。
「で、なんでマリは来たの?また朝だけど…」
すると、マリィはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの顔で立ち上がった。
「実はね〜、朝食のパンケーキ作りすぎちゃって。クリームつけてないし、一緒に食べないかな〜って」
えへへ、と笑ってマリィは側に置いた大きな包みを持ち上げた。
─ちなみに、トワはクリームが嫌いである。
「え、いいのっ?本当に?」
トワが身を乗り出し、ソファの布が波紋のように不規則な陰影を作った。
「え?あ、うん、いいよ」
その剣幕に気圧され、気持ち後ろに仰け反りながらマリィは言った。
「ぇ、じゃあ、その、…食べさせてもらいます…ありがとうございます…」
頬を赤く染め、トワはマリィに頭を下げた。小鳥の声が鳴り響く庭から、パサパサという翼の音が聞こえる。
「じゃあどっちの家で食べる?うちはどっちでもいいよ」
マリィがそれとなく話題を変えると、トワはうーん…と暫く考えてから、
「マリも歩いただろうし、ここでもいいかな?」
と言う。
「いいよー!じゃあ広げちゃっていい?」
マリィが笑顔でそう言った。その周りの空気までもが暖かくなるような彼女の笑顔に、トワの胸はもう一度高鳴った。
「じゃあ食べよっかー!」
真っ白な皿の上に並べられたパンケーキに、小さく切られたバターが乗せられた。甘く滴れる宝石の様な蜂蜜が、生地をつたって皿の上の柄がついたワックスペーパーに染み込んだ。
「「いただきまーす」」
空っぽだった空気に、甘く色が付いた。
コメント
1件
もう第1話からエモすぎてやばい……!!😭💕 トワちゃんの「あの子」への切ない片想い感、朝の冷蔵庫にもたれる仕草とかテレビ切るところとか、一人で抱える孤独がひしひしと伝わってくるのに、そこにマリィが「玄関鍵開けっぱなしだよ」って軽やかに来る流れ、ギャップで心臓持ってかれた💘 しかもパンケーキにクリームついてないの、ちゃんとトワがクリーム嫌いなの覚えてるんだ……って細かい気遣いにまた泣く。 続きめっちゃ気になる…!!二人の関係どうなっていくの…?早く2話読ませてください…!!🌸