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おまる
昼休み
私は自席で弁当を広げようとしていた。
そこへ、佐々木さんが当然のような顔をして高瀬くんのデスクへやってきた。
「瞬、今日のお昼、中庭で食べない? 相談したいこともあるし」
「え……。あー、悪いけど俺、今日は───」
高瀬くんが反射的に私の席を伺う。
その視線の揺れが、かえって私を惨めな気持ちにさせた。
私は彼に「佐藤課長」としての冷徹な顔を向け、わざと突き放すような言葉を口にする。
「……行ってきなよ。せっかく誘ってくれてるんだし、若い者同士、話も弾むでしょう?」
「先輩……」
高瀬くんは一瞬、傷ついたような顔をした。
でも、すぐに私の「寂しさ」を察したのか、真っ直ぐに私を見据えて言い放った。
「いや、俺、先輩と一緒に食べたいんで。佐々木、悪いけどまた今度な」
「えー、冷たい! じゃあ、私も混ぜてよ。三人で食べれば解決でしょ?」
結局、佐々木さんの強引なペースに巻き込まれ
私たちは三人で休憩スペースのテーブルを囲むことになった。
私の正面には、高瀬くんと佐々木さんが並んで座っている。
「ねえ瞬、これ食べる? 卵焼き、今日うまく焼けたんだ」
そう言って、佐々木さんは箸で掴んだ卵焼きを、高瀬くんの口元へ運んだ。
「お、おい……っ、やめろって、先輩の前なんだから」
高瀬くんは拒絶しようとする。
けれど、佐々木さんは引かなかった。
彼女はチラリと私の方を盗み見ると、勝ち誇ったような、冷ややかな笑みを浮かべた。
「佐藤課長って、いつも一人で堅苦しい顔してるから、瞬みたいなタイプは疲れちゃうんじゃないですか? 瞬はもっと、気を使わなくていい子がタイプだよね?」
「佐々木、お前……!」
「……っ、」
喉の奥が熱くなる。二人の「過去」と「親密さ」を見せつけられ
私は自分の居場所がここにはないことを痛感した。
「……ごめんなさい。やっぱり私、邪魔だったわね。二人でゆっくり食べて」
「え、先輩!?」
私は力なく笑い、食べかけの弁当を片付けるのも忘れて、逃げるようにその場を立ち去った。
背後から高瀬くんが呼ぶ声が聞こえたけれど、止まれなかった。
涙で視界が歪む。人気のない非常階段の廊下まで走り続け、壁に寄りかかって呼吸を整えようとした。
(私、何を期待してたの…仕事上の関係だったはずなのに……)
「──凛さん!!」
荒い足音と共に、背後から力強い腕が回ってきた。
高瀬くんだ。
彼は私の背中を包み込むように、壊れそうなほど強く抱きしめてきた。
「離して…!高瀬くんには、佐々木さんが待ってるでしょ…」
「そんなの、どうでもいいんです。…俺は凛さんが寂しそうな顔で俺のこと見てくるのが耐えられません。理由…話してくれませんか」
彼の震える声が耳元に響く。
私は堪えきれず、振り向いて彼のシャツの胸元に顔を埋めた。
「凛、さん…?」
涙がボロボロと溢れ、止まらない。
「……っ、私……他の女の子、見ないでって思っちゃったの……っ」
「えっ」
「……佐々木さんと楽しそうにするあなたを見て、嫌だって、私のこと好きじゃないのって、私だけを見てって……思っちゃったのよ…っ」
「……っ」
初めて吐き出した、醜くて、でも真っ直ぐな本音。
高瀬くんは一瞬だけ驚いたように目を見開いた後
愛おしさに耐えかねたように、私の頭を何度も何度も強く抱き寄せた。
「……嬉しい…最高に嬉しいです。……でも、俺が女として見てるのは凛さんだけです……凛さんも俺を見て。俺だけを、見ててください」
廊下に響く、二人の激しい鼓動。
「上司」という仮面が完全に砕け散り
私はただ、彼を愛してやまない一人の女として、その腕の中に溺れていった。
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