テラーノベル
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非常階段の薄暗い踊り場
高瀬くんの声は、震えるほど熱く、重かった。
私は彼のシャツを握りしめたまま、泣きじゃくる子供のように頷くことしかできない。
高瀬くんは私の頬を両手で包み込むと、親指で涙を優しく拭った。
その瞳には、先ほどまでの「部下」の冷徹さなど微塵もなく
ただ一人の男としての、暗く深い執着だけが宿っている。
「凛さん…さっきの佐々木のこと、もう一度はっきり言います。あいつはただの同期です」
「……俺が守りたいのも、俺の隣で笑っていてほしいのも、あんただけなんです」
「……でも、私……可愛くないわよ。……こんな風に、あなたを困らせて……」
「関係ない。…むしろ、そんな風に俺を求めてくれるのを、ずっと待ってたんすから」
彼はそう言うと、私の耳元に唇を寄せた。
「……今日、仕事が終わったら、すぐ俺の家に来てください」
午後の仕事は、正直言って生きた心地がしなかった。
デスクに座っている間も、高瀬くんが時折送ってくる、鋭く射抜くような視線。
それは「佐藤課長」への敬意ではなく
自分の獲物を値踏みするような、オスとしての視線だった。
定時を過ぎ、私たちは時間差で会社を出た。
高瀬くんのマンションのドアが開いた瞬間
私は逃げる間もなく彼に腕を引かれ、壁へと押し込まれた。
「…っ、高瀬、くん……」
「…凛さん…今日は、絶対に寝かせませんから」
彼は私のジャケットを脱がせると、そのまま首筋に深く、深く歯を立てるように顔を埋めた。
シトラスの香りと、お酒も入っていないのに熱い彼の体温。
昼間に感じたあの孤独も
佐々木さんへの嫉妬も
彼の強引な指先が肌に触れるたび、甘い痺れとなって溶けていく。
「…名前、呼んでください。…苗字じゃなくて、俺の名前を」
「……しゅん、くん……っ」
その名を口にした瞬間、高瀬くんの理性が弾ける音が聞こえた気がした。
彼は満足そうに目を細めると、私の唇を力強く奪い去った。
会社での「厳しい上司と有能な部下」。
その仮面を脱ぎ捨てた後に残ったのは
お互いがいなければ息もできないほど
深く、残酷なまでに愛し合う二人の姿だった。
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おまる