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Eliminator~エリミネ-タ-

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Eliminator~エリミネ-タ-

24 - 第24話 三の罪状⑪ 闘いは更なる境地へ

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2025年05月26日

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雫の躰を覆う無数の裂傷が痛ましい。



傷の深さは致命傷には至ってはいないのかも知れないが、出血量は多く、膝を着いたまま動けないでいる。



「クククッ――カッカッカッカッカ! どうよ? お前は俺には勝てない事を思い知ったかよ!?」



それを見下ろしている時雨の高笑い。正に完全勝利の構図。



「ちっ……」



雫は言い返せないのか、悔し紛れの舌打ちのみ。



『嘘だろオイ……』



ジュウベエは遠く離れた位置で、その状況に信じられないでいる。



贔屓目無しで二人の力は、ほぼ互角だった筈だ。



時雨も無傷では済まない筈――なのに。



“何故幸人だけが倒れている?”



「バラバラにするつもりだったが、その程度で済んだ事は褒めてやるよ」



ただ一つだけ確かな事は――



「まあ次で身体のパーツ、サヨナラなんだけどな」



己の主人が危機だという事。



時雨は両手の紅い双鞭を捻る様に操作し、幾多にも枝分かれした血の鞭を雫の身体へ巻き付けていく。



腹部、左手、左腕、右手、右腕、両足――そして首へと。



「幸人ぉぉぉ!!」



それを見たジュウベエが二人へ向かって駆け出していた。



「どうよ、これから死ぬ気分は? 命乞いでもしてみっか? 俺の気が変わるかもしれねぇぞ」



ここで慈悲――と言うより、弱者を弄び嘲笑うかのような時雨に対し――



「命乞い? 馬鹿かお前は……」



雫のそれは死をも厭わぬプライドの顕れか?



「ぷっちーん。じゃあ死ねや」



時雨としてはどちらでもいいのか、遠慮無く指先を操作する。



「――やめろぉおぉぉぉ!!」



駆けながらジュウベエは絶叫するが、もう遅かった。



時雨が手を動かした瞬間――雫の五体は鮮血と共に別れを告げる。



ボトボトと――其々の部位が地に墜ち、紅い波紋が拡がっていった。



「てっ……んめぇぇぇっ!!」



ジュウベエが疾風の如き速さで、時雨へと目掛けて飛び掛かっていた。



「よくも幸人を! 殺してやるぅ!!」



主人が惨殺された事が許せないのだ。



“シャアッ”とその爪を時雨の喉元へ振りかざすが――



「うおっ! 危ね!」



しかし寸での処で避けられ、更には着地後、返す刀で再度飛び掛かるが――



「落ち着けって! アイツが弱いから仕方無いんだよ」



むんずと首根っこを掴まれてしまい、その爪は虚しく空を切る。



ジュウベエは尚も抗おうとするが、空中地団駄状態だ。



「それより俺んとこ来ないか? お前が気にいっちまったんだ」



時雨はニカっと笑顔を見せ、ジュウベエを懐柔の構えだ。



“コイツ……よくもいけいけしゃあしゃあと!”



勿論答えはNOに決まってる。



「ははは、そう嫌がんなって」



しかしこの状態では、抗おうにも抗えなかった。



『幸人……くそぉおぉぉぉっ!!』



彼は自分の無力さを呪った。言葉にならない慟哭が響く。



「今日は気分が良いぜ! なんたってあいつを――」



「馬鹿笑いはそこまでにしておけ」



それは割り込む様に、不意に聴こえた二人以外の声。



「――っ!!」



時雨は反射的に振り返り、そして己が目を疑った。



「なっ……なんで?」



先程確かに身体の部位が無数に分断され、血の海に沈んだ筈の――



「ゆっ……幸人っ!?」



ジュウベエも思わず声を上げる。



主人の無事を喜ぶというより、それは怪訝そうな表情で。



夢が現か雫が変わらぬ姿で、斜に腕組みしながら時雨の背後に立ち誇っていた。



不可解な現象に反射的に距離を取った時雨だが、すぐに疑問が氷解する。



「久々で浮かれちまって、つい忘れてたよ……」



落ち着きはらった口調の時雨。



「え……えぇ……は?」



首根っこを掴まれていたジュウベエは、既にそっと離されており、彼は相変わらず唖然としてその場で固まっていた。



「そういやお前も使えるんだったっけ? 俺と同様、水傀儡ならぬ……氷傀儡を――」




“ゴーストゼロ・ファントムミラージュ ~鏡花水月:幻氷界”




それは写し鏡の如く、現象まで精巧に再現した氷の幻影。



地に散らばってる遺骸だった“モノ”は、既に血の海には無い。



それ処か血痕すら無い。部位大の氷の破片が散らばってるだけだった。



だが最初に刻まれた雫の無数の裂傷はそのままだ。



恐らくは時雨に五体を囚われた、あの寸前の瞬間に入れ替わっていたのだろう。



それはまるで、水面に映る月が決して掴めぬ様に――



「まあ死期が一瞬延びただけ。お前が俺に劣る事に変わりはねぇ。それにこれで終わりじゃ、余りに拍子抜けもいいとこだ」



「そうだそうだ! オレまで騙すなんて趣味悪ぃぞ幸人!」



時雨は再度、血の双鞭を発現させ、ジュウベエは主人に文句を垂れてはいるが、その口調は何処か安堵が感じられた。



それは無事だった事。時雨もまた同様に、再び続きが出来る事への悦びなのか。



「次は逃さねぇよ?」



忍び寄る紅き双鞭。



振り出しに戻った感はあれど、俄然時雨が有利な事に違いはない。



多数の裂傷を負った雫とは違い、彼は未だに無傷――



「……おめでたい奴だ。まだ気付いてないのか?」



腕組みしたまま臨戦態勢に入らない雫の、その突然の言葉の意味。



「あん? 何訳の分から――っ!!」



分からなかったが次の瞬間、時雨はすぐに理解する事となる。



その言葉の意味を――



「ぐおぁっ!?」



――異変。



それは嗚咽と共に時雨の右肩から、突如水道管が破裂したかのように鮮血が吹き上がる光景。



「ぐっ!」



そして今度は逆に時雨が膝を着いていた。



「かすっていた事にも気付いてなかったのか? お前はもう終わってるんだよ……」



膝を着いた時雨の下へ歩み寄り、右手を掲げる雫。



その掌の蒼き輝きこそ今は失われているが、あの一撃は確実に時雨を捉えていたのだ。



「くく、何言ってんだか……これで勝ったつもり? 俺がこの程度の傷で――はっ!」



そう。所詮それは只のかすり傷。



傷の度合いは雫の方が上。だがすぐに彼は気付いてしまった。



この状況の深刻さに――



「ちっ!」



時雨は反射的に己の右肩を確認。やはりというか、その傷痕からは凍結の侵食が始まっている。出血は既に無い。



絶対零度を宿した雫の掌は、例え僅かなかすり傷であっても、そこから凍結が侵食し、やがて全ての細胞が動きを止めていき、死滅崩壊へと誘われる。



止める方法は皆無。あるとすれば実行者の雫のみ。



「お前にそのまま返してやろう。俺に命乞いでもしてみるか? 俺の気が変わるかも知れんぞ」



先程と全く逆の立場となった二人。



雫の嘲笑うかのような表情が、まるでしてやったりだ。



『性格悪っ! いや同レベルだアイツら……』



外野で眺めていたジュウベエの、溜め息に近いぼやき。



二人は全く性格が違う様で、実は最も近しいのでは? と思わずにはいられない。



それは長年連れ添ってきたジュウベエですら見た事の無い、雫の新たな側面を見た気がしたのだ。



「命乞い? くくく、馬鹿かお前は?」



薄笑いを浮かべながら、造作もなく立ち上がった時雨。



完全に先程の焼き直し版だが、状況は少々違う。



時間は待ってはくれない。



刻一刻と凍結は時雨を蝕んでいた。



「俺の特異能……忘れちまったのか?」



それは凍結が侵食する傷口からの異変。



“何だあれは?”



ジュウベエも思わず、その異変に目を見張った。



それは時雨の傷口から、何かが盛り上がるかの様に蠢いているのを。



そして――



“ブシュッ”



傷痕から勢いよく鮮血が吹き上がった。



「んなっ!?」



それが何を意味していたのか、ジュウベエには理解出来ない。



まるで自滅。血を流し過ぎたのか、時雨の右肩からは夥しいまでの血液が流出していた。



「俺の特異能で死海血を強制的にそこだけ排出させれば、少なくとも他の細胞が凍る事は無ぇ。俺に絶対零度は通用しねぇよ」



彼は何事もなく、当然の様にそう宣言。



つまり時雨は凍結が全体を侵食する前に、その傷口の部分だけを血液ごと外部へ排出したのだ。



自らの痛みをもいとわぬ覚悟、それを平然と。



云わば肉体の一部を抉り取ったのだから、ダメージも相当なものだろう。



「それにしてもやってくれんじゃねぇか……。久々に本気でぶっ殺したくなってきたぜ!」



それでも時雨のやる気は少しも削がれてはいない。それ処か、ますます高まってさえいた。



「奇遇だな……俺もだよ。次は心臓を狙う。これなら排出しようもあるまい」



それは雫もまた同じ。再び宿る蒼き輝きはその顕れか?



『てかまだやる気かよ!?』



呆れ返るジュウベエを余所に、二人は更なる境地へ――

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