「ウニャァ~……人間ばかりで動けないのだ、戻れないのだ! アック、どこなのだ?」
入出港する船がひっきりなしのレザンス港。
アックとフィーサが魔法テストをしていた頃、シーニャはどこかに迷い込んでいた。往来が多いものの、シーニャのような獣人はここではあまり見られない。そのせいか、「あれは虎の獣人か?」「見て、獣人が港にいるよ。何だか怖いね」などなど、シーニャへの興味本位な視線を受け、シーニャは不安な状態になりつつあった。
「ウニャ……人間が見つめてくるのだ。アック、アックがいないのだ……ウニャ」
――その頃。
スキュラと行動していたルティも、ちょっとの油断で迷子になっていた。
「あれぇ? スキュラさん、どこですか~?」
「何でぇい、姉ちゃん! 物売りか?」
「違います、違うんですよ! 人探しをしていて~」
姿を自在に変えられるスキュラから目を離した隙に、見失ってしまったようだ。
「あぁぁ~!! アック様にどう言えば~!?」
シーニャはなるべく人目を避けながらアックの元へ戻ろうとしていた。そんな中、一部の人間が騒いでいることに気付く。もしかしたらアックかもしれない。そんな期待を込めてシーニャはその場所に近づいた。
すると、
「あれっ? その耳、その尻尾! そして結構派手な格好!! シーニャちゃん!?」
「シーニャはシーニャちゃんじゃないのだ。お前、ドワーフ娘! アックはどこなのだ?」
「ドワーフ娘じゃなくて、ルティシアですよ? アック様がお近くに?」
「お前、うるさいのだ! アックに近づきたいならシーニャと戦えなのだ!」
戦うつもりのないルティに対し、シーニャは爪を伸ばして身を低く屈み始めた。
「ここじゃ駄目ですよぉぉ!! あっちに行きますから!」
「ウウウウー!」
◆◆
彼女たちを見つけられたのは、漁師たちのざわつきのおかげだった。
「何やってるんだか……」
「全くですの。ドワーフ小娘も虎娘も、いい加減子供すぎるなの!」
「じゃあ、フィーサ。彼女たちを止め――」
「嫌なの! イスティさまが原因に決まってるなの。イスティさまが割って入るしか無いの!」
「それしかないのか……」
ルタットの町でルティに装備破壊されたトラウマがある。それだけにうかつに突っ込みたくないわけだが、そうすると必然的にシーニャに向かうしかなくなる。
「アック、シーニャのあるじ! ドワーフ、いらないぞ。シーニャ、回復出来る! ドワーフ、出来ない」
「そんなことありませんよ!! わたしは、アック様に万能ドリンクとか、回復増強ドリンクとか、えーとえーと……アック様をさらにお強く出来るんですよ? シーニャに負けているところなんて何一つ無いんですからね!」
ルティは拳一つで戦うスタイルのままで変わっていない。だが素早さが上がっていて、苦手な爪から身をかわし続け拳攻撃を連続して繰り出せるようになったようだ。
シーニャは野生の勘と経験だけでルティの攻撃を受け流しまくっている――つまり両者の戦いは、ともに決定的な一撃が当たらない状況で膠着状態。
二人とも回復支援系だが、破壊力だけ見ればルティの拳が優位だろうか。
「むむぅぅ!! アック様からお恵みを頂けるなんて、ズルいじゃないですか~!」
「シーニャ、アックに飼われているのだ。貰えて当然なのだ!」
何やら愚痴の戦いに変わっているな。仕方ない、この辺で出るか。
「ルティシア、シーニャ! いい加減にしろ!!」
戦いを止めるのは厳しそうなので、声で制することに。
「ウニャッ!? アックがいるのだ? シーニャ、すぐにやめるのだ」
「アック様ぁぁぁ~はぅぅぅ……、も、申し訳ございませんんん~!!」
「二人とも案外素直だな」
長引かないで良かった。
「で、スキュラは今どこにいるんだ?」
「はいい~……ごめんなさいです~」
ルティの様子を見る限りスキュラに逃げられたようだ。
「シーニャ、ごめんな」
「アック、ごめんなのだ……ウニャ」
「怒ってないから、でもルティと戦うのはもう止めるんだぞ?」
「フニャゥ」
シーニャはこれでいいとして。
ここからラクルの港に戻るにはまた船に乗らなければいけない。そう考えると、様子がおかしいと気付いた時点でやはり一緒にいるべきだったか。
「ずっと一緒に見て回っていたんですよぉぉ~!」
「おれがはっきりと伝えなかったのが悪かった。ルティのせいじゃない」
「ご、ご主人様ぁぁ~!! お詫びにこれをグイッとぉ!」
「あ、後で」
バヴァルの弟子を探さなければならないしスキュラの行方も気になる。
まず、どこから行くべきだろうか。