「なんでって、いつもみたいに来ただけだよ」
どうして。
分からない。
なんでここにいる?
何しに来たの。
隣にいた女性は?
分からない。
なんで。
どうして。
「莉犬どうしたんだ、疲れちゃった..?」
俺のそばに駆け寄って涙を拭うさとみくん。
その手が暖かくて余計に涙が溢れた。
酷い人。
ほんとうに酷い。
なんでそこまで優しいの。
なんでそんなに優しくするの。
逃げられなくなる。離れられなくなる
ずるい人。
「ほら言ってごらん?」
頭を撫でるその手が暖かくて
俺を優しく見つめるその目が優しくて
溢れる涙が止まらない。何故泣いてるのかももう分からない。
「…どうして。ねぇ、、どうして」
「なんでそんなに優しくするの」
絞り出した言葉は俺がずっと考えていたこと。
「なんでって、、理由が必要…?」
「俺は優しくしようって思ってやってる訳じゃないんだけど、、」
「それじゃ答えにはならない?」
無言をYESと捉えたのかさとみくんは続ける。
「んー。強いて言うなら莉犬だから、かな。」
「莉犬だから全部してあげたくなる。莉犬からのありがとうがどうしようもなく嬉しい。莉犬に喜んで貰いたい。莉犬にだから優しくしたい。」
莉犬だから…
俺だから…?
…もう頭の中がぐちゃぐちゃで、
わけが分からなくて
言葉が飲み込めない。
死にたい
抱きしめて
消えたい
頭を撫でて
嘘つき
誰よりも信じてる
「…俺だから?」
「莉犬だから」
「…俺だけ..?」
「そう。莉犬だけ」
「…じゃあ….ぁ.」
今日一緒にいた人は…
声が出なかった。
聞くのが怖い。
俺だから優しくしてくれる。俺だけ。でもじゃあ俺が見たのはなに..?
どうしてこんなにも怖いのか分からない。
俺知らない。
知らない。
こんな感情。
信じているのに信じられない。
「…もしかして体調悪い?」
体温計取ってくると立ち上がろうとするさとみくんの腕を掴んだ。
今、今言わないとずっとモヤモヤを抱えたままだ。
「…さ、さとみくん…今日一緒にいた人..誰?」
「下校中一緒にいたの…女の人、」
言った。言ってしまった。
気が気でない俺をよそに、さとみくんは少し考える素振りをしてから少し笑った。
「莉犬見てたの?あれナンパだよ、放課後逆ナンされてさ」
「久しぶりだから莉犬の家にそのまま行こうと思ってたのに、腕まで組んでくるもんだから困ったよ、」
なんぱ、、?
じゃあ俺の考えすぎだった..?
「..ほんとに?」
「ほんとだよ。…なに莉犬不安になっちゃった?」
「….なった」
さとみくんの袖を掴む腕が震える。
「さとみくん恋人いたのに、忙しいのに、俺がさとみくんの時間奪っちゃってたかと思った」
「..嫌われちゃったかと思った」
「俺が1番ならいいのになんて思って頭の中ぐちゃぐちゃになって分からなくなった」
自分でも理解出来ないままに思っていた言葉がすらすらと飛び出た。
「大丈夫だよ莉犬。俺は莉犬を嫌いになったりしない。」
「自分が莉犬に会いたくて来てるんだから莉犬が後ろめたさを感じる理由もないし、莉犬はずっと俺の1番だよ」
冷えきっていた心がもう大丈夫だと言っている。
もしかしたら嘘かもしれない。
…でもそれでもいい。
もしさとみくんがその俺にとって都合のいい嘘をつき続けてくれるなら、
俺はその嘘で盲目になってもさとみくんがいるならそれでもいい。
真っ先に人の言葉を疑う俺の悪い癖。
でもこんなことを言いながらも俺の心は何よりもさとみくんを信じている。
「俺さとみくんがいないと死んじゃうよ…」
もうさとみくんがいるならそれでいい。
コメント
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桃くんの仕草とか言葉とかがほんとにずる過ぎて🤦♀️赤くんがどんどん桃くんに溺れてるような感じがめっちゃくちゃ好きすぎます🫶🏻ナンパで安心してるのも1番にして欲しいって言ってるのも、桃くん内心はとんでもなく嬉しいんだろーなぁ…桃くんside楽しみにしてます!!