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着いたものの、入ろうか強く迷った。
占いなんて信じたりしねェし、行くだけ無駄だろ。そう思ったからだ。
「ねぇねぇ、中也。まさか君、入らない心算?」
「違ェし、手前こそ、入らねェのかよ。」
ニタニタと笑いながら挑発をする太宰に、つい、カッとなってムキになってしまった。
すると、ムキになっている俺を見て、余計に笑われてしまった。恐らく、想定道理すぎて、面白かったんだろう。
「はぁ、私は勿論入るよ。」
「はァ?手前もしかして、占いを信じる奴だったのか。」
呆れた。神のことは信じねェ癖に、占いは信じるのかよ。つくづく変な奴。
「まぁね。信じはしないけど、占いなんて面白そうじゃないか。なんてったって、私の心中相手がわかるらしいじゃないか。」
『心中相手』すなわち、こいつにとって『運命の人』のことだろう。はぁ。とため息を1回つき、
「其れについては、まぁ、俺も気にはなるが。」
そう言った。
「じゃあ、決まりだね。さぁ行くよ!中也!」
珍しく、威勢がいいじゃねェか。何処か可笑しい気がしたが、気にせず太宰の後を着いて行った。
占い屋の中は、至って普通だった。
薄暗く、狭く、小さなテーブルに大きな水晶玉が置いてある。紫色の照明は水晶玉だけを照らしているようだった。
「嗚呼、いらっしゃい。」
テーブルの向かいに座った、真っ黒なフードを被った小柄な女が喋った。
「嗚呼、こんにちは。」
太宰が、手をヒラヒラさせながら声を掛けた。
「おふたり様ですね。畏まりました。」
椅子におかけください。と、言う女の顔は、口元しか見えていないものの、にったりと笑っているように見えた。
背中に寒気を感じながら、椅子に腰かけると占いが始まった。
「そちらの素敵な帽子をお被りになられた貴方様は、仕事柄で悩まれていますね。」
「な、何で分かった。」
「この水晶玉が導いてくれるおかげです。嗚呼。貴方様は恋愛についても長く悩まされているようですね。」
ギクリとした。それと、右側からの視線が痛く刺さる。
「中也って、好きな人でもいたの?」
居たよ。まぁ、身長のせいで振られたがな。
思い出したくもない話を思い出してしまい、眉間にシワが寄った。
「居たんだぁ〜。まぁ、結局は身長ないから振られちゃったんじゃない?ねぇ、そうでしょ?」
「…黙れ。其れはもう過去の話だ。」
内心、ギスギスしたまま、占いは続いた。
「恋愛運…貴方様、すぐにみたされます」
「本当か!?」
こんな俺だが、恋人がやっとできると思えば、占いってのも悪くねェもンだな。
ところで、クソ鯖野郎は何故黙っている。
いつもなら『ちぇっ。中也に彼女とか面白くないの〜。』などと俺を茶化すのに。
「…中也は、私の犬なのに。」
ふと右側からポソッと聞こえた。
「は?どうしたンだよ。」
「いや?別に。」
くるりと首を背け、ムスッとしているのが後ろ姿だけでもわかった。
すると、占い屋がこんなことを言い始めた。
「貴方様の運命の人は、『近く、不思議な趣味を持つ方』だそうです。しかも、結ばれるのは今週中。」
今週中。今日は土曜日。
つまり今日を含め、あと2日で俺に恋人ができてしまう。
少し、そんなに都合よくなるものかと疑ったが、取り敢えず、喜んでおくことにした。
「ハハッ。手前よりも、俺の方が早く相手が見つかりそうだぜ。」
…ん?一寸待てよ。
『近く、不思議な趣味を持つ方』だと?どんな趣味だよ。
まぁ、そんな奴すぐに会えばわかるか。
そんなことを考えていると、占い師がこう言った。
「あの、そちらの包帯の方も近日中、いや今週中に、運命の人が現れるそうです。」
「え!?本当!?」
途端にぱあっと太宰の表情が明るくなり、此方を見た瞬間、また表情が暗くなった。
「ふぅん。まぁ、私ほどの美青年となれば、心中相手なんてすぐに現れるよね〜。」
「手前、念願の心中相手が見つかるってのに何が不満なンだ?」
太宰はそのままの表情で此方を見た。
「いっその事、中也だったら良いのに。」
「は?」
今までお互いに、嫌いあって、殺し合いばかりしていたってのに?
「馬鹿言え。ンなこと微塵も思ってねェ癖によ。」
どうせまた、太宰の悪戯に決まってる。
「まぁ、中也の好きにすればいいさ。」
ふふ、と微笑みながらそっぽを向いた太宰の笑顔には、暗い何かがいるような表情だった。
その時の占い師の顔は、そんな太宰と真逆で慌てふためき、頬を赤らめていたのだった。
それからの占いは、殆ど覚えていない。
あの時の太宰の言葉と、表情が何を言いたかったのかが全く分からなかったからだ。
そればかり考えていて、何も頭に入らなかったのだ。
「本日は、ありがとうございました。」
占い師が嬉しそうに、楽しそうに言った。
嗚呼。占いが終わったんだ。
少し胸にざわめきを残しながら、取り敢えずお礼を言い、占い屋を出た。