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《変人スナイパー・マリア》砂嵐の狙撃、惚れた一撃—
砂漠の真ん中、ビキニとアイスの女
その日、マリア・デルガドは相変わらず意味不明だった。
ビキニ一枚で砂漠の真ん中に立ち、
なぜか融ける寸前のアイスを片手に空を見上げていた。
「あー、今日は当たりだわ。紫外線の質がいいのよね〜!」
その言葉の意味は誰にも分からない。
髪は砂でボサボサ、
だが背中にはTAC-338が揺れ、
腰にはM45A1、
そしてサブウェポンのSIG MCXがぶら下がっている。
完全武装のビキニ美女。
砂漠における異物である。
“さすらい”が来る
その異物の前に、
静かに影が落ちた。
風に煽られながら砂を踏む足音
歩く者の気配は落ち着き払っている。
マリアはアイスを舐めたまま振り返った。
「…んあ?」
砂塵の向こうから現れたのは、
古びたロングコートを身にまとい、
背中にL96A1を背負った男。
腰には、黒光りする デザートイーグルが二丁。
肩からは FALのカスタムが吊られる。
場違いなのはマリアだけではなかった。
男は静かに目を細め、
マリアを見て口を開いた。
「嬢ちゃん、ここで何してる?」
「ビキニで日光浴。」
「…いや、それは見りゃ分かる。」
男は困った顔をした。
砂漠で“常識”を持っている数少ない人間だった。
マリアは興味津々で男を見つめた。
「あんた、スナイパー?。」
「ただの、武器商人。」
男は淡々としている。
不思議なことに、砂漠の砂嵐の中でも
その姿はブレず、揺れず、存在感が異様に静かだった。
マリアは突然質問を投げる。
「あんた名前は?」
「さすらいの武器商人…とだけ。」
「ふーん。怪しい。」
「嬢ちゃんに言われたくはないがね。」
マリアは頬を膨らませながらも、
その男を一度で気に入った。
新たな任務、そして砂嵐
その直後、マリアのイヤホンに通信が入る。
『デルガド、急ぎの任務だ。
敵の補給車列を狙撃して破壊しろ。砂嵐が来る前に』
「りょーかい。…いや、もう来てるじゃない。」
砂嵐はすぐそこまで迫っている。
マリアはTAC338を構え、
一瞬で射線を計算した。
…が。
風が強すぎる。
砂でスコープが曇る。
体が押し戻される。
「くっそ…これじゃ当たる気しない!」
2km先の標的が揺れ、溶けるように見えた。
マリアは焦りを隠せない。
砂嵐の中の“黒い影”
そんなとき、横で微かに音がした。
スッ――と、砂嵐の音を切り裂くような動き。
武器商人が、
背中の **L96A1** を静かに取り出したのだった。
マリアが目を丸くする。
「ちょ、ちょっと!? この砂嵐で撃つ気!?」
「嬢ちゃん、耳塞いどけ。」
男は無感情な声のまま、
砂嵐に向かって銃を構える。
スコープに砂が当たる。
視界が完全に乱れる。
まともに狙える状況ではない。
だが男は――微動だにしなかった。
神速の狙撃
マリアは信じられない光景を見た。
武器商人の瞳が、
砂嵐の中の“揺れ”を読み取っている。
風速、音、砂の流れ、空気の重さ――
全てを、一度の呼吸で把握していた。
そして――
ドォン!
低く、重い一発。
砂嵐の向こうで、
補給車列の弾薬トラックが一瞬で爆炎を上げた。
爆発が砂煙を押し返し、
敵が慌てて逃げ惑う。
あの状況で一発必中。
あり得ない。
マリアは息を呑んだ。
「……ちょ……ウソ……!!」
武器商人は、銃口から砂を払いながら言った。
「任務だったんだろ? 嬢ちゃんの。」
「……できるか!! ちょっ…今の……反則……」
惚れた瞬間
砂嵐はますます激しくなる。
だがマリアはその中で、武器商人の横顔を見た。
砂嵐に立ち向かうでもなく、
ただ淡々とそこにいる。
落ち着き、精密、そして桁外れの技術。
あまりの格の違いに、
マリアの胸にドクンと熱いものが走った。
「…かっこ…」
顔が赤くなる。
武器商人は気付いていないふりをして歩き去った。
名前と国籍
去り際、武器商人がふと振り返る。
「……嬢ちゃん。」
「……な、なに?」
(声が裏返った)
男は初めて、わずかに笑った。
「黒崎だ。黒いに、崎。
…日本人とだけ…。」
「……く、くろさき…」
「名前、覚えなくてもいい。
君とは縁があればまた会う。」
「えっ…!」
マリアが呼び止めようとした瞬間、
砂嵐が二人の間に壁を作った。
次に見えた時、
姿はもうどこにもなかった。
残されたマリア
砂嵐の中でマリアはひとり呆然と立ち尽くす。
胸はドキドキ、顔は真っ赤。
「黒崎…
名前、めっちゃいいじゃん…」
冷静じゃない。
いつもの変人スナイパーではなく、
ひとりの女になっていた。
「やっば…惚れた……」
砂嵐の中、
マリアの頬は灼けた砂のように熱かった。
砂漠の朝は、夜の冷気を名残惜しむように薄く揺れていた。
俺は、即席シェルターの影で装備を点検していた。
昨日の小競り合いで、AK74の側面には細かな砂傷が増えている。
だが動作は問題なし。
これが今の俺の相棒だ。
そんな静寂を破ったのは、遠くから近づく砂煙だった。
「おーい、陽菜!」
砂嵐の中でも元気だけは落ちない変人スナイパーマリアだ。
今日も例によって、妙にテンションが高い。
だが、その顔色はいつもの「おバカ全開」ではない。
どちらかといえば、妙に真剣だった。
◆マリアの推理
「陽菜、ちょっと聞いてほしいことがあるの」
「なんだよ、また変なトレーニングとかなら断るぞ。俺は忙しいんだ」
「違う! 今回は真面目な話!」
珍しい。
マリアが“真面目”な語尾を使うなんて、滅多にない。
「黒崎…いや…あの武器商人のことなんだけど」
俺は思わず手を止めた。
「武器商人がどうかしたのか?」
マリアは一度、大きく息を吸い
そして、ありえない言葉を口にした。
「黒崎、武器商人は
陽菜の父親なんじゃないかなって…そう思ったの」
俺は反射的に笑い飛ばそうとした。
「は? いや、あいつはただの商人だろ。俺の父親なんてとっくに…」
「でもね、聞いて。武器商人は
黒崎、日本人だった。名前も“黒崎”って本名らしい。
そして――」
マリアは手に持つスナイパーノートを開いた。
そこには、砂漠戦線で数十年に渡り確認されてきた
“謎の武器供給者”の記録が、細かい文字でびっしりと並んでいた。
「この“黒服の日本人スナイパー兼武器商人”。
記録が残ってるの、陽菜のお父さんが消息を絶った頃からなの」
俺の胸が、止まりかけた鼓動を乱暴に再開させた。
「……偶然だろ。そんなの、ただの推測じゃないか」
「でもね、…私にだけ国籍も名前も明かしたの。
あなたには言わなかった。それって変じゃない?」
俺は返す言葉を失っていた。
◆陽菜、調査を決意する
マリアは続けた。
「気になって、黒崎の足取りを追ったんだけど…
どこにも記録がない。まるで“意図的に消してる”みたい」
「……」
「陽菜、私……間違ってるかもしれない。でも、
あなたが“家族”のことで苦しんでたの知ってる。
だから言わずにはいられなかった」
マリアらしからぬ慎重な口調だった。
俺は深く息を吸い、砂混じりの風が喉に痛い。
さすらいの武器商人が―俺の父親。
あるわけがない。
あってたまるか。
だが、
胸の奥底で、ずっと閉じ込めていた何かが、
静かにざわついていた。
「わかった。調べるよ」
その言葉を吐いた瞬間、
逃げられなくなったような気がした。
◆再び動き始める影
その夜、俺はキャンプの片隅で通信機を開いた。
かつて所属していた部隊の残存データ。
民間軍事会社の人材記録。
国際傭兵リスト。
旧軍の行方不明者ログ。
あらゆるデータにアクセスしながら、
“黒崎”という名と日本語の記録を追う。
だが――
どのログにも、それらしい人物は存在しなかった。
まるで、この世に最初からいなかったかのように。
その時だった。
砂漠の闇の中に
“誰かの影”が一瞬よぎった。
俺は即座にAK74を構えた。
(お前なのか?)
呼びかけようとして、喉の奥で止まった。
その影は何も言わず、
ただ遠くの砂丘の向こうへ姿を消していった。
まるで――
“見守っているだけだ”
と言わんばかりに。
◆陽菜、決意を固める
(武器商人…あんた、何者なんだ?)
砂の冷たさが背中に染み込む。
マリアの言葉。
武器商人が消した足跡。
あの影。
全部が、ひとつの線で繋がりはじめている。
逃げられない。
ならば――
俺が真実を暴く。
生き残るために。
そして――過去と決着をつけるために。
俺は砂漠の夜空を見上げながら
静かに決意した。
「武器商人…たとえお前が、何者でも。
俺が必ず、その正体を暴いてやる」
砂漠の風が、静かにその言葉をさらっていった。
砂漠は、陽炎の向こうで揺れる戦場の匂いを孕んでいた。
俺は、新たな偵察任務の最中、砂丘の影を見た。
風に溶けるような気配。
俺はその背中を知っていた。
「さすらいの武器商人…いや…黒崎!!」
声をかけると、ゆっくりと振り返る影。
黒い外套、背中にはL96。
とFAL、肩のホルスターにはあのデザートイーグル。
さすらいの武器商人―。
「久しぶりだな、嬢ちゃん」
相変わらず落ち着いた声だった。
だが、今回は逃す気はなかった。
「お前に話がある」
武器商人は無言で俺を見つめる。
その瞳は砂漠の夜みたいに深く、先が読めない。
「マリアに聞いた。
お前が……俺の父親じゃないかって」
武器商人の瞳に、微かに影が落ちた。
「名前も、国籍も…
日本人だって、わざわざマリアにだけに教えたって」
沈黙。
武器商人は、俺の言葉を風のように受け止めていた。
「教えろよ……! 本当のことを!」
銃を向けたわけではない。
ただ必死だった。
ずっと封じていた“父親”という言葉を
口にせずにはいられなかった。
◆沈黙を破る
やがて武器商人は、砂漠の風に負けそうなほど低い声で言った。
「黒崎という名は本当だ」
その一言だけで、砂漠の音が消えたように感じた。
「国籍も……日本。」
俺は息を飲む。
「じゃあ……お前、本当に……」
黒崎(武器商人)は、ゆっくり視線を外し、遠くの地平を見た。
そして――
避けていた核心に、ついに触れた。
「黒崎健太…それが、俺の名前だ」
その名は、
俺が生まれてから一度も口にしたことのなかった――
だが、記録の中で何度も見た名前だった。
俺の父親。
失踪し、借金だけを残して消えたはずの男の名。
「…っ」
砂漠の熱が急に遠のいた。
俺は、父親の死を信じて育った。
恨んでもいた。
それが今、目の前で無造作に名乗られた。
現実と記憶が混ざり、視界が揺れる。
「なんでだよ……!」
声が震えていた。
「なんで借金だけ残して消えた!?
母さんのことも!!
なんで俺を置いてった!?
なんで今まで…!」
黒崎―いや、父は、少しだけ微笑んだ。
泣きそうでも、苦しそうでも、後悔の色でもない。
それは、すべてを背負った者だけが持つ、
静かな微笑みだった。
「陽菜…お前は、強くなったな」
「答えろよ!!」
だが返事はなかった。
砂漠の風がひと際強く吹き抜けた瞬間
父の姿は、ふっと消えていた。
本当に“消えた”と思うほど静かに。
まるで影のように。
「っ! 黒崎!!」
名前を叫んでも、返事はなかった。
目の前にはただ、
彼がいたはずの砂が少しだけ乱れているだけ。
その跡を追おうとしたが、
足が震えて動けなかった。
俺はただ、その場に膝を落とした。
◆陽菜、父の影を追う決意
風だけが、彼の代わりに答えを運んでいるようだった。
(本当に…父さんだったのか?
じゃあ……なんで…なんで何も言わずに)
答えはひとつもなく、
砂漠に溶けて消えた。
残されたのは、
父の名と、
俺に向けられた一瞬の微笑みだけ。
だが―
逃げるなら、追うまでだ。
俺は涙を振り払い、立ち上がった。
「絶対に……追いつく。
父さんが何を抱えてるのか、全部知ってやる……!」
AK74を握り直す。
この銃とともに、
俺はもう一度“黒崎健太”を追う旅に出る。
たとえ、どんな真実が待っていても。
砂漠の風が、その決意を確かめるように頬を打った。
◆新たな任務のはじまり
砂漠に張りつめた空気。
俺は新しい任務のブリーフィングを受けて、単独で国境沿いの補給ルートを調査していた。
敵勢力は、最近になって武器供給源を変えたらしく、
どこかから質の高い銃器を受け取っているという。
(武器の流れを掴めば、奴らの根を断てる…それが今回の任務だ)
しかし、俺には任務以上に気がかりなものがあった。
黒崎。
さすらいの武器商人にして、陽菜の父。
あの日、
“黒崎健太”と名乗りながらその理由も語らず消えた男。
胸の奥に残ったのは疑問だけだった。
(父さん…なんで
お前は俺を置いて消えた?)
俺の歩く砂に、影がひとつ伸びた。
静かに、そして突然。
「考えごとか?」
息が止まった。
そこにいたのは、黒い外套。
風で揺れるスカーフ。
背中のL96A1、FAL。
そして、俺をじっと見つめる黒い瞳。
黒崎―父だった。
◆武器商人の静かな眼差し
「黒崎…またお前は勝手に現れるんだな」
声は震えていた。
怒りか、不安か、自分でもわからない。
黒崎は、俺の言葉を聞きながら、ふっと目を細めた。
「危ないルートに足を踏み入れてるみたいだな、陽菜」
「任務だよ。…父さんには関係ない」
あえて“父さん”と言った。
反応を見たかったのかもしれない。
黒崎の瞳が一瞬だけ揺れた。
だがすぐに、またいつもの無表情に戻る。
◆真相へ迫る陽菜―だが
「答えろよ。
なんでいなくなった?
なんで俺を置いて、借金と母さんを残して消えた?」
黒崎は沈黙したまま。
俺の心の奥はもう限界だった。
「父さん…!」
踏み込んだ瞬間
黒崎の手が、そっと俺の頭に触れた。
優しく。ゆっくりと。
俺がずっと忘れていた、あの手の温度で。
◆記憶の扉が開く
その瞬間、胸の奥にしまわれていた記憶が一気に溢れた。
幼い俺を抱きかかえて笑う父。
―転んだ時、泣き止むまで頭を撫でてくれた大きな手。
「陽菜は強い子だぞ」と言ってくれた声。
あの日の温もりが一気に甦る。
「やめろ…っ」
目の奥が熱くなり、必死に目をそらそうとしたが――
こらえきれなかった。
「父さん…っ…!!」
涙がこぼれた。
砂漠の真ん中で、俺は子供のように泣いた。
黒崎は何も言わず、ただ頭を撫で続けた。
その優しさが逆に苦しい。
もっと早く会いたかった。
もっと早く言ってほしかった。
でも―
この一瞬を、俺は確かに求めていた。
◆残された温もり
涙が止まると、黒崎の手は離れた。
俺は急いで顔を上げる。
「父さん…!」
しかし――もうそこには誰もいなかった。
砂漠の風だけが、黒崎の代わりに頬を吹き抜けた。
まるで最初から誰もいなかったように。
「…本当に…勝手な父親だよ!」
泣きながら笑うしかなかった。
でも、もう分かった。
父は逃げてるわけじゃない。
何か深い理由を抱えて動いている。
あの時の“撫でる手”が教えてくれた。
(父さん…俺、必ず追いつくからな)
俺は涙を拭き、AK74を握り直した。
任務は続く。
そして父を追う旅も。
砂漠の地平線の向こうに、
黒崎の影がまだ残っている気がした。
いつか必ず、その背中をつかむために。
◆砂の匂いと胸の痛み
あの日、父さん――黒崎健太に頭を撫でられて以来、俺の胸にはずっと重たい何かが残っていた。
任務に戻ろうとしても、ふとした瞬間にあの時の手の温度が蘇る。
(どうして…俺を置いて消えたんだ)
答えはまだ見えなかった。
でも、誰よりも知りたかった。
そんな時―
「…陽菜」
背後から声がして、振り返るとマリアが立っていた。
風になびく茶髪。
いつものふざけた笑顔ではなく、妙に真剣な表情。
「お前に渡すものがある」
差し出されたのは一枚のタブレット。
そこには、黒崎の過去―調査報告書が表示されていた。
◆マリアの独自捜査:砂漠に残された伝説
「陽菜、あなた父親のこと……知りたがってたからね」
マリアは珍しく茶化さず、淡々と話し始めた。
「黒崎健太――
元傭兵。世界でもトップクラスのスナイパー」
画面には、茶色の外套の男が、長い影と共に立っている写真がある。
おそらく若い頃の黒崎だ。
「“砂漠の死神”……そう呼ばれてた」
「死神……?」
「3500メートルの超長距離狙撃を成功させた。
単独任務を好んで、誰とも組まない孤高の狙撃手。
相棒は一度も持たなかったらしい」
マリアの声が、少しだけ震えていた。
「…そんな化け物みたいな奴が、どうして武器商人なんかに?」
「最後の仕事でな。
国家レベルのテロ組織のリーダーを暗殺したあと、姿を消した。
それ以降の記録は一切ない」
マリアは静かに続ける。
「…陽菜、あなたの父親は、ただの武器商人じゃない。
本物の伝説だよ」
俺の胸に、強く刺さる言葉だった。
◆陽菜の心に灯る真相
「国家を揺るがすテロ組織を暗殺…」
俺は呟き、父の背中を思い浮かべる。
(だから―消えたのか?)
あの時の黒崎の眼差しが脳裏に蘇る。
砂漠で再会した時の、あの深い影を宿した瞳。
「…巻き込みたくなかったんだな、俺を」
気づいてしまった。
父は仕事を捨てたわけじゃない。
家族を捨てたわけでもない。
“守るために姿を消したんだ”
その確信が胸に刺さった瞬間、喉が苦しくなる。
マリアが続ける。
「あなたの父親が暗殺した相手、相当ヤバい奴だったみたいで。
その報復が今でも続いている可能性があるみたい」
「だから…俺を、俺の母さんを…遠ざけた?」
「多分ね」
マリアは陽菜の肩に手を置いた。
「お父さんは、娘を守るために消えたんだよ。
…陽菜を愛してたからこそ、完全に影になった」
俺は拳を握る。
「父さん…」
胸が熱くなり、目が潤む。
だが涙は落とさなかった。
俺は兵士だ。
でも娘でもある。
その二つが、今ようやくひとつに重なった。
◆もう一つの理由
「実はね…陽菜」
マリアが少し照れたように言う。
「黒崎の事を調べてるうちに、私も気になったんだよ。
…陽菜の父親なのに、あたしよりスナイプうまいとか腹立つし」
「いやそこかよ」
思わず突っ込んでしまい、少し笑ってしまった。
マリアも微笑む。
その一瞬、重苦しい空気が軽くなった。
◆そして、新たな影が―
その時だった。
乾いた空気に、遠い爆発音が響く。
同時に、マリアの表情が引き締まる。
「…敵だ。距離1キロ。陽菜を狙ってる」
「俺を…?」
マリアは無言で頷いた。
「多分、黒崎の“過去”の残党かも」
俺の心に冷たいものが走る。
父の影が、俺の周りにも迫ってきている。
(逃げる気はない…俺はもう、背を向けない)
俺はAK74を構えた。
「マリア、援護頼む」
「任せて。“砂漠の死神の娘”の背中くらい守ってやるわよ」
俺たちは砂漠の谷へ向けて走り出した。
父が選んだ孤独の道。
俺が選んだ戦いの道。
その二つがいま、交差しようとしている。
父さん、俺は真相を掴んでみせる。
砂漠の風が、俺たちの背を押すように吹き抜けた。
◆砂漠に吹く“恋の嵐”という名の災害
任務帰り。
俺はAK74を肩に担ぎ、砂漠の道を歩いていた。
太陽はギラギラ。砂は熱い。喉は乾く。
最悪のコンディション。
そこへ――
「ヒナーーーッ! あんた
また生きてたの!? よかったー!!」
砂煙をあげながら、ビキニ姿で走ってくる女がいた。
もちろん、マリアだ。
また…ビキニかよ。
砂漠だぞここ。
「マリア、またその格好かよ」
「砂漠は焼けるのが一番! 走るのも一番! あたしの哲学!」
相変わらずだ。
俺はため息をつく。
そんな時――
マリアの目が何かを捉えた。
彼女は一点を見つめ、口を開けたまま固まった。
「…あ」
俺は嫌な予感を覚え、同じ方向を見る。
砂丘の上に――
茶色の外套をまとい、長身で無表情。
そしていつもの装備、
**デザートイーグル×2、FAL、L96A1** を背負った男が歩いていた。
さすらいの武器商人。
黒崎健太。
俺の父だ。
しかし
マリアにとっては――
「でた…! 砂漠の……砂漠の死神…そして」
目をハートにして叫んだ。
「私の運命の男ーーーーッ!!」
俺「ちょ、やめろマリア」
だが遅かった。
◆変人スナイパー、恋に落ちる
マリアはタックルでもする勢いで砂丘を駆け降りた。
「黒崎ーー! 私の旦那ーーっ!!」
「…………」
黒崎は止まらない。
むしろ気づいていながら無視して歩いてる。
俺も気づいていた。
父さんはマリアの存在を完全に理解していた。
そして、明らかに、
「関わりたくない」と顔に書いてあった。
「ちょっ…待ちなさいよーーー!
名前教えてくれたじゃないの!
あれは告白と同義でしょ!? ねえ!? ねえー!」
黒崎は無言で歩き続ける。
マリアは後ろから走りながら、
FALを背負った黒崎を抱きつこうとするが
「スッ」
黒崎は身体を横にずらし、マリアは砂に突っ込んだ。
バサァッ!
「ぐえっ!!?」
俺「マリア、黒崎は元・暗殺者だぞ。捕まえられるわけないだろ」
砂まみれのマリアが顔を上げる。
「むしろ、捕まりたい!」
「ちょっと黙れ」
◆黒崎健太、逃げる
黒崎は淡々と歩く。
マリアは砂漠の中を走り回る。
「黒崎ーー!! 私の愛を受け止めろーー!」
「……」
黒崎は足を止めず、むしろ徐々にスピードを上げているように見えた。
俺「…父さん、逃げてるな」
マリア「なぜ逃げるの!! 私のどこが悪いの!?
胸!? 胸が大きすぎるから!? それとも可愛すぎるから!?」
俺「マリア、自分で言うな」
走るマリアを無視し、突然黒崎が曲がる。
**その瞬間――**
マリア「捕まえた!!」
マリアの両手が黒崎の外套をつかんだ。
しかし黒崎は、
「甘いな嬢ちゃん」
次の瞬間、マリアは黒崎の姿勢制御により、
くるんと一回転して砂の上に投げられた。
軽やかに。優雅に。
攻撃ではなく“無力化”の動き。
俺「…さすがだな」
マリア「もっとやって…」
俺「お前は何を求めてんだ」
◆戦闘発生(恋愛逃走戦)
そんな
アホな追いかけっこの最中――
突然、遠くの崖上で砂煙が舞う。
俺「伏せろ!」
**パンッ!**
ライフル弾が砂地に刺さる。
敵だ。
黒崎が即座に反応し、FALを前に構える。
マリアもTAC-338を素早く展開。
俺もAK74を引き抜く。
黒崎「…尾行か」
マリア「任せろ! あたしが黒崎を守る!!」
黒崎「……逆だ。嬢ちゃんは下がれ」
マリア「惚れ直した!!」
俺「話してる場合か!」
敵スナイパーの場所を光の反射で見つけ、
俺がAK74で牽制射撃する。
マリアは砂上で寝そべり、射撃ポジションに入る。
「風速3、距離1100……」
黒崎は無言でL96A1を構え、
すでにトリガーに指をかけている。
マリアと黒崎が同時に撃った。
**パンッ! パンッ!**
二発の弾丸。
そして――
「…落ちたな」
黒崎の低い声。
敵の影が崩れ落ちる。
マリアは感動に震えていた。
「黒崎……あなたと並んで撃てた…あたし…涙が…。」
黒崎は無言で銃を背負い、歩き始めた。
◆捕獲作戦(失敗)
敵を排除すると、マリアは再び黒崎の背を追いかける。
「黒崎ーー!! 今なら私を嫁にできるチャンスーー!!」
黒崎は完全無視。
むしろ早歩きから小走りへ。
マリアは全力疾走。
俺は呆れながら後ろを歩く。
「マリア、もうやめとけって……」
「いやだ!! あたし本気なの!! 今回はガチ!!
黒崎を捕獲して私の基地に連れて帰る!!」
「人間を捕獲するな」
父は砂煙の向こうに消えていく。
マリアは最後の全力スプリントを仕掛けた。
「黒崎ぃぃーーー!! 愛してるーーーッ!!」
黒崎は……数メートル先の影になって現れたかと思うと、
急に姿がふっと消えた。
「えっ…?」
マリアは急停止し、辺りを見渡す。
黒崎の姿はどこにもない。
「い、いない!? えっ、嘘でしょ!? あたし全力で走ったよ!?
どこ行ったの黒崎ぃぃーー!!!」
俺は深いため息を吐いた。
「…父さんは本気で逃げたんだな」
マリアは砂の上に膝をつき、叫ぶ。
「うあぁぁぁぁぁ! 黒崎ーー!!
待ってーー!! 結婚してーー!!
せめて一晩くらいーー!!」
「最後のは色々アウトだ」
◆呆れる娘と、消える父と、叫ぶ変人
マリアは砂に突っ伏したまま泣き叫ぶ。
「黒崎ーー!!!
嬢ちゃんじゃなくてマリアって呼べーー!!!」
俺はその横に立ち、空を見上げた。
(父さん、逃げるのはいいけど…
あんな変人スナイパーに追われて大丈夫か?)
砂漠の風が吹き抜ける。
恋に落ちた変人スナイパー。
逃げる伝説の武器商人。
そして呆れる俺。
この砂漠でいつも混沌を生むのは――決まってこの2人だ。
俺は肩をすくめた。
「…はぁ。次会った時、父さんに謝っとくか」
そう呟き、マリアを引っ張り起こす。
今日の砂漠も、いつも通りの騒がしさだった。
◆任務前の静寂(に見せかけた嵐)
基地の射撃場。
俺はAK74を整備しながら、今日の任務内容を確認していた。
―砂漠地帯の廃村にて、武器ルートの調査。
まぁ、いつも通りの危険任務だ。
そこへ射撃場の入口の扉が勢いよく開く。
「ヒナーーッ!!」
俺「またかよ」
ビキニに砂漠迷彩ジャケットという、
常識をブチ壊した格好で走り込んでくるマリア。
マリアは目をキラキラさせながら叫んだ。
「黒崎を捕獲する作戦!
第二弾を開始するわよ!!」
俺「やめてやれって。父さん泣くぞ」
「泣かせて抱きしめたい!!」
「お前ほんとに黙れ」
◆マリア、決死の策を練る
マリアは射撃場の机をバンッと叩く。
「今回は真剣よ!!
ただ追いかけるだけじゃ捕まえられないって分かったの!」
(そりゃそうだ。父さん、世界でも指折りの逃走スキルの持ち主だからな)
「だから今回は…大規模トラップよ!」
俺「は?」
マリアは図面を広げた。
そこには
■砂漠に掘られた落とし穴
■ワイヤートラップ
■フレア式誘導罠
■フェロモン発生装置(?)
■謎の光るビキニ(?)
とても軍人とは思えない罠の数々が描かれていた。
俺「お前絶対ふざけてるだろ」
マリア「全部本気よ!!
黒崎を迎え撃ち、捕獲し、抱きしめて、可能なら…」
「その先は言うな」
◆黒崎、また現れる(逃げる前提)
廃村へ向かう途中の砂丘。
風が吹いて視界が揺れる中、
一つの影がゆっくりと現れた。
茶色い外套。
二丁のデザートイーグル。
カスタムFAL。
そして背中にはL96A1。
黒崎健太。
マリア「きたぁぁぁあああーー!!」
俺「よし落ち着け。まずは話を…」
マリア、落ち着くわけがない。
「黒崎ーーー!!!
今度こそ捕まえるわよーー!!!」
マリアダッシュ。
黒崎は一瞬だけ俺と目が合った。
『頼む…止めてくれ』
そんな無言の目。
俺「いや俺に言われても…」
黒崎は踵を返して歩き出す。
そして―
マリアの罠エリアへ一直線。
◆大規模トラップ発動(地獄)
◆落とし穴
マリア「ふふふ…落ちろ黒崎!!」
黒崎の足が穴に入る…かと思いきや。
黒崎「……」
黒崎は穴の縁を軽く蹴り、
落とし穴の“向こう側”に軽やかに飛び越えた。
マリア「ちょっとぉぉ!? なんで避けるのよ!!」
俺「避けるだろ。見えてるし」
◆その②ワイヤートラップ
黒崎が次のエリアへ入る。
と――
足元のワイヤーがピンとはじけ、
ネットが飛び出した。
俺「お、これは引っかかるか…?」
黒崎は腰を少しひねる。
ネットが空を舞って通り過ぎる。
マリア「なんでよーーー!? 今の完璧だったのに!!」
俺「世界トップクラスの元暗殺者に素人罠は効かねぇよ」
◆その③フェロモン発生装置(意味不明)
マリアが誇らしげにスイッチを押す。
「黒崎の嗅覚を刺激するわ!」
プシューッ
どこからか甘い香り(?)が漂い始める。
黒崎は微妙な顔をした。
「…匂いが強い。位置バレするぞ」
と言いながら、数歩で風上に逃げた。
マリア「うわあああぁぁぁぁぁ!!
逃げるなぁぁぁーー!!」
◆ほの④ 光るビキニ(致命的)
マリアが砂丘の上でポーズを決める。
「最終兵器!! 黒崎が見たら絶対に目を離せない!!」
ピカァァァッ!!
謎のLEDが仕込まれたビキニが光り始める。
俺「やめろ!! 航空機が誤認する!!」
黒崎は目を細めて言う。
「…眩しい」
そして俺の横にスッと来た。
「陽菜、マリアを止めろ」
俺「無理」
黒崎「…そうか」
◆捕獲作戦、ついに最終段階
マリアは黒崎の目前に立ち塞がる。
「逃がさない…今回は本気…!」
黒崎はため息をつく。
「……嬢ちゃん」
「マリアって呼びなさい」
黒崎「…マリア」
マリアは震えた。
「は、はい…(落ちた……)」
黒崎は淡々と言う。
「俺を追うな。危険だ。
お前では、死ぬ」
マリアは一瞬だけ真剣な目になる。
だがすぐに笑顔。
「危険でもいいの!
だって私、黒崎の隣に立ちたいもの!!」
黒崎は数秒沈黙し、
その後――消えるように砂の奥へ歩き去った。
マリアは両手を伸ばし、
「あぁぁぁぁーーー!!!
黒崎ーー!!! 待ってぇぇぇぇ!!!」
砂漠に反響する絶叫。
俺は肩をすくめる。
「…父さん、本気で逃げてるな」
◆作戦失敗。だが恋は終わらない。
日没。
マリアは砂の上に座り込んでいる。
「また…逃げられた…」
俺は水筒を渡す。
「マリア、無理だって。父さんは……捕まるような人間じゃない」
「分かってる……でも……」
マリアは立ち上がり、拳を握る。
「第三弾、必ずやるから!!
次は絶対に捕まえる!!」
俺「…やっぱりやるのか」
夕日が砂漠を赤く染める。
黒崎はどこかで、また静かに砂の音を聞いているのだろう。
マリアの叫び声だけが砂漠に響き渡った。
◆指令なき指令
砂漠基地。夜明け前の薄闇の中、俺は簡易デスクに置かれた封筒を見ていた。
送り主不明、印章なし。ただの無名封筒。
中には座標と、たった一行。
《救出せよ。ターゲットは生きている》
指令書の端には、黒い砂が付着していた。
(嫌な匂いがする)
上官もクライアントも不在。
つまり、誰が依頼したかも、誰が味方かも分からない。
だが任務は任務だ。
俺はAK74を肩に掛け、予備弾倉8本、M9、サバイバルナイフ、医療キット、スモーク2本を装備した。
「行くか」
独り言だけが静寂に溶けた
◆無人村への潜入
座標の場所は、既に廃村になった交易の村。
建物は半壊し、砂嵐に削られた家屋が影を作っている。
(静かだ、奇妙すぎるくらい)
気配を殺し、壁沿いに進む。
AK74の安全装置はすでに外してある。
周囲の風の音、砂の擦れる音、鉄片の揺れる音…
全ての雑音の中に「異音」が混ざらないか耳を澄ませながら一歩一歩進む。
と――
「!」
建物の影、反射。
ガラスの反射……じゃない。
銃口の反射だ。
俺は瞬時に身を倒し、地面へ伏せた。
その直後――
パンッ!!!
7.62mmの弾丸が、俺の頬の横を削り飛ばしていく。
(やっぱり敵がいるか…!)
俺は反射的に建物裏へダッシュし、遮蔽物に滑り込む。
「クソ…一発目から狙撃かよ!」
◆村全体が敵の巣
狙撃手の位置を確認しようと覗いた瞬間――
すぐに別方向から一斉射撃。
ダダダダダダッ!!
5.45mm、7.62mm、そしてショットガンの散弾まで。
建物の壁に弾痕が雨のように刻まれ、粉塵が舞う。
(数が多すぎる…! どういう状況だよ!!)
俺は即座に判断する。
正面突破は無理。
だが、包囲される前に外へ出なきゃ死ぬ。
「行くか……!」
建物の窓を蹴り破り、外へ転がり出る。
その瞬間
タタタタタタッ!!
地面へ伏せながらAK74を構え、
反撃のショートバーストを撃つ。
バンッバンッ!!
弾道は砂塵を突き抜け、
至近にいた敵一人の胸へ食い込み、倒れる。
だが―
「囲めッ!! 逃がすな!!」
怒号が響く。
(囲まれてる…完全に標的じゃねぇか!)
手榴弾のピンを抜く音が聞こえた瞬間、
俺は建物の陰へ飛び込む。
爆風が背中を叩き、砂煙が一気に広がる。
市街地戦闘
砂煙を利用する。
俺はスモークを投げ、視界をさらに遮断した。
「伏せてろ!」
敵の怒声が聞こえたが、俺は逆に飛び出す。
そのまま建物内部へ蹴破って侵入。
室内には3人。
俺を見ると慌てて銃を向けるが
俺の方が早い。
ババッッ!!
**2発。
胸と喉に着弾。
敵が後ろへ崩れる。
もう一人がショットガンを構える。
(まずいッ――!)
俺は机ごと相手にタックル。
ショットガンの銃口が天井を撃ち抜く。
ガァンッ!!
その隙に、俺は相手の腕を掴み、
肘を逆に折る角度へ捻る。
「ッぐあああ!!」
悲鳴が上がった弾みでショットガンが落ちる。
俺は落ちた銃を蹴り飛ばし、
胸元にM9を押し付けて一発。
パンッ。
無駄のない動き。
だが息をつく暇はない。
足音が近づく。
(まだ来るか…!)
◆さらに激化する銃撃と追撃
外へ飛び出すと――
待ち構えていた敵が一斉射撃。
俺はコンテナの裏へ滑り込む。
金属へ食い込む弾の音が耳を刺す。
(数が…20はいるな。何者だよコイツら…)
俺はAK74のマガジンを交換しながら、
敵の布陣を読む。
左側の廃トラックから軽機関銃。
右側の屋根から狙撃手。
正面はアサルトライフル複数。
「クライアント不明ってレベルじゃねぇ。
俺を殺すための罠か?」
なら、突破するしかない。
俺はスモークを二方向へ投げ、
視界が白く染まる一秒前に移動開始。
砂上を低姿勢で走る。
軽機関銃の弾が追尾してくるが、
俺はスライディングして掴んだ破壊されたドアを盾代わりにする。
ガガガガッ!!
弾が鉄板を貫きかける。
「…耐えろ!!」
そのままAKを突き出し、制圧射撃。
バババババッ!!
屋根の狙撃手を視界の隅で捕捉し、
単発射撃。
ダンッ!
頭部へクリーンヒット。
狙撃手が崩れ落ちる。
正面から敵三人が突入してくる。
俺は低姿勢のまま横へ転がり、
ショートバーストで三人まとめて倒す。
「まだ来るか…!」
◆ターゲットの正体
廃ビルの地下階段へ逃げ込む。
すると――薄暗い牢の中に人影。
「あなた……陽菜……?」
声は弱くかすれている。
女性。
それも軍人のような目。
俺「ターゲットは…あんたか?」
「違う。私は“囮”。
本当の標的は――あなたよ、陽菜」
(やっぱり…! 俺を殺すための任務か)
俺「誰が依頼した?」
女性は苦しげに息を吐く。
「“砂漠の死神”に近づきすぎた者を…排除する組織…」
俺の胸が締め付けられた。
(砂漠の死神=黒崎。
つまり父さんに近づいている俺を消すため?)
その時―階段の方から重い足音。
敵の増援。
俺は女性に言う。
「助け出す。黙ってついて来い」
◆最終戦闘 ― 地下脱出戦
階段を駆け上がる敵。
その数は8人以上。
狭い階段での撃ち合いは不利。
俺は即座に判断し、
階段の壁へ手榴弾を転がす。
「伏せろ!!」
爆風で階段が一瞬静かになる。
その隙に俺は第一段へ駆け上がり、
建物の出口へ走った。
だが――敵が外に待ち伏せしていた。
(完全に読まれてる――!)
「撃てぇぇぇ!!」
四方から銃声。
砂煙と火花が舞う。
俺は倒れた鉄箱へ飛び込み、
箱を盾にしながら反撃。
AK74を水平に構え、
反射で位置を捉えて撃つ。
ババッ! バンッ!!
敵倒れる。
だがまだ…まだ多い。
呼吸が焼けるように熱い。
腕も足も震える。
それでも――
「まだ、終われねぇだろ!」
俺は最後の弾倉を装填し、
砂埃の中へ突撃した。
◆戦闘の終わり、そして新たな影
30分以上の交戦の末、
俺は村の外れにたどり着いた。
息は荒く、
手には返り血と砂がこびりついている。
後ろには、救出した女性が座り込んでいた。
「あなた…どうしてアタシを…。」
俺「任務だよ。依頼された以上、やるだけだ」
女性は震えた声で言う。
「“彼”を探しているのでしょう…?」
俺「砂漠の死神のことか」
女性は頷く。
「あなたは狙われるわ…これからもっと。」
そこへ―風の中に気配。
俺は振り返る。
砂漠の丘の上に、一つの影。
外套を着た男。
L96A1、FALを背負っている。
黒崎健太。
だが、何も言わず、数秒だけ俺を見つめ―
ふっと消えるように歩き去った。
女性が呟く。
「彼は、あなたを守っている。」
俺は拳を握る。
「いつか全部聞き出す。
アイツが何を背負ってるのかも」
砂漠の風が冷たく吹いた。
任務を終えた夜、陽菜は薄い砂塵がまだ漂う砂漠に、ひとり簡易テントを張った。
無線は沈黙し、風の音だけが世界を満たしている。
久しぶりの静寂だった。戦いの匂いが一時的に遠ざかっている。
こんな夜があったこと、忘れていたな。
陽菜はテントのジッパーを静かに開ける。
夜風がふわり、と頬を撫でた。砂漠とは思えないほど優しい温度だった。
足元に目を落とし、ブーツを脱ぐ。
靴下も脱ぎ、素足を砂に置く。
ひんやりとした砂の感触が、指先からじんわりと身体に染み込んでくる。
戦場で固くなった心と体が、ほどけていくようだった。
陽菜はゆっくりと歩き出した。
砂がサラサラとこぼれ、足跡を即座に呑み込んでいく。
跡が残らない。
まるで、自分の存在さえも砂に溶けていくかのようだ。
顔を上げた。
そこには――
満開の星があった。
天を覆い尽くすほどの無数の光。
荒れた砂と対照的に、夜空だけは完璧な静謐をまとっている。
星座も、流れ星も、人工衛星でさえ肉眼で見える。
陽菜の口から、自然と息が漏れる。
「綺麗。……やば」
戦いの時間も、命のやり取りも、この星空の下では無意味に思える。
人ひとりの人生なんて、砂粒よりも小さいのかもしれない。
だけど。
――それでも生きてる。
こうして、星を見てる。
胸の奥で、ふと黒崎の姿がよぎった。
砂漠を彷徨う“砂漠の死神”。
父であり、武器商人であり、謎ばかり残して消えていく男。
星空を背景に、陽菜は目を閉じて呟く。
「父さん。どこにいるの?」
返事はない。
風の音が、ただ遠くで砂を撫でている。
陽菜は砂に座り込み、膝を抱えた。
肩の力が抜けていく。戦闘の緊張がじわじわと溶け落ちていく。
星が瞬き、まるで陽菜の涙腺が開かないように、優しく照らしている。
「明日は…また戦うんだけどな」
声に出すと、逆に気持ちが軽くなった。
この静けさがある限り、自分はまだ壊れていない。
そう思える。
陽菜は星空を見上げたまま、そっと微笑む。
こういう夜があるから、俺はまだ戦える。
砂漠の夜は深く静まり返り、陽菜の心もまた、ゆっくりと休まっていくのだった。
砂漠の夜は、昼間の灼熱が嘘みたいに冷える。
俺は簡易テントの外に腰を下ろし、砂の上に尻を預けた。
空は―今日も満開だ。
見渡す限り、星の海。
こんな光景を見てると、生きてる実感が強烈に込み上げてくる。
戦闘とか、任務とか、そんなもん全部一旦どっかに吹き飛ぶほどに。
夜風が吹き、指先が少し冷えた。
俺はバックパックから
携帯戦闘食を取り出す。
今日のメニューは、温めなくても食えるタイプのパック。
“高カロリービーフライス・ミリタリー仕様”。
名前だけは一丁前だが、味は…まあ、生きるための燃料って感じだ。
パックを開ける。匂いがふわりと漂った。
濃い味、油分多め。…でも悪くない。
スプーンを突っ込んで、一口。
噛むと、じわっとしょっぱさが広がる。
「あー、生きてるって感じだな」
誰もいない砂漠で、俺の声だけが夜に溶けていく。
こういう時、ふと母さんのことを思い出す。
あの人は料理上手だった。
俺が幼い頃、色んなものを作ってくれた。
俺の好みも、嫌いなものも、全部分かってた。
母さんの作った肉じゃがは、馬鹿みたいに甘くて、でも泣きたくなるほど旨かった。
もう二度と食えねぇんだよな。
星を見上げる。
砂漠で見る星空は、ほかのどこよりも綺麗だ。
全部の光が澄み切ってて、触れられそうで。
気づけば、母さんがいるんじゃねぇかって思ってしまうほどだ。
「母さん…俺、ちゃんと生きてるよ」
声に出すと、少し胸が軽くなる。
母さんが死んでから、俺はどこか急いで生きてる感じがあった。
任務、訓練、戦い。
気づけば息を止めるみたいに生きていた。
でも今、こうして砂の冷たさを感じながら、戦闘食を食って、星を見てる。
それだけで“俺はまだ大丈夫だ”って思える。
そっと息を吐いた。
静寂が戻る。
また一口、戦闘食を口に運ぶ。
味気なさも、今日はやけに優しく感じた。
俺は生きてる。
母さんがくれた命で、まだ戦ってる。
まだ歩いてる。
星空は変わらず、俺を照らしていた。
影より現れし男
星空を見上げながら最後の一口の戦闘食を飲み込んだ頃だった。
砂の上を踏む、柔らかい足音がひとつ。
俺は反射的に身体を固くした。
ここに来るはずの味方なんざいない。
気配は一つ。
距離二十メートル…いや、十五。
そいつは迷いなくこちらに向かってきていた。
俺はそっとAK74に触れ、呼吸を整える。
星明かりの下、砂の闇から“何か”が浮かび上がった。
徐々に形が見えてくる。
長身、細いシルエット。
顔はアフガンストールで覆われている。
男は、こちらを一瞥もせず――
まるで自分の部屋に帰ってきたみたいに、俺の簡易テントに *無造作に入ってきた。*
「待て。止まれ」
俺は低く命じた。
敵なら躊躇なく撃つつもりだった。
男は振り向きもせずに、ゆっくりと俺に左腕を見せた。
ショルダーホルスターが揺れ、そこには
シルバーのデザートイーグル が一丁。
だが抜く気配は無い。
「Calm, calm… Mrs 陽菜」
濁った英語。
その中で妙に綺麗に“陽菜”の部分だけ発音された。
「誰にMrsつけてんだよ。俺は――」
「知っている。あんた、Mrs 陽菜。
義務じゃない。俺の呼び方だ。敬意だよ。」
アラビア語混じりの声音。
陽に焼けた手がストールを外し、顔が露になる。
三十代半ばくらいか。
彫りが深く、目だけが異様に静かだった。
砂漠の夜の色をした瞳。
「敵か?」
「ノー。俺はどこの軍にも属さない。どこの組織にも属さない。
俺は“売る”だけだ。情報、依頼、暗殺、行方不明者の捜索。
**金さえあれば、何でも。」
声は淡々としていた。
脅しも誇張もない。
本当にただ“事実”を述べているだけ。
「俺の名は――
いや、名前はいい。どうせ偽名だ」
男はテントの中に勝手に腰を下ろし、砂を払った。
「Mrs 陽菜、あんたを見つけるのに三日かかった。
砂嵐が続いた。俺でも苦労した。
それだけ、あんたに興味を持った“依頼人”がいる。」
俺の背筋が、ひとつ冷たくなった。
「依頼人? 俺の名前を出したのか?」
「Yes.
陽菜を探せ。陽菜を観察しろ。
陽菜の“心の揺らぎ”を報告しろ。
そういう依頼だった。」
「は?」
俺の知らない誰かが、俺を監視するためにこの男を雇った…?
あり得ない。
だが男の目には嘘がなかった。
「依頼は断った。
俺は“心”には興味がない。興味があるのは――
結果だけだ。
だから依頼主をぶん殴って帰ってきた。」
「殴ったのかよ…」
「Yes。失礼な依頼だった。俺は感情を売らない。」
男は肩をすくめる。
その仕草が妙に自然で、逆に不気味だ。
「じゃあ何しに来た」
「Mrs 陽菜。あんたに知らせなきゃ気が済まなかった。
“どこかの誰か”があんたを欲しがっている。
狙っている。心まで含めて。
だからここに来た。」
夜風が吹く。
テントの布が揺れ、俺の心臓もじわっと脈を速めた。
「……もうひとつ。
あんたの名前を聞いた時、俺は面白い繋がりを思い出した。」
「繋がり?」
男は薄く笑った。
笑っているのに、目は笑っていない。
「“黒崎健太”という名に心当たりは?」
俺は息を飲んだ。
「知りたいか?」
デザートイーグルの銀が月光を反射する。
その光が、砂漠の冷気に震えていた。
俺は喉を鳴らすようにして答えた。
「教えろ」
「いいだろう。だが――」
男は立ち上がり、砂を払って夜に溶ける。
「料金は高い。
情報は命より重いからな。
また来る、Mrs 陽菜。」
そう残し、男の影は星明かりの下へ消えた。
残された俺の心臓だけが、静かな夜に激しく鳴っていた。
あの夜から三日。
俺は、あの“謎の情報屋”のことをずっと頭から離せずにいた。
誰だ、あいつは。
なぜ俺を探してまで来た。
どこの誰が、俺の心を観察させようとしている。
そして―黒崎健太(父親)の名前を、なぜ知っている?
考えても答えは出ないまま、軽い単独任務が降ってきた。
内容はシンプル。
**廃村に残った敵の通信装置の破壊**
敵の規模も小さく、普段なら“散歩ついで”で終わるはずの仕事。
だが。
■一発の銃声
俺が通信機材に手を伸ばした瞬間、乾いた破裂音が砂を切り裂いた。
*キィンッ!*
俺の足元の石が砕け、砂が跳ねた。
「……スナイパーかよ」
距離は800〜900。
位置は……右上の岩場。
M24かSVD、そんなソリッドな反動音。
すぐに遮蔽物へ転がり込む。
息を潜めた次の瞬間――
*ダダダダダァッ!*
廃墟の反対側から、機関銃のフルオートが襲い掛かった。
「ガンナーまでいるのかよ……!」
まるで“陽菜を殺すためだけ”に配置されたみたいだった。
スナイパーが撃ち、俺が動けばガンナーの射線に入る。
狙い澄ました配置。
誰の指示だ? 俺を狩るために、こんな丁寧な罠を?
俺は砂の中に身体を押し込み、呼吸を整える。
しかし動けない。
一歩でも動けば、弾雨が俺の身体に穴を開けるだろう。
「……くそ。詰んだか?」
その時だった。
■遠くの闇に“気配”
砂の匂いに混じって、わずかに風が揺れた。
俺の肌がざわっと粟立つ。
――誰かいる。
敵じゃない。
味方でもない。
ただ、異様に“静か”な気配。
砂漠で、息すら音にならない存在なんて……ひとりしか思い浮かばなかった。
次の瞬間。
■銀色の刃のような銃声
ズドンッ!
乾いたが、重みのある破裂音。
ライフルの音じゃない。
ハンドガン、それも……大口径。
俺の視線の先、約900メートルの岩場で――
敵スナイパーの頭が弾け飛んだ。
「…は?」
理解が追いつかない。
距離、900。
風速、約3m。
しかも砂嵐気味。
ハンドガンで狙撃は不可能だ。
普通なら、絶対に。
だが、たった一丁の **シルバーのデザートイーグル** がそれを実現した。
情報屋だ。
■砂を裂く影
「Mrs 陽菜。動くな。次はガンナーだ。」
声は静かで、砂漠の夜より冷たかった。
ガンナーが慌てて機関銃をこちらに向ける。
俺に向け――
情報屋の姿が“消えた”。
「……は?」
本当に、一瞬で視界から消えた。
その直後、ガンナーの叫びが乾いた砂に消えた。
次に聞こえたのは、短く抑えた銃声。
*ズドッ…ズドンッ!*
敵の至近距離に入り込み、数発で処理していく。
俺は動けず、ただその音を聞くしかなかった。
戦闘は――わずか十五秒で終わった。
静寂。
何も動かない砂漠。
そして、砂煙の向こうから、あの男が歩いてきた。
シルバーのデザートイーグルを片手に、
まるで“散歩帰り”みたいに。
俺は呆然とその姿を見つめた。
「お前、なんなんだよ」
口から出たのはそれだけだった。
情報屋は、ストール越しに目だけを俺に向けた。
「Mrs 陽菜。
あんたは今、狙われている。
俺が助けたのは、依頼じゃない。
“気まぐれ”だ。」
気まぐれで狙撃手の頭を飛ばし、
気まぐれでガンナー部隊を壊滅させる男。
こいつは何者だ。
「昨日の敵は明日の客。
昨日の客は明日のターゲット。
砂漠はそういう場所だ。」
そう言い残し、男は背を向けて去っていった。
残ったのは死体と、砂と、焼け付くような夜風だけだった。
俺は立ち尽くしたまま、
男の足跡が消えるまで見送った。
「……また、謎が増えたな」
胸の奥がざわざわして仕方がなかった。