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「おはよう。巡」

「お、おはよう。蛍……」


通学路で出会ったのは、わたしの親友の万場蛍だった。彼女は変わりなく、私に挨拶をする。蛍は、可愛いと言うより格好いい印象を受けるし、頼もしいわたしの親友だ。

でも、生きていることに違和感がある。


(いや、この言い方だと完全に誤解を生むというかなんというか……)


ちょっと前まで、彼女の葬式に出たような記憶があったからだ。彼女は本来ならこの場にいないはず……でも、目の前にいるのは確かで。


「どうした? 顔色悪いけど」

「あ……いや、大丈夫。うん、大丈夫だけど」

「本当に? 学校休めば良いじゃん」


と、蛍は私のことを気にしてくれる。そう簡単に学校休むなんて言えなよと、私は何処か頑固なところがあるから、首を横に振った。別に、皆勤賞を狙っているわけでもないし、休んでも問題ないのだけど……


この際、蛍に聞いちゃえば良いのかもしれない、と私は固唾を飲み込んだ。まだ、夢だという感覚がある。でも、これが夢じゃなくて現実だと、もしも、親友に肯定された場合、私は受け入れようと思っている。


「ねえ、蛍」

「何? 辛気くさい顔して、矢っ張り、調子悪いんじゃない?」


蛍の気遣いが凄く嬉しかった。だからこそ、緊張の糸が緩んで、私は、ふうと息を吐くことが出来た。

何でか知らないけれど、いつも会っていたはずの親友にこんなにも緊張してしまっているなんて。思いもしなかった。


「蛍……これって、都合の良い夢だったりしない?」

「都合の良い夢? どういうこと?」

「だから、誰かが望んだ夢というか、そういう形というか……うーん、説明しづらいけど、兎に角、今この瞬間が夢じゃ無いかって思ってるの!」


私はそう言いきって、息継ぎをした。あり得ない話、馬鹿げた話。蛍であっても、これはアニメ飲みすぎなんじゃないかと笑われても仕方がない。でも、蛍は、考え込むような素振りを見せた。本気で私の話を聞いてくれているんだと、ほっとする。

矢っ張り、蛍は優しい。私と真剣に向き合ってくれる。


「貴方が、そう違和感を感じているならそうなんじゃない?」

「って、言われても、私自身分からなくなっちゃって」

「分からなくって?何が?」


と、蛍は首を傾げる。


彼女は本気なんだろうけど、どうも噛み合っていないような気がする。

静かすぎる通学路。私達の沈黙はゆるゆると広がっていくようだった。


「貴方が、夢だって思っているなら、夢だと思うし。もし、その夢から覚めたくないって言うなら、それにしたがっても良いんじゃない?」

「えーっと」

「私は、貴方がどうしたいか、何を信じたいかって、それを大事にすればいいと思う」


と、蛍は言うとふわりと笑った。


彼女の笑顔を見て、背中を押されるような感覚に陥る。彼女は何か気付いているのではないだろうか。でも、其れを私自身に気づかせようとしていると。そんな感じがしたのだ。


「これは、夢だと――――」

「お姉ちゃん、私もいるんだけど」


夢かも知れないから、と言いかけた瞬間とんと私の肩を誰かが叩いた。十中八九廻で、彼女は、ぷくぅと頬を膨らましている。同い年で、双子で大差ないはずなのに、彼女の方が可愛く見えるのは何でだろうか。可愛く見えるのは何でだろうか。

私は彼女に甘いんだと思う。


「あ、ごめん……廻」

「私、空気になってたじゃん。二人で、こそこそ話していたの?」


そう、廻は不安そうに聞いた。別に、廻の悪口じゃないのに……そう思いつつも、不安そうな顔をするものだから、私は思わず頭を撫でてしまう。子供だなあ、何て思いながら蛍の方を見た。すると、蛍は、何故か険しい顔で私を見ていた。私を……というよりは、廻をと言う方が正しいのかも知れないけど。


「何? 蛍」

「……いいや、仲がいいなって思って」

「私達は、双子の仲良し姉妹ですから!」


そう答えたのは、廻で、彼女は私の腕に自分の腕を絡めてきた。まるで、恋人をとられないように必死になる女の子みたいな。そんなことしなくても、親友と血の繋がった家族ではまた違うじゃ無いかと思った。どっちが大切で、とかはないけど、同じ物差しで測れないと思う。

それに、廻が必死になる理由が分からなかった。


「蛍も、酷いよ。私のことのけものにして」

「ごめんなさいね。そんなつもりなかったんだけど。違和感が働いて」

「違和感?」

「忘れて、巡。早くしないと、学校に遅れるわよ」


と、蛍は何か言いたげに私に背を向けた。


矢っ張り何か知っているのでは無いかと思った。だからどうにかして聞き出そうと思ったのだけど、また先ほどみたいに廻に邪魔されるのでは無いかと思って、私は何も言えずにいた。

学校に行く途中、その事について廻に言及してみる。彼女の行動は行きすぎているようにも感じる。狂気を感じるというか、これが普通なのかも知れないけれど。


(普通って受け入れたらそれまでな気がするけどさあ……)


「廻」

「何?お姉ちゃん。顔色まだ悪いけど、大丈夫?」

「う、うん。大丈夫。じゃなくて、何で邪魔ばかりするの?」

「邪魔? 何のこと?」


ああ、天然か。あれは、わざとやっているわけじゃなくて、無意識にやっているのか、と私は少しだけ遠い目をして廻を見る。腕に絡みついて離れない、蔦のような廻を見て、溜息が思わず零れた。

廻は、目を細めて、少し悲しそうな顔する。


「私、迷惑かな……」

「え? どうしてそう思うの?」

「だって、お姉ちゃん、蛍のことばっかりだったから。蛍と話してると楽しそうだし、私の事なんて眼中にないって感じで。邪魔なのは、私?」


と、廻は言うのだ。


ここでいつもなら、面倒くさいなあ……何て済ませられるのに、そんな風に済ませてはいけない気がして、私は「違うよ」とだけ口にした。


「邪魔だとか思ってないから、全然。でも、蛍と話させて欲しいなあ……なんてはおもったかな。あはは」

「お姉ちゃんは私だけいれば十分じゃん」

「ええ」


そこまで言う? と、彼女の執着の深さを垣間見た気がして、悪寒がした。先ほどの優しい天使のような彼女じゃなくてどす黒い混沌みたいな何かを見た。姉妹に向ける感情にしてはドロドロと濁った物のような気もする。


「私の事好きって言ってくれるのは嬉しいけどさ、ほら、家でも話せるし」

「私は、ずっとお姉ちゃんと一緒にいたいの。三六五日ずっと……一緒にいたいの」

「我儘だなあ」

「我儘にもなるよ……だって、お姉ちゃんのこと好きだもん」


消えそうな声で言う廻を見て、少しだけ胸が痛んだ。まるで、ようやく二人きりになれたのに、空いてしまった時間を埋めようとしているのに……とも捉えられる廻の言動に違和感を覚えざる終えなかった。

確かに、彼女とはずっと一緒にいた気がしないのだ。最近ようやく一緒になれたみたいな……そんな感覚が。


(可笑しいよね……こんなの)


何を信じれば良いのか、分からなくなってきている。

募る不安と、霞む現実と、私はいったいどうすれば良いのだろうか。

そんな思いを抱えながら、学校に着いた。クラスは姉妹だからという理由で離されているが、休み時間になるたび、廻は私の教室にきた。因みに私は蛍と同じクラスだ。


「貴方の妹飽きないわねえ」

「あ、あのさ、いつもこんな感じだったっけ?」


廻のクラスは、次が体育と言うことでこの休み時間に廻は来なかった。だから、その隙を見計らって私は蛍に話し掛けたのだ。蛍はうんざりした、見たいなかおを私に向けている。まあ、そりゃあ、クラスが違うのにしょっちゅう私のクラスに来る廻は異常かも知れない。蛍だって話したいことがあるだろうし、私も蛍と話したかった。でも、それを邪魔するように廻が割って入ってくる。

親友との時間を壊されている気分だった。何で、家までまてないのか。

私は、そもそも、何故廻にあんなに執着されているのかすら分からなかったのだ。


「ごめん、私の妹が」

「ううん、大丈夫よ。慣れっこだから」

「慣れっこって、矢っ張りこんな感じなの?」


と、私が聞くと、蛍はキョトンとした目で私を見た。何か変なことでも言っただろうか。


「巡」

「は、はい、何でしょうか」

「貴方、朝、これが夢なんじゃないかっていったわよね」

「い、言った」

「今でもそう思ってる?」


そう、蛍は私に尋ねた。

その質問の答えをどう返そうかと迷いに迷って、私は縦に頷いた。


「う、うん。夢だと思ってる」

「そう……」

「蛍は何か知ってるの?」


蛍は、私の問いに関しては何も応えなかった。それは、自分で判断してとでも言うような顔を私に向けている。


「……知ってると言えば知ってるわ。でも、貴方が目覚めたくないって言うなら私は何もしないし、誰かが用意した此の世界で、シナリオの上でその役を演じるつもり」

「どういう……」

「貴方には、戻るべき場所があるでしょ。それを、思い出しなさいって事。この幸せばかりの世界に埋もれたくないなら、現実を見る。それしかないのよ」

「……ッ」


リュシオル……と、思わず口から出そうになった。知らない単語のはずなのに、妙に馴染んだその名前に、私はハッと顔を上げる。

すると、ガラガラっと扉が開いたかと思えば私の前に一人の男子生徒が駆け寄ってきたのだ。


「天馬巡」

「は、はい……!」


彼の顔を見た瞬間、ヒュッと喉が鳴った。

ああ、この姿を見るのは久しぶりだと、何処か喜んでいる自分もいた。


「遥輝……?」

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