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朝7時!!
……睡眠時間、およそ2時間半……。
「ねむぅ……」
いくら若いとは言っても、眠いものは眠い。
しかしルイサさんの言葉から察するに、年齢を重ねれば重ねるほど辛くなるのだろう。
歳は取りたくないものだね。取らないけど。
……さて、それは置いておいて、今日もきりきり働くことにしよう。
最低限の仕事としては、『野菜用の栄養剤』を作ることのみ。
それ以外にも出来ることがあればやりたいけど、果たしてその元気は残っているかな……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
朝食と外出の準備を済ませて部屋を出ると、すぐ外で待っていたルークが急かしてきた。
「――さぁ、アイナ様! すぐに行きましょう!」
「え、えぇ!? ルーク、どうしたの?」
「お話はあとで! エミリアさんも早く!!」
「は、はい!?」
ルークの横にいたエミリアさんも、訳の分からないまま急かされる。
しかし、階段を降りて玄関に向かう途中で、ルイサさんがメイドさんと話しているのが見えた。
「ルイサさん、おはようございます」
「おはよう。アイナさん、しっかり眠れた? 3時間も眠れなかったでしょう?」
「あはは。凄く眠いんですけど――」
「アイナ様、急ぎますよ!!」
「……え? えぇ!?」
ルークは私の背中を優しく押しながら、ルイサさんとの話を切る形で外に連れ出そうとする。
「ちょ、ちょっと!? まだ話の途中――」
「ルーク! しっかりやんなさいよ!!」
「ほ、放っておいてよっ!!」
ルイサさんの謎の言葉とルークの素の言葉を最後に、私はお屋敷の外に連れ出されてしまった。
……ああ、なるほど。
私がいない間に、ルークはルイサさんからいろいろと言われてしまったのだろう。
今の私に『付き合う』だなんて奇特な人は、なかなかいないからね。
でも、私もルークもお互いそういう関係は求めていないわけで。
ルイサさんのお節介も、完全に不発したって感じかな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふふっ♪」
錬金術の工房に向かう途中で、エミリアさんが嬉しそうに笑った。
「エミリアさん、どうしたんですか?」
「いえ♪ さっきのがルークさんの本来の話し方なのかな~、って♪」
「そうですね。地元の人に会うと、ああいうのが出ちゃいますよね」
「あはは、確かに。他の人と一緒にいるときだと、凄く恥ずかしいですよね。
ルークさん、とっても分かりますよ!」
「……うっ」
エミリアさんの悪戯っぽい視線に、ルークは小さくうめき声を上げた。
案外、精神ダメージを受けちゃってるなぁ……。
「ちなみに私は4時過ぎまでルイサさんと話していたんだけど、ルークはどうだったの?」
「はい、5時前に軽く身体を動かそうと部屋を出たところ……部屋の外にルイサさんがいまして」
「まさかの待ち伏せ!?」
「最初こそ再会を懐かしんでいたのですが、何やら途中で空気が変わりまして……」
「……何だか察したよ」
「え? え? どういうことですか?」
私とルークの暗い表情を見て、エミリアさんが不思議そうに聞いてくる。
「エミリアさん。
つまりあれです、いわゆるおばちゃんのお節介……というやつです」
「あ……。……はい、わたしも察しました。
確かにアイナさんとルークさんって、くっつきそうでくっつきませんからね」
「ちょちょっと、そんな目で見ていたんですか!?」
「いえ? 普段はそうでもないんですけど、たまに『あれ?』とは思いますよ?」
「「思わないでください!!」」
「は、はぁ……」
思わず声の合った私とルークと眺めながら、エミリアさんは生暖かい眼差しを向けてくれた。
……くっ、その視線が辛い……っ!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昨日と同じ工房を訪れると、これまた昨日と同じ錬金術師の三人が待機してくれていた。
ちなみにルークとエミリアさんは、今日も外で見張りをしてくれている。
「おはようございます!」
「師匠、おはようございます!」
「「アイナ様、おはようございます!」」
「みなさんお早いですね。しっかり休んでますか?」
「師匠こそ、思いっきり眠そうですけど……」
おっと、墓穴を掘ってしまった。
確かにこの中で一番しんどそうなのは、私のようだ。
「すいません、昨晩は話し込んでしまって……」
「おお! この街のこれからのことですか!?」
「錬金術の可能性についてですか!?」
「新しい神器のことですか!?」
……何だろう。私の期待値が無駄に上がっているような気がする。
「どれかと言えば……、この街のこと……?」
「やったー! ほらほら、さすが一番弟子でしょう!!」
「くそ、さすがレティシア……!」
「一番弟子は伊達じゃないな……!」
満足そうなレティシアさんを、他の二人は悔しそうな目で睨み付ける。
レティシアさんの株も無駄に上がっているようだ。
「……さて、お察しの通り私は寝不足なので、さっさと今日の分を作ってしまいましょう。
素材の搬入は終わっていますか?」
「はい! 師匠は一瞬で作ってしまうので、搬出しやすいように隣の部屋で準備をしておきました!
昨日の3倍くらいの素材が集まっていますよ!!」
「おお、採集班も頑張っていますね! それじゃ、私たちも頑張りましょう!!」
「「「はい!!」」」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――とは言っても、作成自体は一瞬で終わってしまうわけで。
本日作った『野菜用の栄養剤』は300個と少し。
作った説明書は70枚。
栄養剤と説明書の数のバランスは悪いものの、その辺りは配る人のコミュニケーション能力でカバーしてもらおう。
あと、『ぷちぷち君』の代わりの緩衝材を紙で作ってはみたものの、何だか微妙だったので使うのは止めることにした。
……たくさん割れるとか、そういう問題が出てきたら改めて考えることにしよう。
昼過ぎに工房を出てから、ルークとエミリアさんと一緒に街を歩いていく。
空気は冷たいものの、暖かな陽射しが気持ち良い。
「アイナ様? 今はどちらに向かっているんですか?」
「……あれ、ここ、どこ?」
「えーっ。アイナさんが迷いなく歩いていくから、わたしたちは付いてきたんですよ!」
「えぇっ!?」
ルークに確認を取るように視線を向けると、彼も静かに頷いた。
「アイナ様、お疲れのようですから……今日はもう戻ってお休みになられますか?
少し危なっかしいですし……」
「むぅ……。確かに寝ぼけているところを襲われたらお間抜けだもんね……。
――って、冒険者ギルドがあるじゃん!!」
話の途中、見知った建物を見つけてようやく居場所を把握する。
こんなところまで来てしまったのか。……ダメだ、頭が全然まわっていない……。
「あはは♪ アイナさん、|寝坊助《ねぼすけ》さん~♪」
「うぅ……。でもここまで来たなら、折角ですし冒険者ギルドに寄っていきましょうか。
ルークとエミリアさんのことを紹介したい人もいますし!」
「わぁ、是非~♪」
「いえ、アイナ様。私は外でお待ちしていますので」
「えー。ダメダメ! 拒否は許しませーんっ!!」
私はルークの背中を押しながら、冒険者ギルドの入口に向けて歩き出した。
「アイナ様!? 押さないでください……っ!!」
「ルークだって今朝、私のこと押してたでしょ? おあいこっ!!」
「わたしも手伝います! それーっ!!」
ルークの背中押しに、エミリアさんも参加してきてくれた。
よーしよし、このまま冒険者ギルドに一気に入ってしまえーっ。
「うわぁっ!?」
「よーしっ!」
「大成功~♪」
「――お兄ちゃんっ!!」
「「え?」」
どうにかこうにかルークを冒険者ギルドに押し込んで満足していると、思いがけない言葉が聞こえてきた。
声の方を見てみれば、そこにはいつも通り冒険者ギルドの受付嬢のケアリーさんが――
……身を乗り出して、こちらを見ていた。……え? どうしたの?
「『お兄ちゃん』……って?」
ケアリーさんの視線の先には私たちしかおらず、そして男性といえばルークだけだ。
そんなルークの顔を見てみると、『あちゃぁ……』といった表情を浮かべている。
え?
……ルークとケアリーさんって、兄妹だったの?