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冒険者ギルドの食堂で、私たちは四人でテーブルを囲んだ。
昼食が全員まだだったので、一緒に食事をすることしたのだ。
「――改めまして、ケアリー・アリム・スプリングフィールドです。
そういえば、フルネームでの自己紹介は初めてですよね」
「そ、そうですね……。
改めまして、アイナ・バートランド・クリスティアです」
「うふふ♪ アイナさんのことはもう知ってますよ!」
……それもそうか。
何回も冒険者カードを見せているし、私の名前は今や誰もが知るところなのだから。
「ケアリーさん、初めまして。
わたしはエミリアです。アイナさんとずっと一緒に旅をさせてもらっています!」
「初めまして! 司祭様なんですね、素敵です!」
「えへへー♪」
ケアリーさんの言葉に、エミリアさんは素直に嬉しそうだ。
「えーっと、それでもう一人の仲間が……」
「……ルーク」
「お兄ちゃんは知ってるよ!」
気まずそうに言うルークに、ケアリーさんのツッコミが飛んだ。
ケアリーさんのこんな言葉遣いは初めて聞くけど、どこか親しみを感じてしまう。
「それにしてもケアリーさんって、ルークの妹さんだったんですね。
二人とも何も言わないから、まったく知りませんでしたよ」
「すいません、うちの兄が」
「何で俺なんだよ……」
「えーっ!? だって私、アイナさんが旅立ってから連絡のしようが無いじゃない!
ようやく帰ってきたと思ったら、まだ話してないとか信じられない!」
「だってお前、そんなことを言う必要は無いから……」
「そんなーっ! 快く送り出した私の立場はどうなるのよーっ!?」
……目の前で、ルークとケアリーさんの微笑ましい喧嘩が繰り広げられている。
二人の見たことのない部分が見えて、嬉しいような、気まずいような。
「えーっと……。二人ってあまり似ていませんし、私も気付けなくてすいません……」
ひとまず着地点を見出せず、私は謝る形で話に入っていく。
正直、目の色まで違うのだから、気付けという方が無理なんだけど……。
「ははは……。兄妹とは言っても、父親が違うんです。
それに私は父親似、妹は母親似なんですよ」
「あ、そうなんだ……?」
「はい! でも、別に気にしなくても大丈夫ですよ。
みんな亡くなってしまったのは寂しいけど、何とかやっていけてますし」
「……というと、ご家族は二人だけなんですか?」
「はい。でも、もう自立した大人ですから。
時間もそれなりに経っていますしね」
ふむ……。
私は幸いなことに、家族の死に目には会ったことがない。
むしろ私の方が先に死んじゃって、この世界に転生することになってしまったくらいなのだ。
「それにしても、ルークも教えてくれれば良かったのに」
「……まぁ、何と言うか、ですね……。
アイナ様と一緒に妹と会うのは、どうにも気恥ずかしいと言いますか、避けたかったと言うか……」
「避けたかった? 何で?」
「妹はですね、恋愛話が好きなので……」
「……察した」
「お兄ちゃん! そういうことはバラさないでよーっ!?」
「ケアリーさん。あの、私とルークはそう言うのではないので」
「えぇっ!? クレントスから離れてずっと一緒だったのに、お兄ちゃん何してたの!?」
「あのなぁ……」
……何だか収拾が付かなくなりそうだ。
ルイサさんと言い、ケアリーさんと言い、本当に親戚のおばちゃんというか……。
いや、おばちゃんと言うにはケアリーさんは若すぎるけど……。
「そういえば昔、ケアリーさんがヴィクトリアの件で悩んでいたときって、家族に相談したんですよね?
それって――」
「はい、私です」
……やっぱり?
ルークの言葉に、私は納得する。
「アイナさん、私だって兄の相談には乗っていたんですよ!?
ほら、英雄シルヴェスター様の――」
「ちょ、お前っ!?」
……んん?
「何よーっ!
お兄ちゃんがうじうじしてるから、アイナさんを誘えばーって後押ししたの、私でしょーっ!!」
……おふぅ。
ルークと一緒に英雄シルヴェスターを見に行ったことがあるけど、それはケアリーさんの提案だったのか……。
何ともかんとも、別に知らなくても良いところがどんどん繋がっていってしまう。
「……私、そこで神剣デルトフィングを見て、神器を作ることにしたんですよね。
ケアリーさんがいなかったら、もしかして神剣アゼルラディアは生まれていなかったかも……」
私の言葉に、ケアリーさんはぎょっとした顔を見せた。
「え、えぇ……!? でも、確かにそうかも……。
もしかして、そのせいでアイナさんを酷い目に……?」
「いや、まぁ……そんなことは無い? ……とは思いますけど」
しかし100%違うと断言する自信も無かった。
ただ、そんなことを言っていても仕方がない。運命なんて、どう転ぶか分からないのだから。
「――でも、その出会いがあったからこそ新しい神器が生まれたんですよね。
ケアリーさん、お兄さんが持っている剣が新しい神器なんですよ!」
「はぁ……。何ていうか、お兄ちゃんが神器を持ってるなんてなぁ……。
信じられないよ……」
「うるさいな……」
可愛い兄妹喧嘩はまだまだ続く。
私もさすがに慣れてきて、もはや微笑ましく見ることしか出来ていない。
「まぁまぁ。折角だしルーク、ケアリーさんにアゼルラディアを見せてあげれば?」
「アイナさん、ありがとうございます!
ほらほら。お兄ちゃん、早くーっ!!」
「はいはい、危ないから触るなよ?」
そう言いながらルークは椅子から立ち上がり、鞘から神剣アゼルラディアを抜いた。
食堂の照明に照らされて、神剣アゼルラディアの刃や宝石に光が煌めく。
「わぁ……。アイナさん、凄いですね!
この剣はとっても綺麗で、品があって――……それなのに、何でお兄ちゃんが持ってるの?」
「うるさいな……」
……何だかこの兄妹、いちいち面白いんだけど……。
でも仲は悪くはないというか、きっと私とエミリアさんがいなければ、とっても仲良く話しているんだろうな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……アイナ様。すいません、うちの妹が……」
冒険者ギルドを出てから歩いていると、ルークが謝ってきた。
「いやいや、全然。
ルークとの絡みも面白かったよ?」
「あはは、アイナさんもですか?
わたし、笑うのを凄く我慢していました……!」
私とエミリアさんが笑うのを見て、ルークは複雑な顔をした。
しかしその顔が、また笑いを誘ってしまうという悪循環を生み出してしまっている。
「――さて、この話はそろそろおしまいにしますか。
えーっとそれじゃ、これからどうします? あとはもう用事は無いから――
……あ、お菓子を買って帰らないと!」
「おお、これから行きますか!?
ルークさん、しんどいときはお菓子ですよ! お菓子を食べて元気になりましょう!」
「え? 何で突然……?」
お菓子の件は昨日の夜、エミリアさんと話していたときに出ていたものだから、ルークは当然ながら何のことかは分からない。
とりあえずお店に着くまで、そこら辺の話をしておこうかな。