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#エリオット
あおあお
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深夜三時。
FORSAKEN暗黒厨房。
普段なら、
誰かしらの悲鳴か爆発音が響いている時間帯だが、
今夜は珍しく静かだった。
聞こえるのは。
じゅううう……。
ソースが煮詰まる音だけ。
「……まだだ」
1eggsが低く呟く。
金色のフライパン。
漆黒のソース。
魔界香草の香り。
火加減は限界まで繊細に調整され、
厨房全体に濃厚な匂いが広がっていた。
「あと少し……
あと一滴だけ酸味を――」
真剣だった。
いつもの怒鳴り声もない。
ただ、
料理だけを見ている。
その時。
ぽす。
「ッ!?」
背後から、
柔らかい感触。
1eggsの肩が跳ねる。
振り返るより先に。
「いい匂い」
聞き慣れた声。
ジョン・ドウだった。
相変わらずの満面の笑顔。
白いコック服。
赤いスカーフ。
そして右腕は、
深夜でも元気に回転する大型ミキサー。
ブォン♪
「な、お前……
音もなく出てくんな!!」
「えへへ」
ジョン・ドウは笑ったまま、
1eggsの肩越しに鍋を覗き込む。
近い。
めちゃくちゃ近い。
発酵した小麦みたいな甘い香りがする。
「試作?」
「……見りゃ分かんだろ」
「味見していい?」
「まだ調整中だ」
1eggsは小さく舌打ちしながら、
ソースをスプーンですくう。
慎重に香りを確認し――
その瞬間。
ひょい。
「あ」
ジョン・ドウが、
そのスプーンを横から奪った。
「おま――」
そのまま。
ぱく。
静かな厨房に、
小さな嚥下音だけが響く。
「…………」
時間が止まった。
1eggsの脳も止まった。
ジョン・ドウは、
ゆっくり味を確かめる。
もぐ。
こく。
そして。
にこ。
「おいしい」
「…………」
「深い味」
「…………」
「熱くて、
ちょっと苦くて、
でも優しい」
「…………」
「僕の腕じゃ作れない味だ」
ブォン。
ミキサーが静かに回転する。
ジョン・ドウは、
スプーンを持ったまま、
じっと1eggsを見つめた。
「1eggsだけの味だね」
「――――ッ!!」
1eggsが爆発した。
「お、おま……
それ……!!」
顔が一瞬で真っ赤になる。
漆黒の顔なのに分かるレベルで赤い。
「な、何勝手に食ってんだ!!
しかもそのスプーン!!」
「?」
ジョン・ドウは首を傾げた。
本気で分かってない顔。
「スプーン?」
「俺が使ってたやつだろうが!!」
「うん」
「うんじゃねぇ!!」
「……あ」
数秒遅れで理解した。
ジョン・ドウの顔が、
ほんのりピンク色になる。
「えへへ」
照れていた。
「じゃあ、
1eggsと同じ味したんだ」
「するかァァァ!!」
ガンッ!!
1eggsがフライパンを叩く。
炎がボォッと跳ねた。
ジョン・ドウは嬉しそうだった。
すごく嬉しそうだった。
「1eggs、
甘い味もするんだね」
「しねぇよ!!」
「でも今、
すごく熱い」
ぺた。
柔らかいパン生地の手が、
1eggsの頬へ触れる。
「あつあつ」
「~~~~ッ!!」
完全に限界だった。
1eggsはフライパンを振り回しながら後退する。
「ち、近ぇ!!
離れろ!!
生地野郎!!」
「やだ」
即答。
「もっと味見したい」
「断る!!」
「一口だけ」
「駄目だ!!」
「半口」
「刻むな!!」
深夜の厨房に絶叫が響く。
その頃。
厨房入口では。
夜食のコーヒーを取りに来たスペクターが、
静かにその光景を見ていた。
完璧な真顔。
数秒の沈黙。
そして。
「……仲がいいね」
恐ろしいほど平坦な声だった。
「どこがだよ!!」
1eggsが即叫ぶ。
スペクターは気にしない。
コーヒーを淹れる。
「若者の深夜の交流は、
文化形成に必要だからね」
「交流の距離感じゃないですねこれ」
いつの間にかいたアズールが、
生気のない目で呟いた。
「しかもまた厨房で始めてますし」
「別にいいんじゃないかな」
スペクターはコーヒーを一口飲む。
「味は良さそうだった」
「そこしか見てないんですか」
「重要だよ?」
その後ろでは。
ジョン・ドウが、
まだ1eggsへ近づこうとしていた。
「もう一回味見したいな」
「来んなァァァ!!!」
ブォォォォン♪
今日もFORSAKEN暗黒厨房は、
深夜まで騒がしかった。