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#エリオット
あおあお
8
#エリオット
あおあお
48
朝。
FORSAKEN暗黒厨房。
本来なら、
料理人たちの怒号と爆発音が響き始める時間帯。
しかし今日。
厨房入口には、
あまりにも致命的な“障害物”が存在していた。
「…………」
1eggsが止まる。
金色の瞳が細くなる。
目の前。
厨房の両開き扉のど真ん中。
そこに。
でかい男が、
完璧な“お座り”をしていた。
「……おい」
低い声。
「邪魔だ」
返事はない。
「そこをどけ、
この元・覇王」
ノスフェラトゥだった。
長身。
真紅の瞳。
赤い仮面。
蝙蝠の耳。
そして現在――
床の上で、
めちゃくちゃ嬉しそうに待機していた。
「ッ、ハァ…… ハァ……」
耳がピクピク震えている。
「スペクター様より……
“厨房一ヶ月出禁”という極上のお預けを賜って、
今日でまだ三日……」
床を撫でる。
「しかし!
厨房の敷居をまたぐことは禁止されていても!
こうして境界線ギリギリで残り香を浴びることまでは禁止されていない……!!」
「怖ぇよ」
ホスフォラスが遠巻きに爆笑していた。
「なに!?
“残り香を浴びる”って!?」
ノスフェラトゥは床の上で身悶える。
「はぁあああ……
この焦らし!
この飢餓感!!
体が内側から引き裂かれそうだ……ッ!!」
「知るか!!」
1eggsがブチギレた。
「入口塞いでんじゃねぇ!!
食材搬入できねぇだろうが!!」
ガンッ!!
黄金のフライパンを構える。
「どかねぇなら!!
その脳内バグった頭を、
このフライパンで叩き割って移動させるぞ!!」
「おお……!!」
なぜかノスフェラトゥが喜んだ。
「新人料理人からの暴力!
これもまたスペクター様による遠回しな教育的圧力――」
「違ぇよ!!」
今にもフライパンが振り下ろされようとした。
その時。
ふわり。
甘い発酵の香り。
「待って、1eggs」
「……あ?」
音もなく、
ジョン・ドウが現れる。
満面の笑顔。
白いコック服。
赤いスカーフ。
右腕ミキサー。
ブォン♪
ジョン・ドウは、
ミキサーの羽根を器用に伸ばし、
1eggsのフライパンを優しく止めた。
「なんだよジョンドゥ、
お前こいつ庇うのか?」
「ううん」
ジョン・ドウは、
床で悶えるノスフェラトゥをじっと見つめる。
数秒。
そして。
にこ。
「人間界の恋愛小説で読んだんだけどね」
嫌な予感しかしなかった。
アズールが遠くで頭を抱える。
「始まりましたね……」
ジョン・ドウは嬉しそうに続ける。
「恋人同士って、
結ばれる前に必ず“大きな障害”があるんだって」
「…………」
「だからきっと、
ノスフェラトゥ様は」
ぽん。
ノスフェラトゥの肩へ手を置く。
「僕と1eggsが付き合うための、
“超えるべき壁”なんだね」
「…………は?????」
1eggsの脳が止まった。
ホスフォラスは吹いた。
「アハハハハハハ!!!!
覇王が恋愛障害物扱いされてる!!!」
「付き合ってねぇよ!!」
秒速ツッコミ。
しかしジョン・ドウは止まらない。
むしろ。
ぽわ。
顔がほんのり桃色になった。
「えへへ……」
ブォン。
ブォォン♪
ミキサーまで照れている。
「まだ“付き合ってない”だけだよね」
「違ぇよ!!」
「ノスフェラトゥ様という巨大な壁を、
二人で力を合わせて乗り越えた時……」
きらきらした目。
「僕たちの絆は、
もっと深く結ばれるんだ」
「だから意味分かんねぇって言ってんだろ!!」
1eggsが絶叫する。
顔が真っ赤だった。
漆黒なのに分かる。
「脳内バグってる奴が!!
厨房周りに二人も増えるんじゃねぇ!!」
「二人……」
ノスフェラトゥが反応した。
ぴくっ。
「おお……
若き怪物たちの熱い感情……
これすらも!!」
ごろん。
床を転がる。
「スペクター様から私への、
“見せつけ”という名の間接的お叱り……!」
「違う」
「ぁあ…ゾクゾクする! 」
「帰れ!!」
1eggsが叫ぶ。
ノスフェラトゥはさらに悶える。
「新人たちの愛の波動が! 我が肉体を貫く!!」
「だから付き合ってねぇ!!」
「1eggs照れてる」
「うるせぇ生地野郎!!」
カオスだった。
完全にカオスだった。
その時。
コツ。
コツ。
コツ。
静かな革靴の音。
全員が止まる。
現れたのはスペクター。
赤いシルクハット。
赤いスーツ。
完璧な真顔。
ノスフェラトゥの耳が跳ね上がる。
「ス、スペクター様ァッ!!」
歓喜。
しかし。
スペクターは、
床に座るノスフェラトゥを一瞥すると。
「邪魔だよ」
真顔で言った。
「厨房の通路を塞がないで」
「――――ッッ!!」
ノスフェラトゥの顔が真っ赤になる。
「出た!!
“完全にゴミを見る温度”!!」
床を転がる。
「ありがとうございます!!!」
「帰りなさい」
「はいぃッ!!」
消し飛ぶ勢いで撤退していった。
静寂。
数秒後。
スペクターは新人二人を見る。
ジョン・ドウは、
まだ1eggsの手を握っていた。
ぎゅっ。
「…………」
1eggsが固まる。
スペクターは真顔のまま言った。
「仲がいいね」
「違ぇよ!!」
即答だった。
その隣で。
アズールが諦めた目をして呟く。
「もう末期ですね、この厨房」
ホスフォラスは廊下を転げ回っていた。
「ハハハハハハ!!
“恋愛イベントの障害物”扱いされた覇王、
初めて見た!!」
今日もFORSAKEN暗黒厨房は、
朝から騒がしかった。
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