テラーノベル
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「うーん。そこは私の体を知ったら他に浮気なんてできなくなると思うし、その間に私が潤さんを籠絡する予定なんで問題ないです。潤さんのヴィジュアルや法務部のスキル、実家の太さ、そして──行動力。何もかも私の理想なんですよね。ほんと、労務部の女なんかに勿体ない。要は私のほうが知佳ちゃんより、潤さんにピッタリということです」
「だから私と結婚したい、と」
「はい。潤さんクラスだったらバツイチなんて、バツじゃない。色気の加点ステータスですよ。それに──潤さんは何よりも、私達と同じ側の人間。ビジネスが大好きでしょう? 私と組んだら、今よりもっとお金を稼げますよ」
「……以上が君のプレゼンかな?」
「お望みならば、ベッドでのプレゼンもしますか?」
「不要だ。全て聞いた上で、私は君と結婚しない。知佳と別れるつもりは微塵もない」
「……へぇ」
わずかにすうっと瞳を細める彼女。
「君は何か勘違いしているようだけど、私はこう見えても恋愛脳でね。今は愛あるセックスしかしたくない。君が見下しているであろう、労務部で真面目に働く女性──知佳に、すっかり骨抜きにされている男だよ」
「メロいなぁ」
「今後、私や知佳に近づかないこと。SACRAの関係者にコンタクトを取るのもやめて欲しい。それを守ってくれるなら、代わりにこのことは誰にも言わない。それが君の綺麗な引き際だと思うんだが?」
いくら腹立たしい存在でも、年下の女性だ。
年上の男として、譲歩はこの一度だけはしてやろうと思ったが──これで引いてくれるような人物ではないことも百も承知している。
さぁ、どう出る。
そう身構える俺の前で、彼女は深くため息をついてソーダを一口飲むと、ストローをぐるぐると回し始めた。
ストローがグラスの中の、綺麗なグラデーションを単一のものに変化させる。
カラカラとグラスの中で回る氷の音が、彼女がまだ諦めていないと言わんばかりだった。
そして、手を止めてチラッと俺を見つめてきた。
「私、こんなことを言いたくなかったんですけど。実は知佳ちゃんとも、直接コンタクトを取っているんですよね」
「──嘘ではなく?」
「えぇ。むしろ知佳ちゃんから私の『Uehara』のアカウントにコンタクトを取ってきた、みたいな。知佳ちゃん、コスメに凄く興味があるみたいで、私に毎日メッセージを送ってくれていたんです。だから、私の熱心なファンなのかなって。つい、直接やり取りをしたのがキッカケで。そうしたら、最近お金に余裕ができた、コスメを沢山買えるって凄く自慢していて……」
「知佳がそんなことを?」
彼女はこくっと伏し目がちに頷いた。
そして知佳は自ら、自分の夫はSACRAの法務部で働いている『巴潤』だと勝手に暴露して来た。
それはちょうど、上原杏莉が俺の身辺を調べている時期と重なり、とても驚いた、と。
それは、あまりにも都合が良すぎるタイミングだと、言ってしまいそうだったが彼女は喋り続けた。
「──それに海区の会員限定のイベントにも誘って欲しいって、アピールが強くて。知佳ちゃん、潤さんと結婚してお金持ちになったから、潤さんが知らないところで性格が変わっちゃったのかも……」
しゅんと肩をしょげさせて語る彼女。
それを見て俺は──ふっと笑ってしまった。
「嘘のでっち上げとは随分と古典的な手法だな。それがどうした。俺は知佳を信じている」
今日初めて会った人間から何をきかされようとも、少しだって揺らぐはずがない。俺の知る知佳の姿を、他人の言葉で上書きしようとも思えなかった。
「これでも、そんなことが言えるんだ?」
俺の言葉に、彼女は伏し目がちだった瞳を強い眼差しへと一変させた。
#執着
猫とろ
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#初恋
金子りさ
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鞄からパッと彼女が取り出したのはスマホ。
その画面を、これ見よがしに俺へと突きつけてくる。
そこには知佳と彼女の、メッセージアプリでのトーク画面が映し出されていた。
そこには二つのアイコンがトークをしていた。
オレンジのアイコンは、俺もよく知っている知佳のものだ。
じっと見つめるが、俺が普段、知佳とやり取りをしているアイコンで間違いなかった。
もう一つのアイコンはシャンパングラス。
このアイコンが上原杏莉のものなのだろう。
しかし、そのトーク画面では、オレンジのアイコンが始終不穏な言葉を並べていた。
『お金は沢山引っ張って来れるから、高級コスメを沢山買いたいの。どれがいいかな?』
『私も海区のイベント行きたい! なんかね、今一緒に居る人がつまんなくて……』
結婚なんてお金のため、お金をこっそり隠れて使うのが楽しい──そんな欲望にまみれた言葉で、画面が埋め尽くされている。
「ね? これで知佳ちゃんの本性、分かってもらえたかなって」
勝ち誇った言い方に対して、俺は再度、じっと画面の情報、その隅々を見つめて──そして、すべてを理解した。
「これは──トーク内容は生成AIによる偽装画像だろう。しかし、オレンジの知佳のアイコンを把握しているということは、知佳本人とコンタクトを取ったこと自体は本当、というところか」
おそらく、上原杏莉が俺との仲を裂くために、以前から知佳のことを調べてコンタクトを取っていたのだろう。
この事実については思うことが多々あるが、あとで知佳本人に聞けばいいだけのことだ。
今は、得意げにトーク画面を見せてくる上原杏莉の嘘を追及しなければならない。
画面をよく見ると実によく出来ていたが、やはりUIのディテールに違和感がある。
あとは、何よりもトークの時間だ。
画面に表示されているのは夜の時間帯だったが、その時間はだいたい、俺のベッドの上で知佳と一緒に過ごしている時間だ。
互いにスマホに触らず、のんびりと本を読んだり、一緒にタブレットでドラマを見たりしている。
この事実からも、知佳が上原杏莉と直接やり取りをしていたとしても、プライベートの深いことまでは話していないと確信できた。
コメント
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猫とろさん、第26話読ませていただきました! 上原さんの圧がすごいですね…「ベッドでのプレゼン」発言には思わずドキッとしました(笑) でも、それ以上に印象的だったのは潤さんの「知佳を信じている」という揺るぎないスタンスです。AI偽装のトーク画面を見破る冷静さも、普段の知佳との時間をちゃんと覚えているからこそですよね。あのディテールの積み重ねが、2人の関係の厚みを感じさせてくれました。 潤さんのブレないところが本当にカッコいい回でした!