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十六番街では『エルダス・ファミリー』が大幅に人員を投入して包囲の手を狭めつつあった。そんな中、賑やかな昼間のメインストリートを歩く美人が居た。
どこか冷たさを感じさせる整った顔立ちに銀の髪を腰まで伸ばし、赤いドレスを身に纏い、その服を押し上げる胸が歩く度にその存在を強調していた。
その歩く姿は清楚ではなく妖艶で高級娼館の娼婦と言われても納得してしまうような色気を醸し出していた。
そんな彼女は賑やかな雑踏の中を気にせず歩き、周囲に視線を向けながらなにかを探しているようにも見えた。
「おいくらですかな?」
そんな彼女に一人の老紳士が話し掛ける。
「老いても尚お盛んなようですね。ある意味不安になりましたよ」
女性は笑顔を見せながら老紳士に、セレスティンに視線を向ける。
「まだまだ若いものには負けませんぞ。それよりも随分と慣れておりますな、シスター。貴女の過去が垣間見えたような気がしますぞ」
「別に、ありふれた悲劇の一つですよ。あの娘にはまだ話していませんが」
女性、シスターカテリナは笑みを浮かべたまま応対する。
「お嬢様がどのような反応をなさるか、心配ですかな?」
「そんなところです。それより、ここでは目立ちます。こちらへ」
カテリナはセレスティンを連れたまま娼館へと連れ込む。
「いらっしゃい。おや?カティ、飛び込みかい?爺さんか」
娼館ではパイプタバコを吹かせた妖艶な熟女が出迎える。
「金払いが良いので」
「そうかい。爺さん、搾り取られて昇天するんじゃないよ。死体を片付けるのは面倒なんだ」
「ほっほっ、ご安心を。逆に彼女が堪えられるか心配になりますな」
「ふんっ、さっさといきな」
部屋に通されると、カテリナは無造作にベッドに座る。
「先ずはお互いの無事を喜びましょうか」
「シスターはこの一週間此方で?」
「そうです。馴染みの店でしてね、身を寄せて皆を探していました。貴方は?セレスティン。随分と小綺麗ですが」
一週間経っているのにセレスティンの執事服は綺麗なままである。
「なに、昔取った杵柄と申しましょうか。何時如何なる時も執事として恥ずかしくない生き方を心掛けてございますので」
優雅に一礼する。
「相変わらず色々と規格外なお爺さんですね」
「お誉めに与り光栄至極にございます」
「ふん。今回は見事に失敗しました。分かりきっていたことですが、貴方も止めませんでしたね?」
「お嬢様は些か慢心を抱えておいでの様子でしたが、失敗から学ばれることを確信しておりますからな。そう言うシスターの心は?」
「あの娘に学ぶ機会を与えたかった。確かにここ数年順風満帆でしたから、慢心するのも無理はない。口で言うより経験を積ませる道を選んだだけですよ」
「想いは同じでございますね」
「そのためにシャーリィを危険に晒すのは迷いましたよ。貴方は迷わなかったのですか?」
「その時はお供して、旦那様や奥さまにお詫び申し上げる所存でした。尤も、この程度の窮地などお嬢様ならば易々と乗り越えることを確信しております」
「見上げた忠誠心ですね。なにか情報はありますか?」
「残念ながら。そちらは?」
「悪い知らせですよ。『エルダス・ファミリー』はシャーリィに懸賞金を懸けました」
「ほう?」
「金貨十枚と破格ですね。似顔絵付きの手配書も出回っています。これであの娘も一端の悪党の仲間入りですね」
「金貨十枚ですか、随分と過小評価をするものですな?」
「今の『エルダス・ファミリー』じゃ、金貨十枚が限界なのでしょう。シャーリィの潜在的な危険性を正しく評価するなら星金貨でも過剰ではありませんよ」
「その事に気付けたのが『海狼の牙』と『オータムリゾート』ですな?」
「『ターラン商会』のマーサもですよ。内部は荒れていますが、シャーリィの配下に加わることになりました」
「それはまだでは?」
「ふんっ、今の『ターラン商会』にマーサの居場所などありませんよ。シャーリィは無自覚に『ターラン商会』を追い込みすぎた。儲けさせるだけが商売ではないのです」
「彼女が加わるならば、商業に於いて我が『暁』の利益は更に跳ね上がるでしょうな」
「その利益を使ってあの娘が何をするのか楽しみではあります」
カテリナは楽しそうに話し、セレスティンも笑みを浮かべる。
「その為にも、早くあの娘達を見付けないといけません。私はここで情報を集めます。貴方は?」
「これ迄のように、お嬢様を探しつつベルモンド殿を探そうかと」
「ベルモンド、土地勘がある彼が居ればやり易いのですが、何をしているのやら」
~十六番街某所廃屋の中~
荒れ果てた家財が散乱する部屋に、瀕死の男性と傍に座り込む赤髪の青年が居た。
「へへっ、しくじったぜぇ……まさか、てめえとまた会うなんてなぁ……」
「足を斬られた借りは返せた。まっ、お前にやられたから俺はお嬢に会えたんだがな」
五年前ベルモンドが『エルダス・ファミリー』を脱走した際不意打ちで怪我を負わせた殺し屋は、息も絶え絶えにベルモンドを睨む。
「ちぃ……ちゃんと、殺しとけばこんなことにはっ!」
「もうお前らは終わりだよ。クリューゲの奴がお嬢に手を出したその瞬間にな。嘗めすぎたんだ」
「はっ……あんなガキに義理立てかよ……はぁ……腑抜けたな、ベルモンド……」
「どうだろうな、少なくともお嬢とエルダスじゃ格が違う……楽にしてやりたいが、質問がある。この包囲は誰の差し金だ?」
「へへっ……知らねぇよ、ばーか」
「そっか」
「ぐぶっ!」
ベルモンドは手にしたナイフを男の首に刺し込んで止めを刺した。
「はぁ、全く厄介だな」
幹部マクガラスは多少知恵が回るが明らかに誰かが後ろから糸を引いているのは間違いなかった。
古巣をよく知るからこそ、その厄介な状況を誰よりも理解しているベルモンドはため息をつく。
「早くお嬢を見付けて合流しねぇとな。どうにもきな臭い」
今回の抗争の背後に居るであろう存在の事を考えて、ベルモンドは溜め息を吐きながら立ち上がり廃屋を後にする。
シャーリィ、ルイス、アスカが十六番街からの脱出を目指し、カテリナ、ベルモンド、セレスティンはシャーリィ達を探しながらも農園に戻るのではなく独自に行動を開始。
そしてレイミは姉を探して十六番街を歩き回り、『オータムリゾート』は介入の機会を虎視眈々と狙っていた。
そこに『ターラン商会』過激派などが加わり、十六番街での戦いは様々な思惑が交差する複雑なものになっていく。