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「結婚してしまうと、もう新しい女は作れないんだよなぁ……」
会社帰りに、偶然大学の同期とバッタリ会って“久しぶりに飲まないか?”とスナックに入った。
佐々木隼人。
仕事は輸入車販売の営業だったはず。
背が高く服のセンスもいい、顔はモデル並みに整っていて会話も面白く、学生時代から女にモテていて、何人も彼女が入れ替わった記憶がある。
女には困らなかっただろうし、一人に縛られたくないと豪語していてずっと独身だったのに、もうすぐ結婚すると言う。
「そりゃまぁ、結婚てそういうやつだからな。でもなんで結婚する気になったんだ?お前のことだからずっと独身を貫くかと思ってたのに。結婚して一人に縛られてもいいくらい、スッゲェいい女なのか?写真、ないのか、見せろよ」
「あるけど……いい女、かなぁ?」
「なんだ、それ」
隼人のスマホには、まだ学生にも見えるような童顔の女の写真があった。
絶世の美女を想像していたのに、まるで幼い妹でも見せられたようだ。
「え?この子いくつなんだ?」
「20才」
「は?一回り以上年下?どこでこんな子と?まさか犯罪じゃないだろうな」
「それはない、けど」
なんだか歯切れが悪い旧友の打ち明け話を、もっと深く訊いてみたくなった。
「うちのお得意様の娘、一年くらい前に車を買いたいと両親と一緒に店に来てさ。俺が対応したんだけど、どういうわけかその子に気に入られてしまって。最初は、歳も違いすぎるし、お得意様の娘ってことでのらりくらりとはぐらかしていたんだけど……」
「だけど?うっかり手を出しちゃったってやつ?」
「というか、嵌められたってやつ?」
「いや、ハメたのはお前だろうが」
あははと笑い合う。
「ここが仕事場だったら、えらい目に遭うな」
そう言う佐々木の目は、笑ってなかった。
「なんだよ、マジな顔してさ。そんなに若い子と結婚できるんだから、よろこぶべきなんじゃないのか?」
「若い、けどさ」
「それに外車を買う家なんだから、経済的にも余裕があるんだろ?色々援助してもらえばいいじゃん?家買うとか、すっげぇ金がいるんだから」
「どっかの会社の重役みたいで、金もあるみたいなんだけどさ」
「逆玉じゃん?何が不満なんだよ?」
「だからぁ、自由がなくなるだろ。舞花は独占欲が強いし嫉妬深いし。もう、結婚したら俺の人生終わりだよ」
およよよと、大袈裟に泣きまねをしている。
「じゃ、結婚しなきゃいいじゃん?断れば?」
「……それが、できないんだ」
「なんでだよ、嵌められたって、何かされたのか?」
「妊娠、したんだ」
「は?お前…バカじゃないの?ちゃんとしなきゃダメだろうがよ、避妊!!女の扱いに慣れてるくせに、なんで手を抜くんだよ」
「それが、してたんだよ、ちゃんと。けど、なんていうかその、あれって100%避妊できるものじゃないとか、失敗してできたって言い張られて、なんかこういう白黒のエコー写真とかも見せられて。で!結婚してくれなきゃ、店長に言いつけるって言われて」
「あ?それって脅迫じゃね?また厄介なやつに惚れられたもんだな」
俺は同情してるようで、内心ざまぁみろと思うところがあった。
これまで何をしてもこの佐々木隼人には勝てなかったのに、今はなんだか勝てた気がしている。
「脅迫なんだけど。でもやっちまった時まだ未成年だったんだよ、舞花」
「それダメじゃん!なんで迂闊に手を出したのかなぁ?でもさ、条件としては全部揃ってる女、いや女の子なんだから観念して結婚しろよ」
「……」
「結婚は墓場って言うけど、そうでもないぞ。うまくやればまた他の女とも、できないこともない」
「まさか、お前、いるのか?その、愛人てやつが」
「まぁ、な」
「すごいな、金、そんなにあるのか?お前」
佐々木は、俺が金を渡して女をかこっているとでも想像しているようだが。
「金なんかないし、特に必要もないな。まぁそれは相手の女にもよるだろうけど」
「マジで?ちょっとおしえてくれよ、どうやればいいんだ?奥さんにバレずに金もかけずに他の女とって」
さっきまでうなだれていた佐々木の目が、イキイキとしている。
___コイツは根っからの女好きなんだろうな
それでも、佐々木にはできなくて俺にできていることがあるとわかっただけで、マウント取れた。
紗枝とのことを、少しばかり盛って話してやる。
金も気持ちも必要としない、ジムみたいにドライな関係は、佐々木にとって理想的らしい。
「いいなぁ、どうやったらそんな都合のいい女が見つかるんだ?」
「仕事ができて既婚でイクメン、かな。そこいくとお前はバッチリだろ?そんなに悲観することないぞ、結婚てやつを。ま、絶対条件として、嫁さんにバレないように細心の注意を払うことだな」
「たとえば、どんな?」
「連絡先は交換しないとか、な」
「どうやって連絡とるんだよ」
「俺の場合は、アイコンタクト?」
「へぇ!それはすごいな」
それからも、散々佐々木に質問責めにされたけど、結婚も育児も浮気も俺の方が先輩ということで、上からの立場で説明してやった。
それはすごくいい気分だった。
佐々木と話しながら、“次はいつ紗枝と会えるのか?”と、次回の算段ばかりしていた。
___アイコンタクトで、約束を取り付けないとな
一度きりだったとは、佐々木に言いたくない。
いろんなことの先輩として、仕事も家庭も浮気も全部スマートにこなしていこうと目標を立てた。