攻略組の面々は揃って黙り込み、各々が自身の無力さに打ちのめされていた、その時、
『お前さん達や、どうかしたのかい?』
コユキが立ち上がった事で放置されていた背負子(しょいこ)から声が掛けられたのである。
全員が一斉に向けた視界には、時代感のある質素な単衣(ひとえ)を身に着けた優しそうな老婆の姿が映っていた。
いつのまに…… 一同がそう思っている中で、善悪は思い出していたのであった。
――――これはっ! 確か『おっ母の背負子』には、本当に困ったときにアドヴァイスを与える為に『おっ母』が登場するとか何とか、そんな言い伝えがあったのでござる! よし
「えーゴホンでござる、おっ母殿とお見受けしますが、実は、我々困り果てているのでござるよ」
優しそうな老婆は真剣な表情で言った。
『そのようだねえ、んじゃオラが教えてやんべ』
「おおっ! よろしく頼むのでござるよ!」
おっ母は善悪の顔を見つめながら一言一言しっかりと言い聞かせるように貴重なアドヴァイスをくれる。
『蛸(タコ)に味を浸み込ませたい時は、生の物より冷凍の物を使う方が良いんだよ、柔らかくもなるんだよ』
「へっ?」
言い終えるとスゥ~と薄くなって消え始めるおっ母を慌てて引き留める善悪。
「ちょ、ちょっと待ってでござるっ! そんなお婆ちゃんの知恵袋的な事じゃなくて具体的に教えて欲しいのでござるよ!」
善悪の言葉に反応したおっ母は再び濃い姿に戻り、問いかけて来た。
『具体的にって一体何があったんだい? 聞かせてごらんな』
おお、頼もしいぞおっ母!
「実は大事な仲間の行方が分からなくなってしまったのでござる、どうしたらいいか判らず途方に暮れていたのでござるよ」
おっ母は納得したのか数回頷いてから言った。
『そいつは心配だねえ』
「その通りでござるよ、子供の頃からの友達も混ざっているのでござる…… 心配で不安で、このままじゃ夜も眠れないのでござる……」
『そういう時はハーブティを飲むと不安が軽くなるよ、お薦めはペパーミントティかカモミールティだよ』
そう言うとおっ母は今度こそ姿を消した、消え去る一瞬満足げな笑みを善悪の目に残して……
唖然としていた善悪にコユキが声を掛けたが、その手にはポケットから取り出したチラシとペンが握られていたのであった。
「ねえ善悪、カモミールってカミツレの事? リンゴジュースの香料のやつだよね?」
「あ、ああ…… ソウダネ」
コユキ以外のメンバーは再認識したのであった、お婆ちゃんの知恵袋は所詮、暮らしに彩と気付きを与える一助に過ぎないんだなぁ、と。
黙りこくってしまった一同の中で、魔神たるアスタロトが声を張るのであった、やせ我慢丸出しであったが、それはそれは美しい透き通り捲った魔神の言葉であったのである。
「怖じるな、勇者どもよ! 友の行く末に思いを馳せることなく、自らの務めを果たせ! 彼(か)の者たちの帰還すべき処、そを守るべく、己の小宇宙(コスモ)を燃やさずに、何とするのかっ! 立ち上がれ、格別と呼ばれた魔王種達よっ!」
スプラタ・マンユの七柱から漲り捲る(みなぎりまくる)力が沸き上がっている事を感じ取ったコユキは大声で宣言したのであった。
「皆! 行こうっ! アスタの言葉通りだよぉっ! 全部取り戻す! 普通の生活を…… カイムちゃんも熊ちゃんたちも、そして、アタシ達の未来もねぇ! 行くよ『聖女と愉快な仲間たち』ぃぃ、一軍出陣だよぉぉぅ!」
皆が答えるのであった。
「「「「「「「「「応(おう)っ!」」」」」」」」
魔力密度が異様に高まった、一般人であれば致死であろう亀裂に向かって、歩みを進めるメンバーの足取りには、一切の怯えも戸惑いも見られることは無かったのであった。
カイムはああ見えて賢いし、三頭の熊には野生を生き延びて来た逞しさがある、きっと大丈夫だと、若干現実逃避気味に考えながら歩を進めていると、程なくいつもと同じく魔力障壁、マジカルマテリアルが目に 見・え・た 。
そう、今までと違っていたのは勢いよく吹き出す魔力に依って、隠蔽(いんぺい)どころか目立ち捲っていたのであった。
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