テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ふいに老いに追いつかれ階段を転げ落ちた俺は その後しばらく悶えたがなんとか盛り返すことに成功した。そして孤独を感じながらよろよろ歩いて駅までたどり着き、ミッチミチの電車で知らんとっつぁん達に揉まれること数分とちょっと。 それは同窓会の店まであと数メートルという時だった。少し苦い夢を見るくらい浮かれていた俺が完全に油断していた、その時。
「……もしかして陽太郎か?」
「…………っ!」
その声を聞いた途端。急に塊のような空気に栓をされ、自分の呼吸が止まったのが分かった。
……声、ちょっと低くなった?あぁでも、この声。確かにこの声だ。
既に不自然な動悸・息切れが止まらない。しかしここで振り返らないわけにもいかない。いくぞ赤石 陽太郎、男は度胸だ!
(ええい……ままよっ!!)
「ヒョワァッ…コイツぁどえれェイケメンだぜ……げふんげふん。久しぶり結弦」
「この何言ってんのかたまに聞き取れない感じ、やっぱり陽太郎だ……っふ、お前全然変わんないなぁ」
「はは、お前もな」
うん、相変わらず格好いいんだよなぁ。順当に大人になったって感じ。あの頃散々想像したけど、俺の想い人は妄想の上行っちゃうんだなぁこれが。どこまでも凄いわ。
「?、なんか……陽太郎痩せた?」
「あぁ、今の一瞬で半年分寿命持ってかれたからな」
「今の一瞬で」
しかも、あぁ…その左手……なんて飾らないシンプルな手なんだチクショウ……。というかもうこれ何もかんも駄目じゃん。完璧作戦負けだ。HPバーもうオレンジよ?俺。
「……うん、弓弦にも会えたことだし、俺そろそろおいとましよっかな」
これ以上は駄目だ。死ぬる。自分の足で立てる内に急ぎ戦略的撤退だ。
……という訳でいそいそと踵を返したら、気付けば肩をガッシと掴まれていた。錯覚でも誇張でもない。そう、ガッシリと。鷲掴みされているとも言える。
好きな人からボディタッチされて今どんな気分?と聞かれたら、まぁジャック・ニコルソンにドアをこじ開けられた気分だな、と。それかitに排水溝から腕を掴まれた気分な。
「……えーと、弓弦?」
あー最悪だ。俺今、弓弦に触れられたからじゃなくて引き留められたことに動揺してる。この想いがバレたんじゃないかって……全然甘酸っぱくなんかない、薄汚い感情で。
それがなんだか、あの頃の……毎日親友に嘘をついてばかりだった嫌な自分をありありと思い出させられたように感じた。
(来なきゃ良かった、かも)
……いや、後悔なんてしない。でも、もう一刻も早く帰りたい。早く、早く早く………
「あ、ごめ……俺お前と話したいこと結構沢山あったんだけど…まぁ具合悪いならな……」
「………………」
……あー成程ね?
こうしてまんまと嵌められた俺ちゃんはウッキウキで二次会どころか三次会まで参加したのでした。はい、ここで一旦記憶飛びます。