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創作小説
第1話 学校の掟
「オリオン」
それは星座の名前だ。
冬の星座の代表格と言ってもいいその名を
「水鳥草(ミドリグサ)」が聞いたのは、クラスメイトとの会話だった。
「舞野」という男子生徒。真面目で頭が良い。生徒会に所属している。
ここまで言えばどんな奴かはわかるだろう?
結構ハンサムだと思うが、真面目過ぎて友人や恋人が居ない。せいぜいクラスメイトに
「ノート見せて」
と言われるくらいだ。
「舞野〜!掃除終わるまで待っててくれたのかよ…やっさし〜ッ!」
舞野曰く、生徒会の仕事で遅くなった故
教室前まで足を運んだとのこと。
「生徒会のバインダーを戻しに行く」と言って俺は再び静寂に包まれたまま壁に寄り掛る。
舞野が教室へ向かう間に、俺はトイレへ向かおうとした。
「しまった…ここは……」
トイレから1番遠い場所。最短距離で向かおうにも、突き当たりまで歩いて左手の階段を登る必要がある。
「こんな事なら舞野に着いていくんだった…!」
水鳥草の声も虚しく校内に、あるいは口内に跳ね返されるだけであった。
そして水鳥草は走るだけだった。それしか出来ない。
教室に到着し、バッグから舞野はファイルを取り出そうとする。
あ……
口が動く前にバインダーは重力に従って下へ行き、足にぶつかって闇へ消えた。
「クソ……面倒な場所に入ってしまったな。」
ロッカーの下の隙間。とても手なんかは入らないが、バインダー程の薄さなら隙間に入る事は簡単だった。
「駄目だ、全然届かないぞ……!」
目で見ても影に覆われて何も見えない。
箒を取り出して隙間に入れるが、ギリギリの太さの棒を入れている為探すのは難しい。
絶望に呑まれそうだったが、決して折れない事が舞野のプライドでもあった。
水鳥草がトイレへ走る途中、曲がり角で女の子とぶつかりそうになった。
確か英国から来た転校生だ。
転校生と曲がり角で〜だなんて運命の出会いのようだったが、今の水鳥草はそれどころでは無い。
女の子の方も特に気にすることなく歩いて行った。今は兎に角走らなくては。水鳥草も必死なのだ。
何とかトイレに入り用を足した水鳥草は、
「舞野のヤツ、待ってるかな…?」
と思いながら元の場所へ戻る…が、そこに舞野は居なかった。
チャイムが鳴るまで舞野の姿を探してみたが、舞野どころか人すら居なかった。教師も1部は帰っているだろう。
「先帰ったか?それともまだ教室?」
水鳥草はとりあえず廊下を歩き始めた。
流れて行く同じような教室。同じような景色。
違和感。後になって気づくものだ。
廊下に置かれた『生徒指導室』前の椅子。そこに人が1人。
教師と言うには堅い印象が無い、生徒にしては歳をとっている。そんな男が座っていた。
何者だ?ソイツの顔は真っ直ぐと前を見ていて、目的があるようで、何も無い目をしていた。
「本日の『ルール違反者』は3人だ。まずは貴方から。」
「貴方から」という言葉の意味を理解せずとも、水鳥草の本能は逃げろと命令を下した。
半ば悲鳴のような声を挙げて水鳥草は走った。
ルール違反とは何だ。俺は何をした。
水鳥草は思考する。
完全下校のチャイム。
水鳥草は掃除が終わり、ダラダラと話しながら歩き、舞野が居なくなってからしばらく待ち、トイレへ走った。戻ってきて、舞野を探した。
30分以上は経っただろう。完全下校のチャイムは普段なら部活動が終了する30分後の19時頃に鳴る。
しかし今はテスト期間。部活動が停止されている故、チャイムは16時半に鳴る。
水鳥草はゴミ捨てまで任された為、他のクラスメイトよりも遅くなったのだ。
水鳥草が走っても男は直ぐに追い抜かし、道を塞いだ。
「ルールだ。守れ。守らないなら死ね。」
コイツはルール違反した人間を追いかけ回しているようだ。
そしてコイツは「ルール違反者は3人」と行った。
その数字から教師にルール違反は反映されていないと考えると、俺以外2人の内の1人は舞野だ。
水鳥草は考えた。
教室へ向かわなくてはならない。
「チャイムが鳴ってしまった!この僕がルールを破ってしまうなんて……」
舞野はバインダーを取ることなくしゃがみこんでいた。
仕方がない、と職員室を頼ろうとした。
それは呆気なく拒絶された。
拒絶したのは教師がではない、教室だった。
「開かない…だと……」
まさか、誰も居ないと勘違いした教師が鍵を閉めたのか?いや、鍵は閉められていない。
何故、どうして。
舞野に解を与えてくれるものは無い。
ドアだけでは無い。窓も開くことを拒んだ。
舞野が迷子の子供の様に動けずにいた。動けないまま立ち尽くした。
舞野が教室に居るならば、水鳥草が学校から出た時に狙われるのは舞野だ。
『守らないなら死ね』と言う言葉を思い出していた。その言葉は多分本当だ。だから舞野を死なせない為に走っている。
道を塞ぐ男に背を向け、敢えて教室から離れた。いや、離した。
トイレへ行く時に登った階段を、もう一度駆け上がった。
男はまだ着いてくる。
しかし
何も考えずに走った為だろうか。離すことだけを考えていたからだろうか。
3階まで走り、階段を見つけてそこへ向かったが、あそこで気づくべきだった。
登りの階段が3階にあったのだ。
屋上への階段が。
屋上は立ち入り禁止。昔に自殺が起こったからだ。つまり、ここは行き止まりだ。
絶望が頭を冷やした。
コイツの殺し方には決まりがあるようだ。
相手に触った後に5秒のカウントダウンをしてから殺す。そういう法則。
『5』
動けなくなった。死ぬんだなという実感だけが頭を回っていた。
『4』
もう少し、高校生活を楽しみたかった。
舞野は助かってくれ。逃げてくれ。
『さ』
異様な光景だった。その不気味な男の胸には刃物が刺されていた。
そのまま消える男。後ろに立っていた女の子は言った。
「化け物が。」
顔に見合わぬ流暢な日本語で言った。
3人目は、この子だったのだ。
「なァ〜舞野〜」
「何だよ。」
冷たいようで優しく返して来た。
「この学校に、イギリスから来た子いるだろ?あの子何つー名前だっけ?」
いつも通りを装いながら、1番に気になることを聞いた。
多分舞野なら解を知っている。水鳥草はそう信じていたからだ。
「それって…オリオンの事か?」
初めて創作小説書きました。
続きもじゃんじゃん書いていきます。