自傷少女(2)
「ジェハ、今日はありがとう」
「全然!また遊びに来なよ」
「うん!」
あの後ジェハの家に行って勉強を教えてもらったり、沢山話したりして楽しい時間を過ごした。
ジェハは家まで送ってくれた。本当に優しいな。
「ジェハも気をつけて帰ってね」
「おう、じゃあまた明日」
「うん!」
ジェハが見えなくなるまで見送ると、家に入った。
「ただいま〜って、誰もいないか笑」
思い出したくない思い出が頭の中で何度も繰り返し再生される。あーもう、思い出したくないのに。
「今日はご飯なんかいらないや」
私はさっさとお風呂に入り、眠りについた。
中学2年生の時の私は、悪さばかりをする子だった。
「○○、お前はどうしてそんなに悪い子に育ったんだ?」
「そんな子に育てた覚えはないわ、出て行きなさい。」
「全くお前はどうしていつもこうなんだ?お前を産まなければ良かったのに…」
「何を言ってるのお父さん。それは流石に言い過ぎよ!」
「なんだよ、逆らう気か?」
「違うわよ、○○を産んだこと自体に後悔はないわ」
「こんな悪い子に育ったのにか?」
私が1度犯した過ちのせいで親同士は大喧嘩になってしまった。言い争いは相変わらず止まらない。いつもなら見ているだけだが今回は違う。私は静かに家を出た。
「これからどうしよう」
真っ暗で街灯1つも見つからない夜の道を静かに歩く。このまま死んでも誰も私を気にしないだろう。でも私に死ぬ勇気なんてなかった。とりあえず近くの公園に行き、ブランコに座る。親から何度も電話が掛かってきたがそんなの無視した。
それから色々あって公園で出会ったお兄さんの家で過ごすことになったが、そのお兄さんは私が高校に入る前に亡くなってしまった。
今私はそのお兄さんの家で一人暮らしをしている。
お金なら私の両親が銀行に振り込んでくれるからなんとかなるし、学費だって一応払って貰えている。
…一緒には住ませて貰えないけど。
目が覚めた。ベッドから起きると枕が濡れていた。目も腫れていて、よく開かない。そっか、私泣いたのか。
「お兄さん、元気かな?」
お兄さんの名前を知らなかったわけではないが、私はお兄さんを名前で呼んだことはなかった。その理由はある人と名前が同じだったから。でもそんなことお兄さんには話さなかった。…いや、話せなかった。
「学校、行かなくちゃ」
腫れてる目をなんとか開いて、学校の準備をして家を出た。
「ねぇ、ソンフンくん」
私は学校に着くなり、早速ソンフンくんに話しかけた。
「ん?○○さんどうしたの?」
優しい返事が返ってくる。
「いや、ちょっと話してみたくて」
ここは正直に話そう。
「あ〜、いいよ全然」
「ありがとう」
今まであまり話したことがなかったためソンフンくんは戸惑っていたが、私は気にしなかった。
「ソンフンくんって趣味とかあるの?」
「ん〜、バスケかな〜」
「そうなんだ!かっこいいね!」
これはもちろん本心。
「そうかな?ありがとう」
「うん!」
でも何か物足りない。私と話していても楽しくなさそうだ。
「…」
「…」
なんか全然喋ってくれないし、キツイな…
「じゃ、じゃあまた!」
「うん」
結局無言の時間に耐えきれず、自分の席へさっさと戻った。ソンフンくんを奪おうと決心してから1日目で既に落ち込んでしまった。
「どうした?お前顔死んでるぞ笑」
落ち込んでる私を煽りながらジェハが席に着いた。
「わかってる」
今日に限って運が悪いのに、そう思っていると少し冷たく返してしまった。
やりすぎちゃったかな?いくらなんでも性格悪すぎだよね。やっぱり私って最低なんだな、分かってたけど。
「…」
ジェハは少し黙り込んだ後に、こんなことを言ってきた。
「まあお前いつもうるさいから助かるわ、今凄く静かで」
はぁ?!ジェハの方がうるさいし。
「私別にうるさくないじゃん!」
「それにジェハの方がうるさいし!!」
そう言って顔をあげるとジェハと目が合った。
ジェハは私の目を見た瞬間、また黙り込んだ。
でも別に笑いを堪えてるわけでもバカにしようとしてるわけでもなく、ただじっと私の目を見つめていた。
「な、何よ」
私は耐えきれずに目を逸らしてしまった。
「ちょっと待ってろ」
ジェハはそう言って教室を出て行った。
しばらくすると、ジェハは走って教室に戻ってきた。
「はい、これ」
戻ってきたジェハから渡されたのは、綺麗なハンカチに包まれた保冷剤だった。
「あ、ありがとう」
「何かあったら言えよ、俺なんでも聞くから」
そう言って恥ずかしそうに机にうつ伏せになり、寝たフリをし始めたジェハ。目が腫れてることに気づいたのかな?ソンフンくんは気づかなかったのに。やっぱりジェハは優しいんだな。顔も性格もイケメンなのになんでモテないんだろう。いや、これは私が考えることではないな。
それから毎日毎日ソンフンくんに話しかけたが、ソンフンくんが目を見て笑ってくれることはなかった。毎日一緒に学校に行ったり帰ったり、休み時間にも沢山話しかけたのに。ソンフンくんの目に映っているのは私じゃなくて△△さん。思ったよりも上手くいかないんだな。
「はぁ、もう無理かも…」
こんなことしているうちに、私がソンフンくんに付き纏っているという噂もできていた。でもそれは仕方のないことだと思ってる。だって事実だもん。
最近私がソンフンくんと話すことでジェハとは全然話さなくなったし、一緒に学校に行ったり帰ったりすることもなかった。
そんなある日、今日はジェハが学校を休んでいた。
今日はジェハと話したい気分だったのにな。
どんどん授業は終わっていき、今日の最後の授業は体育。
「男女2人組になってパスの練習をしてください」
先生の合図で皆どんどん2人ペアを作っていく。
私は嫌われているため、もちろん誰も私に近寄らない。こういう時にジェハがいればな…
つまらなくて1人で壁にボールをぶつけていると、誰かが私に話しかけてきた。
「○○さん」
「え?」
そこにいたのはソンフンくんだった。
「一緒にペア組まない?」
本当に私でいいのかな?私は聞かざるを得なかった。
「私でいいの?」
「うん、○○さんしか喋ったことないんだよね」
何それ。嬉しすぎるんだけど…
そしてパスの練習をソンフンくんとしていた。
楽しいな、自然とそう思った。
だけど運動神経のいいソンフンくんと違い、私はついていけない。
「痛っ!」
ついには突き指をしてしまった。
「○○さん大丈夫?!」
ソンフンくんは私の方にすぐさま駆け寄って心配してくれた。手に触れられて、ドキドキする。言葉も出ない私にソンフンくんは話しかけた。
「保健室一緒に行こうか?」
い、一緒に?!
「い、いや大丈夫!!」
走って保健室に行ったものの、初めて私をきちんと見てくれたソンフンくんにきゅんとした。
そっか、怪我したら私のこと見てくれるのか。
それから私は毎日自分の身体に傷をつけるようになってしまった。
毎朝学校に行くと、日に日に増えていく身体の傷。皆は私に冷たい視線を向けるけど、彼だけは違うんだ。
「○○さんおはよ、また怪我したの?大丈夫?」
ほら、心配してくれる。
「うん、大丈夫!」
嘘、本当はめちゃくちゃ痛かった。
でもソンフンくんが心配してくれるんだったら傷をつけることくらい簡単だった。だって好きだから。ソンフンくんと話せるんだったらこれくらい我慢しなきゃね。
そんなある日、いつも通り登校して教室に向かって歩いているとなんだか視線が痛い。
「ねぇ、あの子だよ」
「あー、自傷女?笑」
「マジでバカだよね、ソンフンくんが可哀想」
「ほんとだよ笑」
「△△さん不安だろうね、あんな奴のせいで構ってもらえないなんて」
「でもまあ、今日からソンフンくんも冷たく接するでしょ笑」
「こんなに噂広まってるもんね笑」
いや、ソンフンくんはそんなことしないって信じてる。信じたかったの。
こんな陰口言われることなんて、いつもじゃない。
気にしなくて当然よ。今までと何も変わらない。
「あ、そういえば知ってる?」
思いとは反対に、聞きたくない声がどんどん耳に入ってくる。
「○○さん、両親いないらしいよ笑」
「?!」
な、なんで知ってるの?
「…最悪」
静かに呟いて教室に入った。
教室に入っても、相変わらず私は皆からの冷たい視線を受けた。昨日まで普通に話していたソンフンくんも、流石に呆れたと言うように私を冷たい目で見ている。
あーあ、嫌われちゃったか。ここにいるとすんごく吐きそうだ。重たい空気の中、私は机に顔を伏せた。
「○○」
…ジェハが来た。1番、嫌われたくないジェハが。
こんなに噂が流れてると言うのに、まだ私に話しかけるってことは気づいてないの?それともジェハが優しいだけ?きっと優しいだけだよね。気づかないわけないもん。ジェハは鈍感なんかじゃないから。
「○○、おはよ」
ジェハは皆が私の悪口を言っている中で、堂々と私に話しかけてきた。
「…おはよ」
泣きそうだったけど我慢して返事をした。
そんな私を気にせずにジェハは私に話し続けた。
「今日は一緒に帰ろうね、絶対」
なんでジェハはこんなに優しいんだろう、きっと育ちがいいんだろうな。でも私は自分で傷を作ってまで人の彼氏を取ろうとした最低な人。こんな人がジェハとずっと一緒にいていいのかな?
「○○?」
心配そうに優しく話しかけるジェハに上手く返事が出来なくなった。
To be continued…
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