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南の島の浜辺に寝転んでいるような、優しい君と君の家族との平和で穏やかな日々。こんな生活が私の人生に訪れるなんて、過去に囚われて泣いてばかりだった、ほんの数週間前までの私にとって想像もできないことだった。
五月下旬から大智君一家との同居生活が始まって一週間。一番の心配はやはりお母さんだった。私に同居を提案したかと思えば、清楚じゃない女との結婚は許さないと大智君に宣告して、彼女の本心が分からず私は混乱した。
実際に同居してみると、お母さんはどこまでも優しかった。平日の日中はお母さんと二人きりになるけど、この一週間怒られたことは一度もない。避けられたわけでもない。時間があれば私と話そうとしてくれた。話も自分の持論を延々と言って聞かせるような一方的なものではなく、どちらかといえば私の話を聞く方を好んだ。
家ではいつもニコニコしてるだけであまり存在感のないお父さんは、定年退職した会社に今も嘱託で働いている。大智君は大学生。お母さんと私は仕事をしていない。つまり四人家族に専業主婦が実質二人もいる状態。
確かにお屋敷も庭も広いことは広いけど、毎日の手入れだけなら一人いれば十分だ。実際、私が同居するまではお母さん一人でなんとかなっていたわけだし、私の存在って必要なのかなって正直不安になった。
もう一つ、同居家族が増えた分支出が増えただけじゃないかとそっちも心配になったけど、亡くなったお姑さんが残した莫大な遺産があるから、家計的には全然困らないそうだ。
入籍は大智君が教採に合格したタイミングでと決まっていたけど、それにこだわらなくていいのよとお母さんは言ってくれた。家事が少ないことが気になるなら、妊活を始めてみたらどうかしらとも言ってくれた。早く大智君の子どもを産んでみたいと言うと、詩音さんがそう言うならと君も言ってくれて、私たちは避妊をやめた。
初めて精液を私の膣に注ぎ込んだ直後、君は感無量といった表情で私に語りかけた。
「詩音さん、僕以外の人とも経験があるといっても、妊娠してもいいと思って避妊しないでセックスしたのは僕が初めてなんですよね? 初めてあなたとセックスしたとき〈私にとって君は最後の相手だ〉って言ってもらえて、それはもちろんうれしかったですけど、でも本当のことを言えば、そうは言ってもセックスに関する何かしらのことで、なんとかして僕はあなたの初めての男になってみたかったんです。今、その夢が叶いました。詩音さん、本当にありがとう!」
避妊しないでセックスして私の膣をほかの男の精液で汚されたことなんて数え切れないくらいあるし、妊娠したくて私の方からほかの男に〈中に出して!〉とせがんだことだって何回もある。
でも感激のあまり泣き出した君に真実を伝える勇気は私にはなかった。
妊活を始めるに当たって、いくつかのサイトで情報収集をしてみた。
妻が妊娠を望んでも、夫が妻に欲情しなくなり、妊活どころでなくなった夫婦の多いことにまず驚かされた。男性経験が豊富であることも夫の性欲を冷ましてしまう妻の例の中に含まれていて、目の前が真っ暗になった。なんでも正直に言えばいいというものでもないんだなと思い知った。
過去に交際した人数を交際相手に聞かれたとき、女はかなり少なく伝えなさいというアドバイスもあった。何よりそれは交際相手の男のプライドを保つためにそうすべきだとも書いてあった。正直に言った場合に大智君の気持ちが冷める恐れがあるのなら、彼のために〈美しい嘘〉をつこうと決めた。そして今がまさに〈美しい嘘〉をつくべきときだ。
「君が喜んでくれて私もうれしい。私は君と出会って、初めてこの人の子どもを産んでみたいと思った。私の子宮の中を泳いだのは、後にも先にも君の精子だけだよ」
私がそう答えると大智君がまた抱きついてきた。
「大智君……?」
「詩音さん、またあなたがほしくなってしまいました」
「うれしい」
十二人の男の共有物にされていた頃、性器に限らず私の体のありとあらゆる場所を彼らの臭い精液で汚された。そんなことを話せば、君はもう私の体を求めてくれなくなるだろう。今さら何をしたって私は清楚な女には戻れない。私が男たちとのセックスの快楽に溺れて人生を棒に振る一方、かたや君は過酷ないじめ被害を乗り越え、努力を重ねて前途洋々たる人生を着実に歩んでいる。何度も考えてみたけれど、こんな汚れた私が君に抱かれる資格など本当はないんだ。
だからこそ君の子どもを産みたいと心から願わずにはいられない。お金に余裕があるなら安い時給でバイトする必要はないだろうし、今さら大学に入り直す気もない。君の子を産み、母として精一杯育てること以外に、私がこの家の中ですべきことは何も思い浮かばなかった。
私もぜひ先輩とおつきあいしたいですと小野先輩に返事してすぐ、ランチでもどうですかと誘われた。土曜日の正午に待ち合わせしてフレンチのお店に行くことになった。ファミリーの人たちとのデートですでに三回利用したことがあるお店だったけど、もちろんそれは黙っていた。
前日の金曜日の夜は一年後輩組の南場達彦とデートして、そのまま彼の部屋に泊めてもらった。十二人の中で一番淡白な彼。今回もまだ一回しかセックスをしていなかった。
達彦はインドア派で、外に出るより部屋でまったりと二人で映画を見たり音楽を聴いたりすることを好んだ。それは決してお金をケチってるわけではなくて、私のために特上の出前寿司を頼むことくらいは当たり前にしてくれた。
達彦は淡白なくせに意外と嫉妬深く、しきりと小野先輩のことを聞いてきた。
「おれたちとつきあってるのに、詩音さんなんで外の男ともつきあうのさ?」
「だからそれは礼央さんがそうしろって言うから……」
「礼央さんが賛成したとしても、おれは反対だよ」
今さらそんなこと言われても……。嫉妬されるのは少し気持ちいいけどね。
達彦の部屋から小野先輩と待ち合わせしている場所までは近く、歩いて十分ほどの距離。そろそろ十一時半、待ち合わせ時間の三十分前。達彦には悪いけど待ち合わせの場所に向かわなければならない。
「ファミリーのみんなと違って、彼は女の扱いにも慣れてないから、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うよ」
「女の扱いに慣れてるかどうかで、詩音さんが男を選ぶとは思ってないよ。彼にはおれたちにはない学歴と教員採用試験合格という実績があるからね。正直おれは不安だよ」
達彦は私をベッドに押し倒した。
「達彦さん……?」
「ごめん。我慢できない」
「でも時間が……」
私の抗議は無視された。スカートと下着だけ脱がされ、同じく下半身だけ裸になった達彦にのしかかられ、挿入された。
「詩音さん、詩音さん……」
気持ちよさそうに達彦が声を上げる。いつもよりずっと動きが速い。早く終わりにしてやろう、と達彦なりに私に気を使ってるのだろうか?
小野先輩と会う三十分前に別の男とセックスしている、という極めて背徳的な状況に酔ったか、私はすぐに快楽の海に溺れた。
直前に引き抜き外に出したのはいいけど、達彦の精液は勢いあまって私の着ていた白いセーターの下の方まで飛んでひどく濡らした。
「ごめん。服にかかった」
「大丈夫。なんとかする」
セーターは白いからかかった精液が乾いても色で目立つことはない。問題はにおい。男の人なら精液のにおいがすれば、それに気づかないことはないだろう。
自分とのデートに応じておきながら他にも恋人がいるらしいと小野先輩に気づかれるのも都合よくないけど、それよりデートの場に精液のにおいをぷんぷんさせて現れたと気づかれることの方が私にとって致命的に都合悪いのは確かだ。そんなことをサークルの人たちに言いふらされたら、サークルはもう辞めるしかない。
セーターの下半分に制汗スプレーをかけまくった。たぶんこれで大丈夫なはずだ。
「詩音さん、色っぽいですね」
と達彦に言われて、自分がまだ下半身に何も身につけてないことを思い出して、思わず赤面した。
待ち合わせ場所の近くまで早足で来た。正午まであと五分。なんとか待ち合わせ時間に遅れずに済んだと思ったら、詩音さんと誰かに呼び止められた。忙しいのにとイライラしながらも、聞き覚えのある声だったから立ち止まり、街なかで人通りの激しい中、声の主を探した。
「こっちこっち」
と言いながら手を振っていたのは緑川芳樹だった。達彦と同じく一年後輩組で、今日の夕方から私とデートすることになっていた。
「芳樹さん? どうしたんですか?」
「どうしたって? 詩音さんがおれの知らない男とデートするって聞いて、いて立ってもいられなくなって来てしまったに決まってるじゃん!」
「今そんなこと言われても……。私、どうすればいいの?」
「愛してる……」
唇を唇で塞がれた。街なかの人通りが激しい歩道の真ん中で。大学の知り合いに見られたらどうするのか? いや、それ以前に、ここからすぐの場所で待ってるはずの小野先輩に見られたら……
芳樹がキスをやめてくれて正直ホッとした。彼は私の手を引いて、歩道をそれ、小さな公園に入った。そのまままっすぐ公園の隅にある公衆トイレの方に向かう。多目的トイレの扉を開け、私を中に入れ、扉を閉めた。
「ごめん。十分だけでいいから、詩音さんの時間をおれに下さい」
十分だけなら……。それくらいの遅れなら、小野先輩も待っていてくれるに違いない。
芳樹の意図が分かり、いいよと答えた。洗面台に手をついて立つように言われ、その通りにした。下着が下ろされていき、足から抜き取られた。私の両足を開かせ、後ろからスカートをめくり上げ、私のお尻を視姦してからまず指を入れてきた。
「なんでもうこんなに濡れてるの?」
それはさっき南場達彦に気持ちよくしてもらったばかりだからだ。黙っているとすぐに芳樹のものが挿入されて、激しく動かされた。洗面台の上に大きな鏡がついていて、私の顔の上にある芳樹の顔も見える。苦しそうな必死そうな不思議な笑顔だった。
すぐ近くで小野先輩が私を待っているのに、私はまた違う男の性器を体に差し込まれ、また快感に溺れている。
「おっおっおっおっおっおっ……」
「はっはっはっはっはっはっ……」
芳樹の気持ちよさそうな声が速まるにつれて、私の口から無意識に出てくる吐息のスピードも速まっていく。
絶頂に達したときの自分の顔を見て、間抜けだなと思った。私はこんな緊張感のない無防備な顔を男たちに晒し続けてきたのか?
それからすぐに私の中から彼のものが引き抜かれた。ちょうどここトイレだし便器の中に射精するのかなと思ったら違ったようだ。彼は射精中、性器をピンク色の何かで包んで精液はすべてそれに受け止められた。初めハンカチかと思ったら、それはセックスの前に抜き取られた私の下着だった。
「ごめん。君のパンツ汚しちゃった」
彼がそれを広げて見せた。大量の白い液体がべっとりとついている。何よりにおいがすごい。そんなもの履いていけるわけないと思ったけど、スカートの中に何も履かないわけにもいかない。
もしかすると芳樹も達彦も、私の体から精液のにおいが漂うようにさせて、私が小野先輩にフラれるように仕向けてるのだろうか? でも今はそれを問いただす時間がない。
洗面台の水で精液を洗い流しかたく絞り、制汗スプレーを空になるまでかけまくってから、もう一度履いた。濡れていて気持ち悪いけど仕方ない。
十分だけという約束は守ってもらえたけど、待ち合わせ時間からすでに十分過ぎている。
「じゃあ芳樹さん、また夕方ね」
多目的トイレの扉を開け、私は一目散に駆け出した。