「これ、いつの…」
スクリーンには屋上で佇む俺の姿が映っている。制服姿からして、つい最近の映像のはずだ。
「先週の金曜日」
沙耶が小さく呟いた。
「えっ?」
「覚えてる。この日、なおくんが屋上にいるの見かけたから」
確かに先週の金曜日、昼休みに屋上で一人考え事をしていた。きっかけは―
『彼の心の中には、言い出せない想いがあります』
スクリーンに文字が浮かび上がる。映像の中の俺は手すりに寄りかかり、空を見上げている。
「あの日か…」
映像の中で、俺は独り言を呟き始めた。
「さっちゃんのこと、ずっと好きだって気づいてた。でも…」
「え…?」
隣で沙耶が息を飲む音がした。でも、俺は目を逸らすことができない。だって、これは俺の本心。あの日、誰にも聞かれることなく呟いた言葉だ。
「今の関係が壊れるのが怖いんだ。幼なじみで、親友で、いつも一緒にいられる。それなのに、これ以上を求めていいのかな」
映像の俺は深いため息をつく。
「好きなんだ。でも、この気持ちを伝えたら、今までみたいにはいられなくなる。それが怖くて…」
「なおくん…」
沙耶の声が震えている。そして映像は切り替わる。
今度は映っているのは音楽室。放課後、誰もいない部屋で、フルートを持った沙耶が一人座っている。
「これも先週…」
今度は俺が呟く番だった。確かにこの日、沙耶が遅くまで練習していると聞いていた。
「私、なおくんのこと、ずっと…」
フルートを膝に置いたまま、沙耶が呟く。
「好き、なの。でも、どうしても言えなくて」
今度は俺が息を飲む番だった。
「だって、なおくんは私のことを、ただの幼なじみとしか見てないでしょ?」
「違う…」
思わず声が漏れた。
「いつも近くにいてくれて、優しくて、私のわがままも聞いてくれて。そんななおくんが、大好き」
映像の中の沙耶は、膝を抱えるようにして俯いている。
「でも、今の関係が壊れるのが怖い。だから、この想いは心の中に…」
映像が消える。部屋に静寂が流れる。
「さっちゃん、俺…」
「私…」
二人同時に声を出して、また言葉が途切れる。
気まずい沈黙。でも、もう逃げるわけにはいかない。あの映像で、お互いの本心を見てしまったんだから。
「俺のこと、好きなの?」
「うん…なおくんは?」
「好きだよ。ずっと、好きだった」
お互いの顔を見られない。でも、心の中では確かな想いが溢れている。
「私たち、お互いのこと好きなのに、ずっと気づかなかったんだね」
「っていうか、気づいてたけど、怖くて言えなかったんだよな」
「うん…バカみたいだね、私たち」
小さく笑う沙耶。その笑顔に、俺も釣られて笑ってしまう。
「じゃあ…改めて」
俺は沙耶の方を向いた。
「さっちゃん、俺と付き合ってくれる?」
「うん。なおくんと付き合いたい」
自然と手が重なり合う。今度は違う。これは運命の赤い糸を紡ぐためじゃない。ただ純粋に、好きな人と繋がっていたいという想いだけ。
その瞬間、俺たちの周りを赤い光が包み込んでいく。
『最後のカップル、成立です』
「え…?」
「私たちが…最後のカップルだったの?」
スクリーンに大きな文字が浮かび上がる。
『おめでとうございます。全てのミッションが完了しました』
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