彼女に甘えられないりんりん🫢
続きのお話も時間ある時に書きたいなぁと思ってます
〜〜〜
「明日の撮影楽しみだね」
西がそう言って隣に腰を下ろす。パソコンに目を向けながらそうだねと返事を返すと、同じように隣で編集を始めたようだった。
さっきから無視していたけど、頭がどんどん重くなっていく気がする。今日は雨だし、偏頭痛かなとも思ったけど、頭の奥の方にガンガン響くこの痛みは完全に風邪。
「まいったなぁ、、」
「ん?どうした?」
怪訝そうに顔を覗き込んで来たけど、言える訳もなく適当に誤魔化して編集を続けた。
―――
翌朝。寒気を感じで体を起こす。寒いのか暑いのか分からない感覚と、震える体。
完全に、やっちゃった。
体温計を脇にさして西に連絡しようとメッセージアプリを開く。
“りほおはよ!今日楽しみだね!”
これは、、行くしかないな。
ピピピと脇の下で音がなり、確認する37.8℃。ギリ微熱、うん、大丈夫。
重たい体を起こして化粧と着替えまで済ませたあと、いつも通り食パンを手に取ってピタリと止まる。スポーツ企画だし流石に食べないと持たないけど、食べられる体調じゃなさそう。とりあえず栄養ドリンクを流し込んで、玄関を出た。
―――
結局撮影中は絶不調。上手く笑えていたかも分からないし、面白いことだって何一つできていない。西が大暴走してくれたおかげで撮れ高は充分だろうけど。
気も体も重い。玄関に入ると緊張が解けて、思わず大きなため息が出た。
あーあ、幸せ逃げちゃった。
シャワーは撮影場所で浴びてきたし、編集はまだたっぷり残っているから休んでいる暇なんてない。もうだいぶ暖かくなってきたのに、布団にくるまってパソコンと向かい合う。
隣に置いた携帯が、通知を知らせ振動する。
あ、西だ。どうせまた集中出来ないから家に来たいとでも言うのだろう。一緒に居れば体調が悪いのがバレてしまう。
西には申し訳ないけど、適当に言い訳して断らせて貰おうとメッセージアプリを開く。
、、、、、え?
“会いたくて来ちゃったから鍵開けてー!”
いつもは愛らしいと感じる無邪気さと強引さも、今日は本当に迷惑だ。
仕方ないから鍵を開けてやる。
「急に来ちゃってごめんね〜!」
「そう思う奴は連絡してから来るんだわ」
「りほも会いたかったくせに」
「はいはい、編集しましょ」
狭い机に向かい合って編集をする。西は時々ふふっと笑って肩を揺らしては、見て見て、と面白いシーンとか上手くいった編集を見せてくる。
相変わらず体は重い、むしろ悪化しているぐらいだけど、西の柔らかい笑顔に心は少しだけ軽くなった。
ーあ、間違えた。
操作ミスで、時間をかけて編集した動画の1部を消してしまった。1度やった事だ。だいたいの操作は覚えているだろうから、スムーズに直せるし、いつもならすぐに切り替えられるのに。
不意に涙が溢れて、顔を伏せる。
今日はなんだか、上手くいかない。
ネガティブな思考に陥ってしまえば、もう涙は引っ込まなかった。視界がぼやけてはポトリと机に雫が落ち、また視界がぼやける。
なんか、、苦し。
「りほ、?なんで泣いてんの?」
「ん、、、だいじょぶ」
「大丈夫じゃないでしょ、もう」
西は立ち上がって私の方へ来ると、隣に座って背中を摩ってくれた。時折頭を撫でてくれたり、ティッシュを渡してくれたり、その温もりに、ほぼ反射的に手を伸ばしていた。
西は子供を見るようにふふ、と笑ってその手を取ってくれた。隙間が無くなるくらいぎゅう、と抱き締める。首元に顔を埋めると、西の匂いが鼻をくすぐった。
「どうして泣いてるのか、話して欲しいな。無理だったら大丈夫だよ」
あくまでも私を尊重する言い方。西はどこまでも優しいね。
「、、ずっと、ぐあいわるくて」
「うん、」
「撮影も集中できなかったし、編集も上手にできなくて、、」
「うん、」
「なんにも上手くいかなくて、どうすればいいかわかんなくなっちゃって、、ただ、それだけ、」
「そっかぁ、。」
私の髪を撫でながら、西が続ける。
「体調悪いの、気付けなくてごめんね。」
「、、ううん、」
「りほ、、」
耳元で響く優しい声色に、胸が高なった。
「なに、」
「ふふ、、好きだよ」
「えぇ、なに急に」
「今1番欲しい言葉はこれかと思って。あのね、うちはりほの甘えるのが下手くそなところも全部好きだよ。」
遠回しな慰め。この不器用な優しさも、わざとじゃないんだろう。
「りほ、すき、だいすき。だからさ、、」
「ん、、?」
「もうちょっと、甘えてよ、ちゃんと助けてあげるからさ。お願い、」
グッと下唇を噛んで、涙を堪える。
「西、成長したね」
「ん〜?なにそれ」
「ちっちゃい時はさ、いっつもあんたが泣かされてうちが慰めてたのに」
「そうだったっけ」
西と目が合って笑い合う。くしゃっと笑うと困ったみたいになる眉毛、ずっと変わらないね。
「ちょっと寝る?薬買ってこようか」
「寝れば治る、あのさぁ西」
「ん?」
「一緒に寝よ、?」
「あぁもう、可愛い。いいよ、一緒に寝てあげる」
ベッドに入って、わざと背を向けて横になった。予想通り西は後ろから抱き締めてくる。後ろから回された手をぎゅっと握って、目を閉じる。
「うちさぁ、西がいないとなんにも出来ないね」
「そっか、じゃあずっと一緒に居られるね」
「、、?」
「だって、こっちだってりほが居なきゃなんにも出来ないもん。」
ずっと一緒に居ようね、耳元で響く声に、繋ぎ止めていた意識をそっと手放した。