読む方によっては不快にさせてしまう内容かもしれません。
誰かから相談を受けた時、いつも伝えたい事がなかなか上手く言葉にできなくて、小説を通して少しでも何か伝われば、と思い執筆させていただきました。
⚠️自傷行為やパニック発作の描写が含まれます
⚠️自傷行為やパニック発作の描写が含まれます
にこりほ付き合ってます。
〜〜〜
「りほちゃん遅いですね、なんか言ってました?」
マネージャーの問いかけに顔をあげ、時計を確認するともう集合時間を30分近く過ぎていた。
「そういえば、昨日の夜から連絡つかないかも。」
言われてようやく違和感に気付いたけど、りほが私からの連絡に長時間返信しないなんて事は滅多にない。
遅刻だってほとんどしたことないのに、どうしちゃったんだろ。
それから1時間経っても、りほは来なかった。メッセージも電話も一向に繋がらない状況には流石に焦りを覚えて、今日の撮影は無しにして、私はりほの家に向かった。
タクシーでりほの家に向かう間、言葉にできない“嫌な予感”で押しつぶされそうだった。
合鍵を使って家に入る。りほー、と呼びかけたけど返事はなかった。スリッパは玄関にないし、りほがいつも履く靴はきちんと揃えられている。
具合が悪くて寝込んでいるのかもしれない。
もし倒れたりしていたらどうしよう。
色々な考察が頭を飛び交って、それでも足を止めずにリビングのドアを開ける。
、、、いない。
ここにも、ここにも、。
各部屋を回って、開けていない最後の部屋に来た。
寝室。いる可能性が高いのはここだろう。
一応コンコンとノックをして、ゆっくりドアを開ける。中は薄暗く、カーテンも閉じられているけど、部屋の角でりほが膝を抱えているのがぼんやりと見えた。
「りほ、どうした?具合悪くなっちゃった?」
なるべく優しい声色で話しかけて、私は電気を点ける。
直後、飛び込んできた景色に目を疑った。
……え?
床に置かれたカッター、猫に引っ掻かれたような傷が何本もついたりほの手首。
何秒かして、西、と呼ぶりほの声に我に返り、事態を全て理解した。
「りほ、、、、あんた、、なにしてんの、」
「、、、、わかんない」
今にも泣き出しそうな声なのにりほは笑っていて。それには僅かに恐怖すら覚えた。まるで映画でも見ているように現実感がない。
「にし、、、、いたい、、にし」
その言葉に、急いでりほに駆け寄って抱き締めた。
なんで、どうして気付けなかったんだろう。自分を傷つけて生き延びようとする程我慢していたのに、なんで助けを求めてくれなかったの。
「ごめんねりほ、ごめんね」
「なんで西が謝るの」
こんなに近くにいるのに手を差し伸べてやれなかった自分に嫌気が差して、ごめんと謝り続けることしかできなかった。
りほは震える声で、いいよ、大丈夫と繰り返していたけど、その目から涙は溢れてこない。いつもの優しい目じゃない。苦しみを無視するために、感情がなくなっちゃったみたいで、りほのその強さに悲しくなった。
「りほ、りほ、、泣いていいよ、、大丈夫、大丈夫だからね、。」
「ぃやだ、やだ、やだ、嫌いにならないで、」
いやだいやだと何度も繰り返すりほの呼吸は乱れていて、必死に酸素を取り込もうとする度に呼吸は浅くなっていく。
私の腕から離れて耳を塞ぎ、体はすごく震えている。何か嫌なことがフラッシュバックしているのかもしれない。刺激してもっとパニックになってしまったらいけないと思い、抱きしめたい衝動を抑えて落ち着くのを待った。
「ゆっくり呼吸してごらん、大丈夫だよ」
「っは、、はっ、は、ッ、、」
愛する人の、苦しそうな姿に私まで涙が溢れてきた。苦しいのはりほなのに。
暫くして呼吸も落ち着いた頃、りほは涙でぐしゃぐしゃになった顔で私を見上げた
「落ち着いた、、?」
「っ、う、にし、」
私に向かって伸ばしてきた手には、片方にたくさん傷がついている。もう既に血は乾いているようだったけど、後で消毒してあげなくちゃ。
でも今はまず、こっちが優先。その手を取って、ぎゅうっと抱き締める。
「りほ、、、苦しかったね、」
「だいじょうぶ、」
「大丈夫じゃないでしょ、?」
「大丈夫って、言わなきゃ、だめなの」
「、、、そっか、」
その言葉には想像もできないほどの意味が詰まっているように感じて、聞くかどうかを躊躇った。
するとりほは、あのね、と途切れ途切れ話し始めた。背中をトントンと一定のリズムで叩く、ちゃんと聞いているよ、と伝える代わりに。
「助けてって、言うのが怖かったの、だって助けてくれるかわからないし、嫌われるかもしれない、、だから西には話せなかった、それにね、、」
「うん、」
「何が辛いのか、分かんなくて。だから相談しても結局、みんな分かってくれなくて、、自分が我慢すればそれで、上手くいくと思ったのに、」
「りほ、、、」
「みんな、、血が出てなきゃ分かんないんだってさ、傷ついてるの。泣いてなきゃ、苦しいって、伝わらないんだって、もう、、疲れちゃった、」
何も言葉が出てこなかった。正確には、なんと返せば正解かがわからなかった。ここまで傷付いて、それでも生き延びるために自らの手で血を流した彼女に、私が何か言う権利などないと思った。
「本当に辛い人は辛いって言えないんだって。でもね、辛い、つらいよ西、助けて、」
彼女の傷を癒せるかは分からないけど、せめてもの思いで、1番伝えたい言葉を伝えることにした。
「りほ、愛してるよ、、、、よく頑張ったね、、偉いね、痛かったね、もういいよ、自分のこと傷つけてまで、頑張らなくていいよ。」
「ぅ、うぅ、、、ぐす、、」
「私が助けてあげるから、だから、出来ればもう、こんなことしないで、、」
りほが泣き終わるのを待って、ベッドに移動した。持ってきた消毒をティッシュに含ませて、痛々しい傷口にあてがう。
「汚いから、いいよ、自分でするよ」
「ううん、いいよ、じっとしてて」
「っ、、、いてて」
「痛かったね、よしよし」
まだ昼間だったけど、ベッドに横になって抱きしめあった。
今日は笑えなかったけど、また明日笑えば良いね。私がりほを笑わせてあげるから。
あえて伝えなかったけど、腕の中のりほは安心しきったようにうとうとしていて、その事実だけで十分だった。
「りーほ、」
「、、、、ん、」
「この傷が消えるまで、一緒にいようね」
リストカットの跡は、一生消えないらしい。
〜〜〜
“明日はくるから” それがいい明日でも悪い明日でも。
みなさんには全く関係ありませんが、私は中学2年生の頃から精神疾患と闘っています。「生きていればいいことがある」何度も無責任な大人たちに言われた言葉、確かにそうかもしれないけど、今この瞬間に生きているのが辛い私にとっては厳しい言葉でした。
2人のセリフとして入れた、「自分の事を傷つけてまで頑張らなくていいよ」「血が出ていなきゃ、傷付いてることが伝わらない」など、私が伝えたいなと思ったことを、他にもいくつか入れさせていただきました。
今が苦しいと思っている方に少しでも何か、伝わりますように。
コメント
11件
感動しました…
実は私も鬱病なんです。周りからは信じてもらえなくて、理解してもらえなくて凄く凄く辛かったです。仕舞いには虚言癖なんて言われました笑 今日の物語は凄く私の胸に刺さりました。物事の感じ方は人それぞれです。だけど誰も人の意見を否定していいなんて言っていません。少しでも少しだけでもいいから理解して欲しかった、褒めて欲しかった、傍にいて抱きしめて欲しかった。今更言っても遅いのに。