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映画を観終えた後は、話題のカフェに立ち寄り、心ゆくまでショッピングを楽しんだ。
道中、『獅子レンジャー』のキャストだと気づいたファンに囲まれる一幕もあったが、小さな子供から「大きなお姉さん」層までが熱心に声をかけてくれる様子に、作品が全方位に愛され始めている実感を肌で感じる。これまでの地道な積み重ねが、確実に報われつつあるのだと胸が温かくなった。
そんな賑やかな時間を経て建物の外に出れば、街はすっかり帳に包まれ、鮮やかなイルミネーションが灯り始めていた。光の粒を纏った木々の中を、二人はゆっくりと歩を進める。
蓮の右手には、ナギの手がしっかりと握られていた。
映画の余韻に浸っているのか、ナギは嬉しそうにニコニコと蓮の腕に縋りつき、時折思い出したように指を絡めてくる。周囲が暗くて助かった。今の自分の顔がどれほど締まりのないものになっているか、自分でも想像がつくからだ。
「やっぱ、弓弦くんってさ……プロだなぁって思った。なんか、女の子たちが憧れる理由がわかった気がするよ」
「そっか……」
「うん。演技だってわかってるのに、俺までなんだかドキドキしちゃったし」
楽しげに語るナギに悪気などない。それは分かっている。分かっているのだが、どうしても面白くない蓮は、つい素っ気ない返事を返してしまった。
「なんか……妬けるんだけど」
「え?」
思わず漏れた本音に、しまったと口を塞ぐ。ナギは驚いたように目を見開いていた。
「お兄さんって、結構独占欲強いよね」
「うっ……耳が痛いな」
自覚はあったが、こうも直球で指摘されると立つ瀬がない。
「でも、そういうお兄さんもいいと思うよ。だって、それってつまり俺のことが大好きってことでしょ?」
クスクスと笑いながら見上げてくるナギはどこか誇らしげで、ああ、やっぱりこの子には敵わないなと、つくづく思い知らされる。
「……そうだよ。目に入れても痛くないし、いっそのこと監禁して、僕だけしか見えないようにしてやりたいって考えてるくらいにはね」
「うっわ、それは流石に引くわ……」
「冗談だよ」
「お兄さんの場合、冗談に聞こえないんだってば……」
ブツブツと文句を言いながらも、ナギは蓮の腕を離そうとはしなかった。むしろギュッとしがみついてくる仕草が、たまらなく愛おしい。
「そんなお兄さんも、好きだけど……」
「何か言った?」
「んーん、なんでもない!」
ポソリと呟かれた言葉は喧騒に消え、ナギは首を横に振るばかりで二度と口にしてはくれなかった。
このまま帰るのも名残惜しく、二人は国道へ出てバスに乗り、海沿いの町まで足を伸ばした。
美しい夜景で知られるその公園のすぐ近くには、メディアでも度々取り上げられる有名なレストランがある。お洒落な店内には静かなBGMが控えめに流れ、耳に心地いい。
「ここのパエリアが美味しいんだよ」
どうしても一度、ナギを連れてきたいと思っていた店だった。
夏の繁忙期には予約なしでは門前払いされる人気店だが、冬のこの時期は幸いにもすんなりと入店でき、海を一望できる特等席へと通された。
「へぇ、綺麗だね……」
大きく取られたガラス窓の向こうには、夜の海が広がっている。ライトアップされた観覧車やビル群の灯りは、まるで宝石箱をひっくり返したかのように煌めいている。
「どう? 気に入ったかな」
「うん。連れてきてくれてありがとう、お兄さん」
にっこりと微笑むナギに、蓮は満足げに頷く。喜ぶ顔を見ていると、心底連れてきてよかったと報われる思いだった。
他愛もない会話とともにコース料理に舌鼓を打っていると、突如、ナギがテーブルの下で蓮の足をつついた。
「ねぇ、あれ……」
「え?」
顎で示された先には、向かい合って座る二人の男性。一人はサングラス、もう一人は大きめのマスクで顔を伏せていたが、料理が運ばれてきてマスクを外した瞬間、周囲の女性客がわずかに色めき立つのが分かった。
「もしかしなくても、あれって……ゆきりん達じゃない?」
変装しても隠しきれない、圧倒的なオーラ。本人たちは気づかない振りをしているのか、あるいは慣れっこなのか、堂々と食事を続けている。
「こんなところで、何やってるんだろ……」
「さあ……デート、とか?」
まさかの鉢合わせに驚いたが、確かにここはデートスポットとして申し分ない。自分たちもそのつもりで来たのだ、チョイスとしては正解だろう。
「ねぇねぇ。あの二人、どこまでの関係だと思う?」
「どこって、そりゃあ……」
雰囲気は最高にいいが、「どこまで」と聞かれると答えに窮する。雪之丞はもちろん、弓弦も奥手なタイプだと勝手に思っていた。
けれど、今日の映画で観た彼はそんなイメージを軽く凌駕するほど堂々としており、もし本気を出せば雪之丞などあっという間に手のひらで転がしてしまうのかもしれない。
「……なんか、俺たちと似てるね」
不意にナギが笑いながら言った。お互いに気持ちは隠しきれていないのに、傍目には進展具合が掴めない、あの不思議な空気。蓮は思わず苦笑し、テーブルの下でナギの手をそっと握り直した。
「あーもうっ、ゆづってば、男になりなさいよ! じれったいなぁ!」
「!?」
突然、聞き覚えのある声がどこからともなく響き、二人は顔を見合わせた。視線を巡らせると、弓弦たちの席と自分たちのちょうど中間あたり、太い柱の陰からコソコソと覗き込む怪しい人影が二つ。
「ねぇ、あれって……」
「はるみんと……草薙姉さんだね……」
二人はこちらには全く気づかず、スパイのように身を潜めて弓弦と雪之丞を凝視している。
「大丈夫だって。あれ、どう見たって両想いだろ」
「でも……ゆきりんがどう思ってるか分かんないし……」
「……覗き見とは、あまり感心しないなぁ」
乾いた笑みを浮かべつつ蓮が声をかけると、二人は「びくぅっ!」と肩を跳ねさせ、壊れたロボットのようなぎこちなさで振り返った。
「……あ、あはは……これは、えーっと」
「つか! アンタら、なんでここにいんだよ!」
「いや、それはこっちの台詞だけど」
困惑する蓮を余所に、ナギは肩を震わせて笑いを堪えている。
「僕たちはデートに決まってるだろ? 君たちの場合は……デート、って感じじゃなさそうだけど」
全身黒ずくめに深い帽子という、あまりにも怪しい装いの二人。尾行目的で示し合わせてきたとしか思えない。
「ち、違うの! 今日、この近くでたまたまサバゲーの体験やってて……ガラス越しにゆづの姿が見えたから、それで……っ」
「へぇ~……サバゲー、ねぇ……」
「おい、余計なこと言うなよクソ女!」
あたふたと取り繕う二人のやり取りがあまりに滑稽で、蓮は思わず吹き出した。
弓弦も雪之丞もまだ気づいていない。せっかくの時間を邪魔したくはないが、気になって覗いてしまう。どうやら東海と美月も、自分たちと大差ないらしい。
「シーッ、静かに。あの二人に気づかれたら困るだろ?」
「ナギまで……何ちゃっかり参加してるんだよ」
「だってぇ……気になったんだもん」
確かに気持ちは分かる。だが、万が一見つかった場合を考えると、少々厄介だ。
「そんなに雪之丞たちが気になるのかい? 僕が隣にいるのに……」
少し拗ねた口調で言うと、ナギがハッとした顔をした。
「ごめっ……そんなつもりじゃなかったんだ」
申し訳なさそうに目を伏せる姿は、やはり反則的に可愛い。こうなると怒る気も失せてしまう。
「……出たよ、バカップル」
「蓮さんって、案外したたかよねぇ。弓弦にも見習ってほしいわ」
呆れ半分、茶化すような二人の声に、蓮は否定せずふふっと笑った。