テラーノベル
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俯くナギの頬を指先でそっと撫でる。その瞬間、彼以外の存在など、どうでもよくなってしまった。
食事を終えて外に出ると、冷たい夜風が火照った頬を撫でる。
ライトアップされた海沿いの公園は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返り、まばらな家族連れや寄り添うカップルたちが、思い思いの時間を過ごしていた。
「あ、ほら……ここから下に降りられるみたいだよ、お兄さん」
「へぇ、直接海に出られるのか。下りてみようか」
手を取って歩き出すと、外灯の届かない砂浜は一気に暗さを増した。寄せては返す波の音と、濃密な潮の香りだけが五感を満たす。まるで世界に二人だけが取り残されたかのような錯覚。頭上の星々は、手を伸ばせば掴めそうなほど近く、瞬くたびに二人を静かに照らし出した。
柔らかな砂に足を取られそうになりながら、蓮ははぐれないようにとナギの手を強く握りしめる。その確かな温もりが心地よく、もう二度と離したくないと強く思った。
「流石に寒いな」
「そりゃまぁ、真冬だしね」
クスクスと笑い合う吐息は白く、凍りつきそうだ。繋いだ手だけがじんわりと熱を保っている。
「あ……あそこにイルカみたいなのがいる!」
「え? どこっ?」
蓮の言葉に反応し、辺りを見渡そうとしたナギの顎をクイと上向かせ、そのまま唇を奪った。
「冗談だよ。こんなに暗くてイルカなんて見えるわけないだろ?」
「~~~ッ!」
騙されたと気づいて絶句するナギの頬に手を添え、蓮は逃がさぬよう再び深く唇を重ねる。ゆっくりとはむように弄り、少し強引に舌を割り入れると、ナギは一瞬だけ身体を強張らせたものの、すぐにおずおずと口を開いて蓮を受け入れた。
「……っふ……」
湿った音が静寂に響き、ナギの長い睫毛が小さく震える。角度を変え、貪るように深く口づける。歯列をなぞり、上顎を舐め上げると、ナギの身体が小刻みに震えた。
「お兄さん……ここ、外……だから……っ」
「大丈夫。誰も見てないよ」
潤んだ瞳で見つめられ、吐息の甘さに眩暈がする。誰もいないのをいいことに、額、瞼、頬、そして再び唇へと、愛を確かめるようにキスの雨を降らせた。ナギも腕を蓮の首に回し、抗うことなくその身を委ねてくる。
「んぅ……っ、お兄……さん」
甘えた声が、蓮の奥底にある欲望を容赦なく煽る。このまま砂浜に押し倒してしまいたい衝動に駆られるが、理性が辛うじてブレーキをかけた。
(……駄目だ。こんなところで風邪を引かせるわけにはいかない)
「――言っとくけど」
唇を離した拍子に、ナギが釘を刺すように言った。
「これ以上シたら、しばらく口きかないから!」
「や、やだなぁ……。するわけないだろ?」
「嘘ばっかり。絶対、このままシてもいいなーって思ってたでしょ」
ジトッとした視線を向けられ、蓮は僅かに目を泳がせた。最近のナギには、思考回路を完全に見抜かれている気がする。
「……ねぇ、ホテル行こう? 俺も、キスだけじゃ足りないし……」
耳元で囁かれた艶っぽい声と、股間をなぞる指先の感触に、背筋を電撃のような衝撃が走った。
「は……いやらしいな。そんなに我慢できないのかい?」
「っ、こんなところで襲われるよりマシって話! で? どーすんの?」
挑発的に首を傾げるナギ。だが、不機嫌そうに眉を寄せながらも、期待を隠しきれずに腰を押し付けてくる。そんな彼を心底愛おしく、そして「啼かせたい」と思うのは男の性だろう。
「いいよ、行こうか。……ナギからのお誘いを、僕が断るわけないじゃないか」
髪に口づければ、ナギは恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに蓮へと擦り寄ってきた。
火照った身体を横たえ、腕の中でスマホを弄っていたナギが、ふと思い出したように顔を上げた。
「そういえば、あの二人……どうなったんだろう?」
「もしかして、雪之丞たちのこと?」
二人きりの甘い時間に他人の名を出すナギに、蓮は僅かな独占欲を覚える。仕返しに、彼の首筋に深く顔を埋めた。
「ぁ……っ、ん……急になに?」
「別に。ただ、僕といる時に他の男の名前を出すのはマナー違反じゃないかな」
「……お兄さん、もしかしてヤキモチ?」
ナギがくすくすと笑いながら、蓮の頬を優しく撫でる。
「……そうだね。僕は自分で思っていた以上に、君のことに関しては心が狭いらしい」
「ふふっ。でも……そういうの、ちょっと嬉しいかも。それだけ俺のことが大好きってことだもんね」
ナギは腕の中に潜り込み、ぎゅっと蓮にしがみついてきた。その温もりに胸がいっぱいになる。
「俺さ、お兄さんがレッドで良かったって思ってるんだ」
「なんだよ、急に……」
「憧れてたんだよ、ずっと。一つの役を共有できるだけでも凄いのに、プライベートでこんな関係になれるなんて、夢みたいだなって」
背中に回された手に力がこもる。
「正直、最終回なんて来なきゃいいのにって思う。そしたら……ずっとお兄さんと一緒にいられるのに」
切実な吐息とともに漏れた本音。その不安を拭い去るように、蓮はナギの頭をくしゃくしゃと撫で、額にキスを落とした。
「子供扱いしないでくれる?」
「子供扱いなんてしてないよ。子供相手にこんなに欲情するわけないだろ?」
「……ばか」
蓮はナギを優しく見つめ、静かなトーンで語りかけた。
「番組が終わったって、僕らの絆はそう簡単に消えるものじゃない。スタッフもキャストも、みんな君を、僕らを愛してる。だから大丈夫だよ。……まあ、一番君を愛しているのは僕だけどね?」
ナギは嬉しそうに笑い、再び腕を首に絡めてきた。重なり合う唇。ゆったりとした熱が、静かな夜の部屋に溶けていく。
「ね、もう一回……いいかな?」
「……俺が断れないの分かってて聞くんだもんなぁ……」
ぷいっと拗ねてみせるナギに、蓮は幸せを噛みしめながらゆっくりと覆いかぶさった。 この先にどんな未来が待っていようと、この熱があればきっと乗り越えていける。そう確信しながら、蓮は再び深く、彼を求めて唇を重ねた。