コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
深夜。ノックの音がした。
「……涼ちゃん?」
若井の声。
返事はない。けれど、ドアの向こうで小さく物音がした。
「開けて。心配で来た」
しばらく沈黙のあと、ゆっくりと鍵の開く音。
涼ちゃんは薄手のパーカー姿でドアを開けた。
目の下にはくっきりとした隈。
声を出すのも少し億劫そうだった。
「……若井、こんな時間にどうしたの」
「どうしたのはこっち。顔見たら寝れないと思って」
「寝なよ、普通に」
涼ちゃんは笑おうとしたけど、唇が少しだけ震えていた。
若井は部屋に入って、静かに言った。
「……一緒に寝てもいい?」
その言葉に、涼ちゃんは思わず目を丸くした。
「えー、やだよ〜」
少し笑ってみせる。
その声が、どこかで救いを求めてるみたいに優しかった。
「俺、ちゃんと端っこで寝るから。ベッド狭くても平気」
「そういう問題じゃないでしょ」
「いいじゃん。涼ちゃん、ずっと一人で考えてる顔してる」
その一言に、涼ちゃんは一瞬だけ黙った。
目を伏せ、手元の布をぎゅっと握る。
「……別に考えてないよ」
「嘘だ」
「……嘘だよ」
そう言ったあと、ふっと力が抜けたようにベッドに腰を下ろす。
若井はそっと隣に座った。
「無理に話さなくていい。ただ、今日はここで一緒に寝よ」
「……若井、ほんと変なやつ」
そう呟いた涼ちゃんの声は、少しだけ安堵を含んでいた。
布団の中で、しばらく二人は何も話さなかった。
静かな夜に、涼ちゃんの浅い呼吸だけが小さく響く。
やがてその呼吸が少しずつ落ち着いていき、若井はそっと目を閉じた。
「……おやすみ、涼ちゃん」
その声に、寝たふりをしていた涼ちゃんの唇が、ほんの少しだけ笑った。