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「柚葉」
そろそろ店を出ようと席を立った時、誰かが私の名前を呼んだ。その声に振り返ると、そこには、以前私が付き合っていた人……元カレが立っていた。
「佐藤君!」
「久しぶり、柚葉、元気?」
あまりにも突然の再会に驚いた。
佐藤君にはもう二度と会わないと思っていたから。
「う、うん。元気……だよ」
「柚葉、どなた?」
真奈は少し怪訝な表情を浮かべている。
「あ、ごめんっ、こちらは……大学時代の友達の佐藤君。こちら、私の同僚の浅香さん」
「初めまして。浅香 真奈です」
「あぁ、初めまして。佐藤光二です」
初対面の2人のぎこちない挨拶のあと、佐藤君が切り出した。
「柚葉、ちょっと2人で話せない?」
「えっ? あの……」
まさかの佐藤君の言葉に戸惑いが隠せない。
「あの、どういう御用ですか? 柚葉は今、私と食事中ですから、遠慮してもらえたら」
少し不快感を表しながら真奈が言った。
きっと、佐藤君の何ともいえない重苦しい雰囲気が、真奈にそう言わせたんだろう。
「佐藤君、どうしたの? すごく顔色悪いよ」
せっかく引き離そうとしてくれたのに、私は思わずそう聞いてしまった。あまりの佐藤君の変わり様が、なぜか少し気になってしまったから。
「柚葉、どうしても相談したいことがあるんだ。すぐに時間作ってほしい。電話くれないか」
必死さが伝わってきて、ちょっと怖くなった。やっぱり、おかしい。私にいったい何を相談したいというの?
「ごめん。番号は……スマホから消したから。もう、佐藤君とは連絡取らないって決めてるし。だから、相談なら他の人にして。今日は……帰って……」
私も、真奈を見習って勇気を出した。
「柚葉……。お前、なんか冷たくないか?」
佐藤君の目、すごく怖い。
大学時代、テニスサークルでいつも女の子達に囲まれていた佐藤君。私は特に好きな人もいなくて、佐藤君のことも素敵だとは思ってたいけど、自分には遠い存在だと感じてた。
そんな時、思いがけず付き合ってほしいと言われ……
すごくびっくりしたけど、かなり強引に押し切られ、私は佐藤君の彼女になった。
周りからの鋭い視線を浴びながらも、少しずつ佐藤君を好きになっていく自分がいて。
スポーツ万能、頭も良くて爽やかな佐藤君と付き合えることを嬉しく感じられるようになった。
なのに、私は……アッサリ浮気された。
最初は信じられなくて、泥沼にはまったように落ち込んだ。自分の男を見る目のなさ、未熟さを悔やんだりした。
でも……周りの励ましもあって、案外早く立ち直れた。
7ヶ月間のままごとみたいな交際期間は、私にとって、単なる過去の1ページでしかなかった。