テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
羊と亀のお遊戯会
23
奏音•*¨*•.¸¸♬︎💙
10
映え無し

1
コメント
1件
もううう、切なすぎて胸がギュッてなったよ……😭💔「大丈夫だよ」って嘘をつく夜、分かるけど辛すぎる。でも最後に「今日の私は少しだけ大丈夫」って言える主人公、すごく強くて尊い。好きだった時間をなかったことにしないって決めたとこ、めっちゃエモかったです。水曜さんの短歌から入る世界観、毎回好きすぎる…🌸
【短歌】
ごめんね、と 言った君の目 見られずに 大丈夫だよと 嘘をつく夜
【短歌をテーマにした物語】
放課後の教室には、私と君しかいなかった。
窓の外では、部活に向かう生徒たちの声が聞こえている。
いつもと同じ放課後。
いつもなら、君と並んで帰る時間だった。
でも今日は違った。
「話したいことがあるんだ」
そう言った君の声が、いつもより小さかった。
私は何となく分かっていた。
だから、聞きたくなかった。
「……何?」
そう尋ねると、君はしばらく黙ってから言った。
「ごめん」
その一言で。
胸の奥が、冷たくなった。
「俺……好きな人ができた」
聞きたくなかった言葉だった。
でも私は、できるだけ普通の顔をした。
「そっか」
「うん……」
「じゃあ、仕方ないね」
自分でも驚くくらい、声は普通だった。
君が私を見る。
その目には、申し訳なさが浮かんでいた。
「本当に、ごめんね」
君がもう一度言った。
私は顔を上げられなかった。
君の目を見たら。
きっと泣いてしまう。
だから机の上だけを見つめた。
「大丈夫だよ」
口から出た言葉は。
自分でも分かるくらい、嘘だった。
*
君が帰ったあと。
教室には私一人が残った。
さっきまで君が座っていた席を見る。
机。
椅子。
窓。
何も変わっていない。
なのに。
どうしてこんなに寂しいんだろう。
私は鞄を持って、教室を出た。
廊下を歩く。
階段を下りる。
昇降口で靴を履き替える。
全部、いつもと同じ。
なのに。
今日は一人だった。
校門を出る。
夕方の空は綺麗だった。
いつもなら。
「今日の空、きれいだね」
なんて君に言っていたかもしれない。
でも今日は。
隣に君はいない。
私は一人で歩いた。
*
家に着く。
「ただいま」
いつものように声を出す。
返事を聞いて、自分の部屋へ向かう。
鞄を置く。
制服のままベッドに座る。
静かだった。
静かすぎて。
昼間の君の声が、頭の中に戻ってくる。
『ごめんね』
私は枕に顔を埋めた。
「……大丈夫じゃないよ」
誰もいない部屋で。
初めて、本当の言葉を口にした。
「全然、大丈夫じゃない……」
涙が出た。
止めようと思っても、止まらなかった。
好きだった。
ずっと好きだった。
一緒に帰る時間も。
くだらない話をする時間も。
朝、目が合って笑ってくれることも。
全部好きだった。
それなのに私は。
最後まで君の前で「好きだった」と言えなかった。
大丈夫だなんて。
どうして言ったんだろう。
*
しばらく泣いたあと。
私は机の引き出しを開けた。
そこには、一冊のノートがあった。
君と一緒に勉強したときのものだった。
ページを開く。
隅に小さく書かれた文字。
『ここ、計算間違ってる』
その下に。
『ほんとだ。ありがとう』
と私が書いている。
別のページには。
『テスト終わったらどこ行く?』
そんな何気ない言葉まで残っていた。
私はページを閉じた。
悲しい。
でも。
同時に思った。
私は、君と過ごした時間を嫌いにはなれない。
好きだった。
だから苦しい。
でも。
好きだった時間まで、なかったことにはしたくない。
そう思ったら。
ほんの少しだけ、胸の苦しさが変わった。
*
翌朝。
目を覚ます。
昨日とは違う朝だった。
まだ少し胸は痛い。
それでも。
カーテンを開ける。
朝の光が部屋に入ってくる。
「……行こう」
制服に着替える。
家を出る。
駅へ向かう道を歩く。
いつもの道。
いつもの景色。
でも。
今日からは少しずつ変わっていくのだろう。
学校に着く。
教室へ入る。
君の席を見る。
やっぱり少しだけ胸が痛んだ。
私は自分の席に座った。
そして。
小さく息を吐く。
「昨日の私は、大丈夫じゃなかったけど……」
窓の外を見る。
「今日の私は、少しだけ大丈夫」
誰かに言うわけでもなく。
私はそう呟いた。
失恋したからといって。
昨日までの日々が消えるわけじゃない。
君を好きだった私も。
君と笑った時間も。
全部、本当だった。
だから。
無理に忘れなくてもいい。
いつか思い出したときに。
「あの頃、好きだったな」と。
笑える日が来ればいい。
その日まで。
少しずつ歩いていけばいい。
そしていつか。
昨日、言えなかった本当の言葉を。
自分自身には、ちゃんと伝えられるように。
――私は、君が好きだった。
そう認めた朝。
昨日より少しだけ、前を向けた気がした。
あの夜の私は。
確かに嘘をついた。
でも。
いつか本当に「大丈夫」と言える日が来ることを。
今の私は、少しだけ信じていた。