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#探偵
橘靖竜
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おだんご🍡
44
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部屋に戻ってスケジュール表をチェックしてみると、消灯は夜の十時となっていた。月呼はいつもそれくらいの時間帯に就寝しているので、問題はないと感じる。
十二時の十分前に、月呼と侑加は二階のダイニングルームに入った。室内には丸いテーブルが十卓あって、円になるように並んである。テーブルには白いテーブルクロスがかけられてあった。
「ペアは隣どうしで座ってください」
ヌーナという局員からの指示を受ける。てっきり局員は男性しかいないと思っていたが、ヌーナは女性のようだ。
「前沙、あたしの隣にきて!」
すでにここへ来ていたくるるが月呼を呼んだ。彼女のとなりには野利彦が座っている。
「うん」
月呼はくるるのとなりに座った。侑加は月呼の右隣に座る。
参加者は続々と集まってきた。十二時になる前に全員が着座する。
「皆さん、どうです? 料理が運ばれてくる前に、それぞれ自己紹介しませんか? 無論、それぞれ言える範囲で」
継田慶迅(つぎたけいじん)が言った。侑加と同様、ルール説明の時にまったくしゃべらなかった人間だ。丸顔で眼鏡をかけている。
月呼はあらためて誰と誰がペアなのかを目で見て確認する。自分と侑加を除くと、くるると野利彦がペアなのはおぼえていた。他の三組は湯江奈と気介、瑞麻と豆隆、依榛と慶迅という組み合わせとなっている。
くるるは月呼といちばん親しい女性で、野利彦はゴリラ。湯江奈は月経痛に苦しむふくよかな女性で、気介は前回痛い目を見たリピーター。瑞麻は眼鏡をかけた利発そうな女性で、豆隆はきりっとした顔立ちの小柄な男性。依榛は猿に似た顔の女性で、慶迅は童顔で眼鏡をかけている。
「あたし、あいつみたいに仕切る人間、苦手なのよね」
くるるが慶迅を見てぼそっと言った。
「そう? こういう場だとああいう人がひとりはいた方が助かるよ」
月呼は慶迅の立ち位置を擁護する。
「じゃあ、言い出しっぺの僕から。名前は継田慶迅です。年齢は十九歳。現時点では三億円をもらう方が合理的だと考えていますが、この先のことはわかりません。なにぶん、孤独な人生だったので、愛には飢えているんですよね」
慶迅の言い分だと、場合によっては依榛との恋愛も考えている、ということだろうか。
「場野依榛。二十二歳。人生でお金には苦労させられた。だから、私はお金が欲しい。賞金で歯列矯正したり、美容整形したり、マンションを買いたい」
「……」
月呼は慶迅と依榛のすれ違いに複雑な気持ちとなる。このふたりが相思相愛となることはなさそうだ。慶迅はここでの恋愛を諦めた方が得策だろう。
「巽豆隆。年齢は二十四歳。マンガを読むのが好きなただのインドア派」
豆隆は気だるそうにしゃべった。
「あの男、職業はホストかもね」
くるるが月呼に耳打ちする。
「どうして?」
「見た目がいかにもそうじゃない」
「そうなの?」
月呼はそこで一般的なホストを思い浮かべようとしたが、有名な人物すら知らないため、頭がこんがらがった。なんとなくわかるのは、ある程度女性を惹きつける容姿の人が多い職業ということ。だったら、侑加はホストっぽくないのか。その違いがわからない。
「パートナーがホストなら女としても楽かもね。女より金を選んでくれそうだから。それに、あいつはブサイクじゃないから、一緒にいてもそこまで苦痛じゃないだろうし」
くるるの推測どおりだとすると、豆隆がパートナーというのは、女性参加者としていちばん運がいいのかもしれない。
「徳宿瑞麻。二十三歳。趣味は読書で、年間三百冊は読んでいます。ここには図書館があるようなので、どんな本があるのかが楽しみです」
「へー。そうなんだ」
月呼も図書館に興味をしめす。そこにエジプト考古学関連の本は所蔵されているのかと。
「浪本野利彦です。年齢は二十歳。人生で彼女がいたことはありません」
くるるがあまりにもゴリラゴリラというので、月呼の目にもゴリラに見えてくる。がっしりした体格をしていて、身長は侑加の次に高い。肌も日に焼けているので、現役でなにかのスポーツをしていそうだと、月呼は思った。
「橘高くるる。二十歳。趣味はない。このゲームでは三億円をもらうつもり」
くるるは頬杖をついて、面倒くさそうに話す。野利彦はそんな彼女を見て寂しそうにしていた。彼はくるるに気があるのかもしれない、と月呼は感じる。
「棚原前沙です。年齢は二十一歳。好きなサッカー選手は桟明日都――」
月呼の自己アピールは歯切れが悪いものとなった。トークに制限がなければエジプト考古学が好きと言うのに、と。ここでの自分の印象は普段とだいぶ違うのだろう。
「仙敷侑加。十九歳」
侑加の自己紹介はそれだけで終わる。
「きみ、かっこいいね。もしかして、芸能人の卵とか?」
豆隆がたずねた。
「いや」
侑加はそっけなく答える。自分といる時はまだ明るいのに、と月呼は侑加の態度の変わりぶりにどきどきとした。もしかしたらこの中でも自分には心を開いているのではないか――と。
「巽さん、その質問は愚問ね。そうだとしても、そうとは言えないのよ」
瑞麻が言った。芸能界にいれば侑加の外見は大いに活かされそうだが、芸能人ではなさそうと、月呼は思う。彼がテレビドラマでなにかの役を演じたり、ファンに愛嬌をふりまいたりする姿が想像できないのだ。
「そこの仙敷・棚原ペアはサクラっぽいなあ」
野利彦が言った。
「えっ!!」
月呼はすかさず侑加を見る。侑加は野利彦のセリフが聞こえていなかったかのように、無反応だ。
「ち、違いますよ!!」
月呼はテーブルを両手で叩いて立ち上がった。私はただの神戸市在住の女子大生なのに!と。
「ちょっと、容姿のいい人がサクラに見える理屈なら、そこにあたしも入れなさいよ。あたしだってかわいいだろーが。ああっ!?」
くるるが野利彦に向かって啖呵を切る。そして、すぐに月呼に向かって笑顔でウインクをした。本気で野利彦に怒っているわけではなく、月呼たちの味方をしてくれたようだ。
「サクラがいようが、どうだってよくない? 私たちが賞金を獲得するのを妨害されるわけじゃないんだから」
瑞麻が言った。
このレムリア・ゲームでは、パートナー以外の人間に恋愛感情をいだくのを禁止させられている。よって、パートナー以外の異性とむやみに接触するのは危険であり、自分のパートナーが他の参加者に奪われる、ということにもならない。パートナーとは本当の恋人どうしではなくとも、浮気が倫理に反する行為であるのは現実と同じである。
「乙丸湯江奈。二十歳。賞金が手に入ったら、海外旅行がしてみたい」
そう話す湯江奈の顔は青白い。月経痛は治っていなさそうだ。
「是洞気介。二十二歳。最初に言ったとおり、このゲームに参加するのは二回目だ。今回こそ賞金を獲得して、その金で豪遊がしたい」
気介を最後にして、十人の自己紹介は終わった。
月呼はいったん頭の中で整理する。最年長は豆隆で、最年少は侑加と慶迅。今の話だけではわからない部分だらけだが、参加者は基本的に賞金目当てでいる。
そこで、人数分の料理が運ばれてきた。パンにスープ、サラダなど、よくある洋食のメニューだ。彩りだけでなく、栄養バランスも考えられていることだろう。食事が強制されているのは、参加者の健康を気づかってのことかもしれない。栄養が偏った食生活で風邪をひいたりするようでは、ゲームにも支障が出ると。
「ねえ、是洞さん。前回のゲームについて話してくれない?」
瑞麻がちぎったパンを食べながら言った。
「そうよ。情報共有は大事よ」
くるるも同意する。
「それとも、事務局から話すのを止められている?」
「いや。好きに話していいって」
「きっと、賞金がもらえるのはうそじゃないと証人させるためね」
「それとも、リピーターというのは嘘で、是洞さんも運営側なのかな」
慶迅が疑いの目を向ける。
「違う!」
気介が立ち上がった。
「前回はいつ行われたの? その時も場所はここだった?」
依榛が質問する。
「前回は去年の夏だ。場所はこことはまた違う、別の無人島だった」
その事実に場はざわつく。無人島をふたつ以上所有しているとは、主宰者は一体どれだけの資産家なんだ、と。
「騙されたって、パートナーはよっぽどの美人だったの?」
依榛は質問を繰り返す。
「いや、どこにでもいる、普通の女だった」
「だったら、なんでその人を選んだのよ? どこにでもいるような女なら、日常でも出会えるでしょう?」
「別に人は顔がすべてじゃないだろ。俺、まったくモテなかったから、自分の話をあんなににこにこと聞いてくれる女は初めてで。この人を逃したら、一生こういう女性に出会えないんじゃないかっていう焦りが生まれたんだ。一週間という短さが、焦りを増幅させるんだよ」
月呼としては人が恋愛するのに七日間という日数では足りないと思っていたが、そのへんもきちんと考えられているようだ。
「向こうも俺のことが好きだと言ってくれた。両思いになってからは、俺たちは毎晩のように愛し合ったんだよ。相性も抜群だった。これは運命の出会いだって、本気で思ったんだ」
「ちょっと、ご飯時に聞きたくもない話をしないでよ! 気色が悪い!」
くるるが怒った。スープをスプーンですくおうとしていた月呼も、生々しい話に手が止まる。少し食欲を失った。
「彼女も俺のことが本当に好きだったのは間違いない。でも、最後の最後で金に目がくらんだんだと思う」
「……」
そこで月呼とくるるは目配せをする。それは気介の勘違いで、相手の女性ははなから惑わす気でいたのではないか、と。女の勘がそう思わせる。そこに気がつけないようでは、気介はこの先も女性関係で泣きを見そうだ。
湯江奈は気介を騙すつもりなのだろうか。湯江奈は気介の話をろくに聞いていなさそうで、表情が暗く、食事も進んでいない。そもそも、今は月経痛でろくに物事を考えられなさそうである。
月呼は五人の男性をそれぞれ見た。この中でだれとパートナーになりたいかと言われても、自分は侑加を選ぶだろう、と。顔が美しく生まれてくるだけでも奇跡的なことなのに、侑加はそのうえ全身のバランスもよく、そもそも骨格からして他の人と一線を画している。自分はやはりツキを呼ぶ月呼――と浮かれそうになったが、それは侑加に好感をおぼえればおぼえるほど、彼との別れが辛くなることを意味していた。
コメント
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第10話、読み終えました。自己紹介で各参加者の性格や思惑がじわじわ見えてくるのが楽しいですね。特に気介さんの“前回騙された”エピソードは切実で、このゲームの恋愛が“七日間という制限”でどう歪むのか、すごく考えさせられました。月呼が侑加に対して「ツキを呼ぶ」と浮かれそうになる一方で「別れが辛くなる」と自覚するところ、もう胸がぎゅっとなります…。設定の仕掛けがじわじわ効いてきて、次が気になります!