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氷の美女と冷血王子

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氷の美女と冷血王子

20 - この思いは止められない

♥

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2024年08月29日

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ウウゥーン。

思いきり伸びをして、ベッドサイドの携帯へ手を伸ばす。


12時30分。

カーテンの隙間から差し込む強い日差しから考えて、昼の時間。


そろそろ起きようかな。

せっかくのいい天気だから洗濯物でも干そう。

最近部屋干しばかりだから、たまにはお日様で乾かしたい。


誘拐騒動から1ヶ月が過ぎ、私の日常も以前に戻った。

体にはまだいくつかの傷跡が残っているし、悪い夢を見て眠れないこともあるけれど、なんとか平穏に毎日を過ごしている。

こうやって我慢していれば、いつかイヤな記憶も消えるはず。私はそう信じて日々を過ごしていた。


ピコン。

母さんからのメール。


『麗子、あなた最近全然食べれてないでしょ。できれば内科で見てもらいなさい』


なんだか、母さんの心配する声が聞こえてきそう。


『はいはい。時間があればね』


なんて言いながら、きっと行かないだろうな。

だって、原因はわかっているんだから。


色々あって鈴森商事を辞めた私は、今は母さんの店の手伝いをしている。

夕方から店に出て、深夜まで働き、昼過ぎまで寝て又夕方仕事に行く。

昼夜逆転のような生活だけれど、今の私にはそのくらいしかできることがない。

そう思ったらやるしかなかった。


もちろん、母さんは「しばらくゆっくりしなさい」と言ってくれたけれど、貧乏性の私にはできるはずもなく、こうして毎日働きに出ている。


はぁー、食欲ないな。

牛乳だけ飲もう。


***


ブーブーブー。


ん?


徹からの着信。

珍しいなこんな時間に。

時々メールが来ることはあっても着信は滅多にないし、ましてや平日の昼間。

もしかして、良くないことでも・・・


鳴り続ける携帯を手に、私は一瞬躊躇った。


怖いな。不安だな。


できることなら出たくない気もする。

でも、わざわざ徹がかけてくるって事は緊急事態かもしれないから、


「もしもし」

恐る恐る通話ボタンを押した。


『麗子か?』


「ええ」


私の携帯にかけたんだから、他に誰が出るって言うのよって、突っ込みを入れたい気持ちをグッとこらえた。


『麗子、落ち着いて聞けよ』


「どうしたの?」


どちらかというと、落ち着いて欲しいのは、徹あなたの方。


「孝太郎がケガをして、病院へ運ばれた」


えっ。


私の頭の中でキーンと耳鳴りのような音がして、目の前が霞んだ。


嘘、ウソだよね。

そんなはずはない。

孝太郎に、何かあるはずなんて、


「麗子・・・しっかりしろ、麗子」

遠くの方で徹の声がする。


「容体は?」

やっとの事で絞り出した言葉は、震えていた。


「重体だ。予断を許さない状態」


「そんな・・・」


イヤだ。

孝太郎がいなくなるなんてありえない。


「搬送先は中央病院だ。とにかく、行け」

それだけ言うと、電話は切れてしまった。


中央病院・・・中央病院

私は呪文のように繰り返しながら、携帯を握りしめて部屋を飛び出した。


***


お願い、どうか無事でいて。


今このまま彼がいなくなるなんて、酷すぎる。


私と違って、真面目に、ひたむきに、決して横着せずに、ちゃんと仕事をしてきた孝太郎は、これからもっともっと大きな仕事をして、鈴森商事を大きくしてくれるはず。

そう思ったから、私は彼から離れたのに。

私が側にいたら彼の足かせになると思ったから、こんなに苦しい思いをしてまで彼の元から去る決心をしたのに・・・


ウ、ウウウー。

ギュッと唇を結んで我慢していた声が、押さえられない。


ウウウウウー。


ここがタクシーの中でなかったら、大声を上げて泣いていただろう。

でも、今はまだ泣けない。


孝太郎の無事を確認するまでは我慢する。


こんな事で、私は負けない。

私はしぶといんだから。

そして、私以上に孝太郎はしぶとくて、強運の持ち主。

あんなに頑張って、一生懸命生きている孝太郎がいなくなるわけがない。

神様はきっと、助けてくれる。

そうじゃなければ、神も仏もあったものじゃない。


何があっても私は信じる。


孝太郎は大丈夫。

きっと大丈夫。

私が、死なせない。


止めどなく流れ落ちる涙を、もう止めるすべがなかった。


今だけ、ここだけ。病院に行ったら泣き止むから。


神様お願いします、孝太郎を助けてください。


***


タクシーで20分。

私は中央病院へ到着した。


「すみません、鈴木孝太郎は?」

まずは救急外来の受付で声をかける。


「鈴木さんですか?」

若い受付の女の子が、カチカチとパソコンを叩いて確認を取っている。


「あの、ケガをして運ばれたって聞きましたが・・・」


救急外来の待合は患者さんで溢れているし、さっきから救急車のサイレンも鳴り止まない。

区内でも大きな病院だから、患者さんも多いみたい。


「ああ、交通外傷の患者さんですね?」

「多分そうだと思います」


現場で仕事をするわけでもない孝太郎が、大きな怪我をするって言えば交通事故くらいしかないだろうから。

間違いないと思う。


「スズキコタロウさんは・・・オペ中ですね」

随分とあっさり言われ、私はフリーズした。


「緊急手術で・・・。今、ご案内できるスタッフを呼びますので少々お待ちください」

「はい」


どこかに捕まっていないと床に崩れ落ちてしまいそう。

立っていられないほどの衝撃が私を襲った。


しっかりしなくちゃ。

孝太郎はもっと辛いんだから、私はしっかりと立っていなくては。


グッと奥歯を噛みしめて、私は案内を待った。


***


「お待たせしました。ご案内します」

現れたのは40代に見える白衣の女性。ドクターかな?


私は、まるで雲の上を歩いているようだった。


自分の足が、自分のものでないようなフワフワした感覚。

それでも必死に力を入れて、女性の後に続いた。



「事故の詳細は聞いておられますか?」

「いえ、ケガをしたとだけ」

それ以上聞く余裕はなかった。


「スズキさんが運転していた車にトラックが突っ込んできたそうで、救出するのにも時間がかかったようです。こちらに搬送されてきたときには意識がありませんでした」


「そうですか・・・」


孝太郎は、きっと苦しんだろうな。

かわいそうに。


「失礼ですが、あなたはスズキさんの・・・」


どんな関係なのかと聞かれているらしい。


「友人です」


今はそうとしか言えない。


「えっ、ご友人ですか?」

とても不思議そうな顔をされた。


確かに、着の身着のまま飛び出してきたから、孝太郎とは釣り合わないと思われたのかもしれない。

しかたないわね。

不釣り合いなのは否定できない。


***


「こちらが手術室です。緊急手術ですのでまだ時間がかかると思いますが、ここで待たれますか?」

「はい」


今は少しでも孝太郎の近くにいたい。


「では、ここでお待ちください。その先には家族待合室もありますので良かったらご利用ください」

「はい」

「では」


背を向けて去ろうとする女性。


「あの、」

私は思いきって声をかけた。


「何でしょうか?」


「彼は、どんな状態なんでしょうか?」


一番聞きたくて、でも怖くて聞けないことをやっと口にした。

どんなに厳しい言葉でも、聞かないわけにはいかない。


「重篤な状態です。詳しくは執刀医から説明があると思いますが、覚悟をしておいていただいた方がいいと思います」

「そんな・・・」


「大丈夫ですか?」

「ええ」


「特に頭部の外傷が酷いので、たとえ命を取り留めても、意識が戻るかどうかはわかりません」

「ウソ・・・」


分かっていたはずなのに、やはりショックだった。

私は力尽き、近くの椅子に座り込んだ。


***


どの位経っただろうか、私の中で時間の感覚が無くなりつつある。


外の喧騒も何も聞こえない中、ただジーッと足元の床を見ていた。


このまま孝太郎に会えなくなったら、私はどうなるんだろう。

もっとたくさん話しをすればよかった。

こんなことなら、「あなたが好きです」と告白すればよかった。

私は、孝太郎のためならどんなことでもするのに。


ウッ。

泣かないと決心していたはずが・・・

不意に目の前の景色が揺れた。


孝太郎、お願いだから無事でいて。

たとえ動けなくてもいいから、もう一度私を見て。

今度こそわたしから、告白するから。



「すみません、スズキさんのご家族ですか?」

手に書類を持った事務員らしい女性に声をかけられた。


「いえ、友人ですが」


「ご友人ですか?」

とても不思議そうな顔。


「そうですが、何か?」


不釣り合いなのは自覚しているけれど、ここまであからさまに態度にだされては、私も気分が悪い。


「いえ、随分歳の差のあるご友人だなと」


え?


「あの・・・鈴木孝太郎の話しですよね?」


何か違和感が・・・


「ええ、スズキコタロウさんです」


ん、んん?


「鈴木孝太郎、ですよね?」


「ですから、スズキコタロウさん。85歳」


ええー。


違う。

私はそんな人、知らない。



「すみません、間違えたようです」


ひたすら頭をさげながら、私は叫び出しそうだった。


***


「大変申し訳ありませんでした」


先程の白衣の女性が再び現れ、私を外来へと案内してくれた。


「いえ、私もちゃんと確認しなかったのが悪かったんです」


緊急手術だ、重篤だと言われて気が動転してしまい周りが見えなくなっていた。

もう少しきちんと確認すべきだった。



「ではこちらでお待ちください」


白衣の女性は、申し訳なかったと孝太郎の所在を確認してくれて、一緒についてきてくれた。


「お世話になりました」


案内されたのは整形外科の外来。

ここにいるって言うことは、命に別状があるわけでは無いと思う。

しかし、一度重篤だと思ってしまった気持ちは元気な孝太郎の姿を見るまで落ち着かない。


・・・10分後。


「ありがとうございました」


診察室のドアが開き、出てきたスーツ姿の男性。

その背中を見た瞬間、私は涙が溢れてきた。


「・・・麗子?」

逆に驚いた顔をした彼が私に歩み寄る。


「こぅたっろー」

嗚咽まじりに名前を呼ぶと、私は彼に抱きついた。


「なんだ、どうしたんだよ?」


この声も、匂いも、ぬくもりも全てが大好き。

もう気持ちの歯止めはきかなかった。

ただ愛おしくて、離れたくない。


***


「どうした?」

私以上に驚いた表情の孝太郎が、優しくトントンと背中を叩く。


そのリズムが気持ちよくて、私は孝太郎に体を預けた。


「何があった?」

そう問う声は、とても優しい。


「徹から孝太郎がケガをして病院へ運ばれたって連絡があって、来てみたら緊急手術中で、重篤な状態だって言われて・・・私・・・もう孝太郎に会えないのかと思って・・・」

後から後から溢れ出る涙は、孝太郎の高級スーツに染み込んでいく。


こんなに泣きじゃくったのはいつぶりだろう、思い出せないくらい遙か昔のこと。

恥も外聞もなく、私は泣き続けた。


「安心しろ、俺は元気だ。今日は定期受診に来ただけで、トラブルに巻き込まれたわけじゃない。お前は、徹に担がれたんだよ」

「え?」


孝太郎に言う通り、今日は1ヶ月前の騒動で負った肋骨骨折の定期受診だった。

骨折と言っても、キブスがあるわけでも行動制限があるわけでもなく、日にち薬みたいなケガは週に1度の通院で経過観察となっていた。


「本当に大丈夫なの?」


それでも骨折と聞けば心配になる私。

しかし、


「たった1ヶ月でこんなに小さくなってしまったお前に言いわれてもなあ」

意地悪い視線と共に言い返されれば、黙るしかない。


「お前は、俺のことを心配して駆けつけてくれたんだな?」


「うん。まあ」

ここまで派手に抱き付いたからには、言い訳はできない。


「麗子」


頭の上から名前を呼ばれ、私は顔を上げた。


「もう、無理だ。お前のために、お前のことを思って、必死にいい人を演じようとしたが、限界だ。俺は、どれだけ嫌われても、お前のことを離したくない。結果的にそのことがお前を苦しめることになっても、もう諦めることはできない」


「・・・孝太郎」


病院の外来待合なんて人の多いところで、私は告白を受けている。

周囲からの視線と、場違いな感じは否めないが、それ以上に幸せな気持ち。

だって、

私も孝太郎のことが好きなんだもの。


***


「孝太郎、私もあなたが好きよ」

自分でも驚くくらい素直に言えた。


1度は孝太郎に会えなくなると思ったからだろうか、躊躇う気持ちはなかった。

人生なんて一度きり。

いつどうなるかわからない人生なら、後悔なく生きよう。

そう思えた。


ギュッ。

孝太郎が私の体を強く抱きしめる。


私も、孝太郎の背中に手を回した。


「俺も、お前が好きだ。愛している」


この気持ちにはもう抗えない。

どんなに抵抗しても、私達はお互いの気持ちに気づいてしまったんだから。



「はあぁー、安心したらお腹すいたな」

「え?」


「飯行くか?ご馳走する」

「でも・・・」


昼食のお誘いはうれしいけれど、化粧もしていないし、ほぼ近所のコンビニにでも行く格好。

緊張して味もわからないような高級店は遠慮したい。


「安心しろ。近くに旨いラーメン屋があるんだ」

「えっ、ラーメン?」

「ああ、嫌いか?」

「いいえ」

孝太郎がラーメンを食べている姿が想像できないだけ。


「ラーメンだって、お茶漬けだって食うぞ」

ふてくされ気味にむくれる孝太郎が、とてもかわいい。


「ほら、行くぞ」

ギュッと手を握られ、私達は再び歩き出した。


氷の美女と冷血王子

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