テラーノベル
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その日の夕方、いよいよ肝心の要件に向き合う事となった。
私とレティはアルフォンス様の執務室に向かい、ソファに腰かける。
執事がお茶とお茶菓子を出したあと、室内には私たち三人だけになった。
「こたび、二人を呼んだのには理由がある。フェリシテには以前、機会があった時に伝えたのだが、レティシアにこの指輪を見てほしかった」
そう言って、アルフォンス様は右手を差しだす。
レティは指輪に嵌まっている赤い石をしげしげと見る。
「外していただける事は可能ですか?」
レティには何か見えるのか、彼女は目を眇めて指輪に顔を近づける。
「いや、一度着けたら次の継承者に譲るまで外せない」
ただ事ではない言葉を聞き、レティは表情を引き締める。
「失礼ですが、お隣に座って見させていただいても?」
「構わない」
アルフォンス様の許可をもらったレティは彼の隣に腰かけ、真剣な表情で指輪を見る。
「……なんて禍々しい魔力。……これは人間が作った物ではありませんね。呪物と思われます」
さすが聖女と言うべきか、レティは何も教えずとも指輪の本質を言い当てた。
「その通りだ。この指輪には魔王の魔力が込められている」
「魔王ですって!?」
レティは声を上げて口に手をやり、不安と怯え、困惑で彩られた顔で尋ねた。
「……フェリは事情を知っているようですし、私にも詳細を説明していただけませんか?」
言われて、アルフォンス様は代々の皇帝が受け継いできた負の遺産について語り始めた。
レティは興味津々という顔で話を聞いていたものの、次第に自分に何を期待されているか察して、表情を険しくさせていく。
すべて聞き終わったあと、レティは眉間に皺を刻んで黙り込んだ。
「難しいのは分かる。……だがこの呪いを今代で終わらせるためにも、なんとかできないだろうか。無論、相応の礼はする」
「じゃあ、私と結婚してください」
レティが出した条件を聞き、私とアルフォンス様は目を見開いた。
彼女は私の存在を無視し、目に熱っぽい光を宿して自身の想いを語る。
「私、ずっとアルフォンス様をお慕いしていました。あなたが可哀想なフェリに同情し、よく構っていた事は理解していますが、この想いを譲る事はできません」
私はレティの言葉を聞いて絶句した。
(同情って……)
ジョゼが苦言を呈そうとした時もだけれど、今までレティの言動に思うところがなかった訳ではない。
けれどここまでハッキリと「可哀想な」「同情」という言葉を使い、私が自分よりも劣っている存在だと表明したのは初めてだった。
(アルフォンス様を前にしているから? カール様の後押しがあるから、今なら結婚できると思っているの? 抜け駆けした私への仕返し?)
レティを包んでいた〝完璧な聖女〟のメッキが剥がれてきたように感じ、私は狼狽する。
「アルフォンス様のお気持ちが私にない事ぐらい分かっていますわ。……ですから、聖女としてお役目を果たせたら、代わりに結婚していただきたいのです」
自信に溢れたレティの表情は、生き生きとしていて美しい。
けれど私は違和感を抱いていた。
――レティってこんな人だったっけ?
確かに私たちは双子として生まれながらも、聖女と〝ハズレ姫〟として道を違えた。
けれど、基本的に姉妹仲は良かったはずだ。
私が陰口を叩かれていると知った時、レティは自分の事のように怒ってくれた。
――あれは演技だったの?
――いざという時は私を捨てて、好きな人を択るの?
そう思ったけれど、自分がまったく同じ選択をしたのを思いだし、溜め息をつく。
(アルフォンス様に求婚されたからといって、思い上がっていた。好きな人と一緒に生きたいと願うのは私だけじゃないわ。それに、私が公務に参加しなくなって距離ができたあと、レティだって色々思ったかもしれない)
私は自分に言い聞かせ、ドレスをギュッと握る。
アルフォンス様は少しの間、驚いたようにレティを見ていたけれど、小さく息を吐いて言った。
「それには応えられない。皇帝として聖女に依頼した件と、結婚は別の話だ。口約束で軽々に結婚相手を決める事はできない」
「では、このお話は――」
悔しさを表情に滲ませたレティが口を開いた時、アルフォンス様は冷ややかに言った。
「皆が絶賛する聖女が、私利私欲にまみれた者だったとはな。失望した」
その言葉を聞き、レティは目を見開いて憤慨した。
「なんですって!?」