テラーノベル
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けれどアルフォンス様は表情を厳しく引き締め、言葉を続ける。
「聞く限り、君は孤児院への慰問や、負傷兵への慰問、高齢の者が集まる〝癒しの屋敷〟では無償で聖女の力を使っていた。他国の王侯貴族に依頼された時も〝聖女基金〟へ入金する代わりに力を行使してきた」
〝聖女基金〟とは戦争や自然災害など、有事の時にシャレット聖王国が自国の民を救うため、または他国に支援するために作られたものだ。
聖女の恩恵に授かる代わり、財ある者は一定の額を〝聖女基金〟に収める事になっている。
聖女の力を利用したビジネスと言っていいけれど、教会だってお布施をもらっている訳だし、何事も無償でやっていてはバランスが崩れてしまう。
「……それが何か?」
レティは強張った表情で尋ねる。
「俺は正当な対価を用意すると言ったのに、君は条件をチラつかせ『言う事を聞かなければ力を使わない』と脅した。……だから、打算ありきの〝聖女〟なのかと落胆しただけだ」
アルフォンス様の言葉を聞き、レティはカァッと頬を赤らめる。
「~~~~っ、仕方がないではありませんか! それでなければあなたは私を見ず、可哀想なフェリばかり構うんですもの!」
私は呆然としてレティの本音を聞く。
「君たちは仲のいい双子だと思っていた。フェリシテは俺の前で君を羨む事はあれど、悪く言った事などなかった。彼女は自分の立場をわきまえているからこそ、もっと善い人になりたいと理想を抱いている。……なのに君はなんだ? 聖女ともてはやされているから、さぞ立派な女性なのかと思えば、情けない」
失望した目で見られたレティは、荒っぽい息を吐いたあと、キッとアルフォンス様を睨んだ。
「……呪いを解いたら、無礼な言葉を撤回してくださいませ。これは条件ではありません。聖女であり、シャレット聖王国第一王女への暴言に、謝罪を要求するのは当然の事です」
「約束しよう」
アルフォンス様が承諾したあと、レティはいまだ怒りの滲んだ表情で彼の右手を見る。
それから深呼吸をして気持ちを落ち着けると、両手を指輪の上にかざして意識を集中し始めた。
私には何も見えないけれど、レティは聖なる力を高めているのだろう。
祝福や癒やしの力に影響を受け、室内に飾られてある花が変化し始めた。
花々はさらに鮮やかな色になり、頭を上げて茎や葉をピンと伸ばす。
(レティが凄いのは知っていたけど、流石だわ……)
姉が聖女である事に色んな思いはあれど、彼女が本物なのは事実だ。
近年は外交に同行していなかった分、私は久しぶりに聖女の力を目の当たりにして感動すら覚えていた。
けれど――。
「あっ」
レティが声を上げたのを聞き、私はハッと彼女を見る。
「大丈夫か?」
アルフォンス様に声を掛けられても、表情を歪めたレティは息を荒げて何も言えずにいる。
「どうしたの? レティ」
おずおずと尋ねると、彼女は強張った表情でアルフォンス様の指輪を見る。
「……まず、この指輪に掛かっている呪い……、術式はとんでもなく複雑で厄介です。細い糸で複雑な模様が描かれた刺繍が、何層にも重なっている様子を想像してください。……普通の呪いなら、難しくても一層か二層ぐらいで済みますし、術の絡み具合もさほど難しくありません。……人間がかけた呪いなら、人間が理解して解くのは当然のことです。……ですが魔王の術を人間が理解する事は不可能です」
レティは先ほどまでの態度とは打って変わって、聖女として解説していく。
想像の遙か上を行く呪いを目の当たりにしたレティは、自分の力がまったく及ばない事にショックを受けているようだった。
「……そうか」
アルフォンス様は溜め息をつき、指輪の石を撫でる。
レティはさらに言う。
「……アルフォンス様は巨大な力を持つ皇帝陛下です。選ばれた者のみが通える帝都の中央大学の大学院まで進み、魔術に関する論文を幾つも書かれましたよね? そのあなたがこの指輪の術式に気づいていない訳がありません」
彼女の様子を見て、私は内心で首を傾げる。
(レティ、怒ってる? なんだか様子が……)
責めるような様子を見てハラハラしていると、アルフォンス様は溜め息をつき首を左右に振った。
「可能なら指輪を魔術解析していた。俺がこの指輪を継承する前は、父上が身につけていた訳だが、呪いの影響を受けた父上に敵視されていたから、継承するまで指輪を間近に見られなかった。皇帝になったあと、何度も指輪の術式を解析しようとしたが、そのたびに呪いに意識を弾かれて昏倒していた。……そのうち臣下に『おやめください』と懇願され、今に至る」
「そんな……」
私は初めて聞いた事に溜め息をつく。
アルフォンス様の事だから、心配させないように手紙には書かなかったのだろう。
とはいえ、彼が頑張っていたのに応援すらできなかったのは悔しい。
「そんな危険な物を、私にどうかさせようと思っていたのですか!?」
レティが突っかかるように言い、私はオロオロして二人を見守る。
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#虐げられヒロイン
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